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犬のくしゃみが止まらない原因と対策を獣医学的視点で解説|病院に行くべきサインとは

犬のくしゃみが止まらない原因と対策を獣医学的視点で解説|病院に行くべきサインとは

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愛犬が突然「プシュン!」とくしゃみを連発し、なかなか止まらない様子を見ると、飼い主としては「風邪を引いたのかな?」「何か大きな病気が隠れているのでは?」と不安になるものです。

犬のくしゃみは、人間と同じように鼻の粘膜に刺激を受けた際の生理的な反射である場合がほとんどですが、中には命に関わる重大な疾患や、激しい痛みを伴う病気のサインであることも少なくありません。

特に、くしゃみが何日も続いたり、鼻水に色がついていたり、時には鼻血が混じったりする場合は、早期の対応が愛犬の寿命やQOL(生活の質)を大きく左右します。

この記事では、犬がくしゃみをする原因から、見逃してはいけない危険なサイン、そして多くの飼い主を驚かせる「逆くしゃみ」の正体まで、詳しく解説していきます。

愛犬の様子を思い浮かべながら、読み進めてみてください。

 

犬のくしゃみ:病院に行くべきかどうかの判断基準

犬のくしゃみ:病院に行くべきかどうかの判断基準

愛犬のくしゃみが一時的なものなのか、それとも動物病院を受診すべき深刻な状態なのかを判断することは、家庭での最初のステップです。

犬は言葉で痛みを伝えられないため、飼い主による観察が最大の診断材料となります。

以下の表は、くしゃみの様子から推測される緊急度をまとめたものです。

愛犬の症状がどちらに該当するか確認してみましょう。

 

緊急度 くしゃみの特徴 併発している症状 推奨される対応
低(様子見) 単発(1〜2回)で終わる 元気・食欲があり、鼻水は透明でサラサラ 2〜3日経過を観察
中(要受診) 1日に何度も繰り返す 黄色い鼻水、目やに、頻繁に顔をこする 数日以内に動物病院へ
高(即受診) 激しい連発、止まらない 鼻血、顔の腫れ、呼吸が苦しそう、食欲不振 当日中に動物病院へ

 

この表にあるように、単なる生理現象であればそれほど心配はいりませんが、「鼻血」「色のついた鼻水」「顔の変形」が見られる場合は、一刻を争う事態である可能性が高いと言えます。

次に、具体的なケースごとに「様子を見て良い場合」と「受診が必要な場合」を詳しく見ていきましょう。

 

様子を見て良いケース:生理的なくしゃみ

犬も人間と同様に、空気中のわずかな刺激に対して敏感に反応します。

以下のような状況で起こる一時的なくしゃみは、多くの場合、鼻の中に入った異物を外に出そうとする正常な防御反応です。

 

  • 散歩中の草むらや土の匂いを嗅いだ直後

  • 家の中のホコリや、スプレー式の芳香剤・殺虫剤を吸い込んだ時

  • 冷たい空気に触れた温度差による刺激

  • 興奮したり、遊んだりしている時の「嬉し泣き」ならぬ「嬉しくしゃみ」

 

これらは、その場の刺激がなくなれば自然と収まります。

食欲や元気に変化がなく、鼻水が透明であれば、慌てて病院に駆け込む必要はありません。

 

即受診が必要な緊急サイン:見逃せない病気の予兆

一方で、以下のような症状が一つでも当てはまる場合は、背後に慢性的な炎症や腫瘍、感染症が隠れている可能性が極めて高いです。

特に鼻血が混じるくしゃみは、高齢犬においては悪性腫瘍(がん)の代表的な症状の一つです。

また、顔を前足でしきりにこすったり、壁に鼻を押し付けたりする仕草は、鼻の奥に激しい違和感や痛みがあるサインです。

鼻水の色にも注目してください。

透明でサラサラした状態から、ドロッとした黄色や緑色の膿のような鼻水(膿性鼻汁)に変わった場合は、細菌感染が深刻化している証拠です。

「ただの風邪だろう」と放置せず、早めに専門医の診断を受けるようにしてください。

 

