猫は自分の弱みを隠す天才といわれる動物です。野生時代の名残もあり、体に痛みや不調があっても、ギリギリまで平気なふりをして過ごす傾向があります。
そのため、飼い主が「あれ?なんだか今日はおかしいな」と気づいた時には、すでに病気が進行しているケースも少なくありません。
言葉を話せない愛猫が発する数少ないサイン。その中でも、一日の大半を費やす「睡眠時の姿勢」には、体調の良し悪しが顕著に表れます。
「いつもと同じように寝ているけれど、どこか違和感がある」という飼い主様の直感は、往々にして正しいものです。
本記事では、猫がしんどい時に見せる特有の寝方や、見逃してはいけない体調不良のサインについて、詳しく解説していきます。
もくじ
猫の寝相でわかる「安心」と「警戒・不調」の境界線
猫の寝相は、その時のリラックス度合いや体調、周囲の温度を映し出す鏡のようなものです。
まずは、健康な状態で見せる「安心しきった寝方」と、心身に何らかの負担がかかっている際に見せる「不調の可能性がある寝方」の違いを整理しましょう。
以下の表は、猫の寝相と状態の関係をまとめたものです。
| 寝相・姿勢 | 状態の目安 | 主な特徴・理由 |
| ヘソ天(お腹を見せる) | 非常にリラックス | 急所である腹部を晒すのは、100%の安心感がある証拠です。 |
| 横向き(四肢を投げ出す) | リラックス・熟睡 | 筋肉の緊張が解け、深い眠りについている状態です。 |
| アンモニャイト(丸まる) | リラックス・保温 | 体温を逃さないための姿勢ですが、過度に丸まる場合は寒さや腹痛の可能性もあります。 |
| 香箱座り(手足を畳む) | 休息(中程度) | すぐに動ける姿勢でありつつ、リラックスもしている状態です。 |
| スフィンクス座り | 警戒・苦痛の可能性 | 腹部を床につけ、頭を下げない。呼吸が苦しい時や腹痛時に見られます。 |
| 壁や隅を向いて座り込む | 強い不調・疼痛 | 外部からの刺激を遮断し、痛みに耐えている可能性が高いサインです。 |
このように、「お腹を見せていない」「手足が常に接地している」「頭を上げたままである」といった状態が続く場合は、リラックスできていない、つまり体に痛みや違和感がある可能性を疑う必要があります。
猫がしんどい時に見せる具体的な4つの寝方
愛猫が体調を崩しているとき、具体的にどのような姿勢をとるのでしょうか。ここでは、特に注意が必要な4つの寝方(姿勢)について詳しく解説します。
1. 「低すぎる香箱座り」または「常にうずくまっている」
猫の代名詞ともいえる香箱座りですが、健康な時と不調な時では微妙に形が異なります。
健康な時は、耳をゆったりと動かし、表情も穏やかです。しかし、どこかに痛みがある時は、背中を丸めてギュッと縮こまり、首をすくめるような姿勢をとります。
また、通常であれば香箱座りから徐々に横に倒れてリラックスしますが、数時間ずっと同じ姿勢でうずくまっている場合は、体を横にすることすら痛い、あるいは苦痛であるサインです。
特に腹痛がある場合、お腹を床に押し付けるのを嫌がり、少し浮かせたような不自然な姿勢をとることがあります。
2. 「首を長く伸ばして」寝ようとしている
猫が横にならず、座ったままの姿勢で首を前方や上方に伸ばしている場合、胸部に何らかのトラブルがあり、呼吸が苦しい可能性が極めて高いです。
呼吸が浅く、速くなっていることはありませんか?首を伸ばすのは、少しでも気道を確保し、呼吸を楽にしようとする本能的な行動です。
この姿勢のまま寝落ちそうになってはハッと起きる、という動作を繰り返している場合は、横になると肺が圧迫されてさらに苦しくなるため、眠りたくても眠れない状態にあります。
これは緊急事態といえます。
3. 「頭を壁に押し付ける」ような姿勢(ヘッドプレス)
寝ているというよりは、壁や家具に頭を押し付けたままじっとしている場合、これは「ヘッドプレス」と呼ばれる非常に危険なサインである可能性があります。
肝機能の低下(肝不全)や脳の疾患、中毒症状などが原因で、意識が朦朧としていたり、頭痛や不快感が強かったりする際に見られる行動です。
「寝ているのかな?」と見過ごされがちですが、呼びかけに対する反応が鈍い場合は、一刻を争う事態かもしれません。
4. 「暗くて狭い場所」から出てこない
普段はリビングのソファーやキャットタワーで寝ている猫が、急にクローゼットの奥や洗濯機の裏、家具の隙間など、飼い主の手が届きにくい暗くて狭い場所に隠れて寝るようになったら要注意です。
動物にとって、体調が悪い時に外敵から身を守るために身を隠すのは本能です。
「一人で静かに痛みに耐えようとしている」状態であり、食欲不振や元気の消失を伴うことがほとんどです。
寝方とセットで確認したい「危険なサイン」
姿勢の変化に加えて、以下のバイタルサイン(生命の兆候)をチェックすることで、緊急性をより正確に判断できます。
「寝相の変化 + 以下のサイン」が見られたら、迷わず獣医師に相談してください。
呼吸の状態(回数と深さ)
猫がリラックスして寝ている時の呼吸数は、1分間に20〜30回程度です。
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1分間に40回を超える速い呼吸をしている
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口を閉じたまま「ハッハッ」と肩で息をしている(腹式呼吸)
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呼吸に合わせてお腹が大きく波打っている