犬のくしゃみが止まらない主な原因

犬のくしゃみが止まらない主な原因

犬がくしゃみを繰り返す原因は多岐にわたります。

これらは単なる「鼻の不調」だけでなく、口腔内(口の中)の問題や、ウイルス感染、さらには免疫系の異常まで関連しています。

ここでは、代表的な5つの原因について解説します。

 

1. ウイルス・細菌感染症(ケンネルコフなど)

「犬風邪」とも呼ばれるケンネルコフ(犬伝染性気管気管支炎)は、子犬や免疫力が低下した犬に多く見られます。

くしゃみだけでなく、乾いたような咳や発熱、目やにを伴うのが特徴です。

多頭飼育の環境やドッグランなどで感染しやすく、放置すると肺炎に移行して命に関わることもあるため注意が必要です。

定期的な混合ワクチンの接種で予防できるものも多いため、予防歴を確認しておきましょう。

 

2. アレルギー性鼻炎

ハウスダスト、花粉、カビ、あるいは特定の食べ物に対するアレルギー反応としてくしゃみが出ることがあります。

季節によって症状が変わる場合や、特定の部屋に入るとくしゃみが出る場合は、アレルギーを疑います。

アレルギーの場合は、くしゃみ以外にも皮膚の痒みや赤み、耳の汚れ(外耳炎)を併発することが多いのが特徴です。

 

3. 歯周病(口腔鼻腔瘻)

意外に思われるかもしれませんが、シニア犬のくしゃみの原因で非常に多いのが「歯」の問題です。

重度の歯周病によって歯の根っこ(歯根)に膿がたまると、その炎症がすぐ上にある鼻腔の骨を溶かし、口と鼻が貫通してしまう「口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)」という状態になります。

口の中の細菌や食べかすが鼻に入り込むため、激しく連続したくしゃみや、片側からの膿性鼻汁が出ます。

この場合、鼻の治療だけをしても治らず、根本的な原因である抜歯などの歯科処置が必要となります。

 

4. 鼻腔内腫瘍(がん)

高齢犬で特に注意したいのが、鼻の中にできる腫瘍です。

初期段階では「なんとなくくしゃみが増えた」「時々鼻水が出る」程度の症状ですが、進行すると鼻血が出たり、鼻の骨が変形して顔が腫れたりします。

鼻腔内腫瘍は外側からは見えないため発見が遅れがちですが、片側の鼻からだけ症状が出る、あるいは片側の目から涙が出る(鼻涙管の圧迫)といった特徴があります。

 

5. 異物の混入

散歩中に草の種や小さな枯れ葉、あるいは吐いた食べ物が逆流して鼻の奥に入り込んでしまうことがあります。

この場合、犬は突然、狂ったように激しくくしゃみを連発し、パニックになることもあります。

異物が奥深くに入ってしまうと自力で出すことは不可能であり、内視鏡などを用いた摘出が必要になります。

 

特殊な現象「逆くしゃみ」:その正体と対処法

特殊な現象「逆くしゃみ」:その正体と対処法

多くの飼い主が「呼吸が止まってしまった!」「苦しそう!」とパニックになるのが、通称「逆くしゃみ」と呼ばれる現象です。

これは通常のくしゃみが空気を「外に強く出す」のに対し、逆に空気を「激しく吸い込む」動作を繰り返すものです。

「ブーブー」「ズズズッ」と鼻をすするような大きな音を出し、首を伸ばして一生懸命に呼吸をしているように見えます。

見た目は非常に苦しそうですが、逆くしゃみ自体は病気ではなく、生理的な発作の一種であると考えられています。

以下に、普通のくしゃみと逆くしゃみの違いをまとめました。

 

項目 普通のくしゃみ 逆くしゃみ
空気の流れ 外へ勢いよく吐き出す 内へ激しく吸い込む
音の特徴 「プシュン!」「ハクション!」 「ブーブー」「ガフガフ」
持続時間 一瞬(連発することもある) 数十秒〜1分程度続く
危険性 病気のサインの可能性がある 基本的には無害な生理現象

 

逆くしゃみは、特にチワワ、トイ・プードル、パグ、フレンチ・ブルドッグなどの小型犬や短頭種によく見られます。

多くの場合、数分以内に自然と収まり、その直後には何事もなかったかのように元気に戻ります。

発作が起きた時の対処法としては、喉のあたりを優しく撫でてあげたり、鼻先にふっと息を吹きかけたりして、唾液を飲み込ませるように促すと止まりやすくなります。

ただし、1日に何度も繰り返す場合や、数分経っても止まらない場合は、鼻の奥にポリープや疾患が隠れている可能性があるため、一度動画を撮って獣医師に見せることをおすすめします。

 

年齢・犬種別のくしゃみリスク

年齢・犬種別のくしゃみリスク

愛犬の年齢や犬種によって、くしゃみの背後に隠れているリスクは大きく異なります。

それぞれの特徴を理解しておくことで、異変にいち早く気づくことができます。

 

子犬期:感染症への警戒

子犬のくしゃみで最も警戒すべきは、前述したケンネルコフや犬ジステンパーなどのウイルス・細菌感染症です。

子犬は免疫力が弱いため、ただのくしゃみが数日で命に関わる重篤な肺炎へ進行することがあります。

新しい環境に迎えたばかりの子犬がくしゃみを始めたら、すぐに動物病院を受診しましょう。

また、先天的に鼻の構造に問題がある(軟口蓋過長症など)場合も、くしゃみや呼吸の異常として現れることがあります。

 

成犬期:アレルギーと異物

成犬では、環境への適応が進んでいる一方で、散歩中の異物混入やアレルギー性鼻炎の発症が増える時期です。

特に草むらに入るのが好きな犬や、活発に動く犬は、物理的な刺激によるくしゃみが多くなります。

特定の季節や特定の場所で症状が出るかどうかを日記につけておくと、診断の大きな助けになります。

 

老犬期:腫瘍と歯周病

シニア期(7歳以降)に入ると、くしゃみの原因は一気に深刻さを増します。

この時期のくしゃみで最も注意したいのは「鼻腔内腫瘍」と「重度の歯周病」です。

老化による免疫力低下で慢性鼻炎になりやすいだけでなく、がんのリスクが急上昇します。

「年だから鼻水くらい出るだろう」と見過ごすと、気づいた時には手遅れになっているケースも少なくありません。

特に、片側からだけ鼻水が出る、寝ている時に鼻が詰まったような音がするといった変化は、シニア犬にとって非常に重要な警告信号です。

 

家庭でできる予防と環境改善

家庭でできる予防と環境改善

病気が原因でない場合、あるいは治療と並行して行うべきなのが、生活環境の改善です。

犬の鼻は人間の数千倍から数億倍も敏感であり、私たちには気にならない程度の刺激が、愛犬にとっては激しいストレスや炎症の元になっていることがあります。

以下のステップで、愛犬に優しい環境を整えてあげましょう。

 

  • こまめな掃除と換気

    ハウスダストやダニ、花粉はアレルギー性鼻炎の主な原因です。HEPAフィルター搭載の掃除機を使用し、布製のクッションや毛布は頻繁に洗濯しましょう。

  • 刺激物の排除

    芳香剤、香水、タバコの煙、スプレー式の消臭剤などは鼻の粘膜を強く刺激します。愛犬がいる部屋での使用は避け、無香料のものを選ぶなどの配慮が必要です。

  • 湿度と温度の管理

    空気が乾燥すると鼻の粘膜が傷つきやすく、ウイルスに感染しやすくなります。冬場は加湿器を利用し、湿度は50〜60%を保つように心がけてください。

  • 口腔ケアの徹底

    歯周病由来のくしゃみを防ぐには、毎日の歯磨きが唯一にして最大の予防法です。すでに歯石がついている場合は、病院でのスケーリング(歯石除去)を検討しましょう。

 