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口を開けて呼吸している(開口呼吸)
特に開口呼吸は、猫にとって「溺れている」のと同じくらい苦しい状態です。
猫が口で息をするのは、非常に危険な末期症状の一つであることを覚えておいてください。
顔つきと耳・鼻の状態
寝ている時の顔をそっと観察してみましょう。
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瞬膜(目頭にある白い膜)が出たままになっている
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瞳孔が異常に開いている、あるいは閉じている
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耳が常に横を向いている(イカ耳の状態)
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鼻が乾ききっている、あるいは異常に熱い(発熱の可能性)
不調な時の猫は、どことなく「険しい顔」をして寝ています。
眉間に力が入っているような、あるいは生気のない表情をしていたら、それはリラックスした睡眠ではありません。
飼い主が記録しておくべき「受診のための情報」
病院に連れて行く際、「なんとなく元気がない」と伝えるだけでは、診断に時間がかかることがあります。獣医師に正確な状況を伝えるために、以下の3点を準備しましょう。
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スマホでの動画撮影: 最も重要な情報です。不自然な寝方、呼吸の様子、歩き方などを30秒程度動画に収めてください。
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排泄物の写真: 下痢や嘔吐がある場合は、その現物や写真を持参します。尿の回数や色の変化もメモしておきましょう。
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普段との違いを箇条書きに: 「いつから」「どの場所で」「何時間くらい」変化があったかを整理します。
獣医師は診察室での猫の状態(緊張している状態)しか見ることができません。
自宅での「いつものリラックスした姿」と「今のしんどそうな姿」の対比を動画で見せることが、早期発見の最大の鍵となります。
【緊急度別】病院へ行くべきタイミングの判断基準
「明日の朝まで待って大丈夫だろうか」という迷いは、全ての飼い主様が経験するものです。以下の基準を参考にしてください。
| 緊急度 | 状況・サイン | 対処法 |
| 【緊急・今すぐ】 | 口を開けて呼吸、舌が青紫(チアノーゼ)、意識がない、激しい痙攣、何度も嘔吐を繰り返す | 夜間であっても救急病院へ連絡してください。 |
| 【早急・当日中】 | 半日以上食事を摂らない、明らかに元気がなく隠れ続けている、排尿が出ていない | その日の診察時間内に必ず受診してください。 |
| 【経過観察・翌日】 | 食欲はあるが寝る時間が長い、鼻水や目やにが少し出ている、寝相が少し変わった | 翌朝一番での受診を検討し、夜間は安静にさせます。 |
「何か変だ」と感じたとき、その直感が外れることは少ないです。もし受診して「何でもありませんでしたね」と言われたなら、それは最高のニュースです。
愛猫の命を守るために、躊躇せずにプロの判断を仰いでください。
よくある質問
Q:老猫がずっと寝ているのですが、病気でしょうか?
A:シニア期に入ると睡眠時間は長くなります(1日18〜20時間ほど)。しかし、「熟睡できているか」が重要です。寝ている場所が急に変わったり、呼びかけても耳すら動かさなかったり、寝起きの動作が極端に遅い場合は、関節の痛みや内臓疾患が隠れていることがあります。定期的な健康診断を推奨します。
Q:冬場に丸まって寝ているのは、しんどいサインですか?
A:多くの場合、体温を逃さないための正常な行動です。ただし、丸まっている際にお腹の筋肉がピクピクと痙攣していたり、触ろうとすると怒ったりする場合は、腹痛(尿路結石や胃腸炎など)を隠している可能性があります。室温を25度前後に調整しても姿勢が変わらないか確認してください。
Q:寝ている時にいびきをかくのは大丈夫ですか?
A:短頭種(ペルシャやエキゾチックショートヘアなど)は構造上いびきをかきやすいですが、急にいびきをかくようになった、あるいは音が大きくなった場合は注意が必要です。鼻腔内の腫瘍や心筋症による肺水腫などが原因で、呼吸がしづらくなっているサインかもしれません。
まとめ
愛猫が「しんどい」と感じているとき、彼らにできるのは静かに耐えることだけです。
その苦しみにいち早く気づき、手を差し伸べられるのは、世界でたった一人の飼い主であるあなたしかいません。
いつもと違う寝方。それは愛猫からの切実なメッセージかもしれません。
少しでも不安を感じたら、その直感を信じて行動してください。あなたの素早い判断が、大切な家族の命を救うことにつながります。




























猫がしんどい時は、お腹を隠して丸まる、あるいは頭を下げないスフィンクス座りで耐えることが多い。
呼吸が速い、首を長く伸ばして寝る、開口呼吸をしている場合は命に関わる緊急事態である。
暗くて狭い場所に隠れて出てこないのは、強い痛みや不調を感じている「無言のSOS」である。
「ヘッドプレス」や「瞬膜の露出」など、寝方とセットで見られる異常サインを見逃さない。
異常を感じたらスマホで動画を撮り、速やかに獣医師の診察を受ける。