これらの対策は、「病気になる前」から始めることが最も効果的です。

環境を整えることは、くしゃみの軽減だけでなく、愛犬のストレスを減らし、長生きさせるための基盤となります。

 

よくある質問

よくある質問

くしゃみに関して、多くの飼い主様から寄せられる疑問をQ&A形式でまとめました。

 

Q:くしゃみをする時に鼻血が出たのですが、大丈夫でしょうか?

A:決して放置してはいけません。

犬の鼻血は、単なる鼻粘膜の傷であることは稀で、多くの場合、悪性腫瘍や重度の歯周病、あるいは凝固異常などの深刻な疾患が隠れています。たとえ少量であっても、鼻血を伴うくしゃみが見られたら、すぐに動物病院で精密検査を受けてください。

 

Q:散歩の時だけくしゃみを連発するのはなぜですか?

A:外気の刺激や花粉、あるいは異物の混入が考えられます。

草むらで匂いを嗅いだ際に小さな種や砂が入った可能性もありますし、季節性のアレルギー(花粉症)の可能性もあります。散歩から帰った後に顔を拭いてあげても症状が続くようであれば、一度受診をおすすめします。

 

Q:人間の風邪は犬にうつりますか?その逆はどうですか?

A:一般的には、人間のインフルエンザや風邪のウイルスが犬にうつることはありません。

ただし、犬から人へ(あるいはその逆)うつる「ズーノーシス(人獣共通感染症)」も存在します。愛犬がくしゃみをしている原因が特定の感染症である場合、適切な衛生管理が必要です。

 

Q:くしゃみが止まらない時、市販の人間用目薬や点鼻薬を使ってもいいですか?

A:絶対に使用しないでください。

人間用の薬には、犬にとって有害な成分が含まれていることがあります。また、原因が腫瘍や異物である場合、薬で一時的に症状を抑えてしまうと発見が遅れ、状況を悪化させることになります。必ず獣医師が処方した薬を使用してください。

 

Q:逆くしゃみが起きた時、無理やり止めるべきですか?

A:無理に止める必要はありませんが、落ち着かせてあげることは有効です。

犬がパニックにならないよう、飼い主様が冷静に声をかけ、喉を優しく撫でてあげてください。鼻の穴を指で一瞬塞いで唾液を飲み込ませるテクニックもありますが、嫌がる場合は無理をさせず、収まるのを静かに待ちましょう。

 

まとめ

  • 単発のくしゃみで元気があれば様子見で良いが、連発や鼻血がある場合は即受診が必要。

  • 「逆くしゃみ」は生理現象であり、基本的には心配ないが、頻発する場合は相談を。

  • シニア犬のくしゃみは、歯周病や鼻腔内腫瘍のリスクが非常に高く、早期発見が鍵。

  • 環境改善(掃除・加湿・刺激排除)が、くしゃみの予防と再発防止に直結する。

  • 自己判断で人間用の薬を使わず、変化を感じたら動画を撮って獣医師に相談する。

愛犬のくしゃみは、体からの小さくも重要なメッセージです。

単なる生理現象だと決めつけず、日頃から愛犬の鼻水の状態、顔の形、呼吸の音、そして口の中の状態をチェックする習慣を持ちましょう。

特に、今までしていなかったようなくしゃみを突然始めた時は、何らかの体調の変化が起きている合図です。

適切な環境づくりと、異変に対する迅速なアクションが、大切な家族である愛犬の健康を守ることにつながります。

少しでも「いつもと違うな」と感じたら、迷わず信頼できる動物病院に相談し、愛犬が快適に過ごせる毎日をサポートしてあげてください。