愛犬の口臭や歯の汚れが気になり、歯石取りを検討していませんか。
犬の歯石は放っておくと歯周病を招き、最悪の場合は内臓疾患を引き起こして寿命を縮める原因になります。
しかし、いざ処置を考えたとき、全身麻酔への不安や費用の負担が壁となり、一歩踏み出せない飼い主様も少なくありません。
本記事では、獣医師が推奨する正しい歯石取りの方法から、最新の費用相場、自宅でできる予防習慣まで、愛犬の健康を守るために必要な情報を網羅して解説します。
もくじ
犬の歯石取りが必要な理由とは
犬の口内環境は人間よりもアルカリ性に傾いているため、わずか3日から5日という短期間で歯垢が歯石へと変化します。
一度歯石になってしまうと、飼い主様が日常的に行う歯ブラシだけで除去することは不可能です。
そのまま放置し続けると、歯石を土台にしてさらに細菌が繁殖し、歯肉炎や歯周病を悪化させる深刻なリスクとなります。
歯石放置が引き起こす恐ろしい病気
歯石は単なる見た目の汚れではなく、細菌の塊です。
歯周病が進行すると、歯の根元まで細菌が侵入し、顎の骨を溶かす「下顎骨骨折」や、目の下が腫れて膿が出る「根尖周囲膿瘍」を引き起こすことがあります。
さらに恐ろしいのは、血管を通じて細菌が全身に回り、心臓病、腎臓病、肝臓病などの命に関わる合併症を誘発することです。
愛犬の健康寿命を延ばすためには、歯石を適切に除去することが不可欠です。
動物病院での歯石取り：麻酔ありと無麻酔の違い
動物病院で実施される歯石取りには、大きく分けて「全身麻酔をかける方法」と「無麻酔で行う方法」の2種類が存在します。
飼い主様にとって最も悩ましい選択肢ですが、医学的な有効性と安全性には大きな隔たりがあります。
それぞれの特徴を比較表にまとめましたので、参考にしてください。
全身麻酔による歯石除去のメリット
全身麻酔をかける最大のメリットは、「歯周ポケット（歯と歯茎の隙間）の中」をきれいにできることです。
歯周病の真の原因は、表面に見えている歯石ではなく、ポケットの中に潜んでいる細菌です。
麻酔下であれば、痛みを伴う深い部分の洗浄や、処置後の歯の表面を滑らかにするポリッシング（研磨）を完璧に行うことができます。
これにより、新しい歯垢が付きにくい環境を整えることが可能になります。
無麻酔歯石除去に潜むリスク
無麻酔での処置は、麻酔による体への負担がないという点が魅力に感じられます。
しかし、動く犬の口を無理に固定して尖った器具を使用するため、口内を傷つけたり、顎を脱臼させたりする事故が多発しています。
また、表面の歯石だけを削り取ると、歯の表面に目に見えない細かな傷がつき、処置前よりも早く歯石が再付着してしまうというデメリットもあります。
医学的には「根本的な解決にはならない」と考える獣医師がほとんどです。
歯石取りにかかる費用の相場
動物病院で歯石取りを行う際、費用は「処置料」だけでなく、複数の項目が合算されます。
一般的に、全身麻酔を伴う処置の合計費用は3万円から7万円程度が相場です。
内訳を確認し、事前に予算を把握しておきましょう。
費用の内訳
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事前検査代： 血液検査、レントゲン検査（5,000円〜15,000円）
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全身麻酔代： 体重や年齢に応じて変動（10,000円〜20,000円）
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スケーリング・ポリッシング代： 基本処置料（15,000円〜30,000円）
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抜歯代： 歯周病が進行している場合、1本あたり数千円が加算されます。
シニア犬の場合は、麻酔の安全性を確保するために詳細な事前検査が必要となるため、費用が高くなる傾向にあります。
自宅で犬の歯石は取れるのか？
結論から申し上げますと、「すでに硬く固まった歯石」を自宅で完全に取ることはできません。
市販のスケーラーを使用して無理に取ろうとすると、大切な歯のエナメル質を削り取ってしまい、逆に歯周病を加速させる原因になります。
自宅でできる「歯垢」の除去
家庭で行うべきは、歯石になる前の**「歯垢」の状態での除去**です。
以下の表に、自宅ケアの効果と難易度をまとめました。
最も効果的なのは、やはり歯ブラシを使用したケアです。
少しずつ口周りを触られることに慣れさせ、まずは数秒からでも毎日続けることが、将来的な抜歯や高額な治療費を防ぐ唯一の方法です。
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歯石を溜めないための正しい予防習慣
歯石取りを行った後、何もケアをしなければ、数ヶ月で元の状態に戻ってしまいます。
処置後のきれいな状態を維持するために、以下の3つのステップを習慣化しましょう。
1. 毎日の歯磨きをルーティンにする
食後の歯磨きが理想ですが、難しい場合は寝る前の1回だけでも絶大な効果があります。
歯の表面だけでなく、歯と歯茎の境目を意識してブラッシングすることがポイントです。
2. 犬の年齢や状態に合わせたケア製品の活用
歯ブラシを嫌がる場合は、水に混ぜるタイプのサプリメントや、噛むことで汚れを落とすおもちゃを併用しましょう。
ただし、これらはあくまで補助的な役割であり、歯ブラシの代わりにはならないことを理解しておく必要があります。
3. 定期的な歯科検診を受ける
半年に一度は動物病院で口内のチェックを受けましょう。
プロの目で初期の歯肉炎を発見できれば、麻酔下での大掛かりな処置を回避できる可能性が高まります。
早期発見・早期対応が、愛犬の負担と飼い主様の費用負担の両方を軽減します。
よくある質問（FAQ）
高齢犬に全身麻酔をかけるのは危険ではないでしょうか？
高齢というだけで麻酔が不可能になるわけではありません。
重要なのは年齢そのものではなく、「現在の心臓や腎臓の機能が麻酔に耐えられるか」という健康状態です。
事前の血液検査や胸部レントゲンでリスクを徹底的に評価し、最新のモニター機器を使用して管理を行うことで、安全に処置できるケースがほとんどです。
むしろ、歯周病による全身疾患のリスクの方が高い場合も多いため、獣医師と十分に相談することが大切です。
無麻酔歯石取りをサロンで勧められたのですが、避けるべきですか？
ドッグサロンなどでの無麻酔歯石取りは、見た目の汚れ（歯冠部）は取れますが、歯周病の温床となる歯周ポケットの掃除が一切できません。
また、犬が暴れた際に鋭利なスケーラーで口内を傷つけるリスクや、強いストレスを与える懸念があります。
医学的な観点からは「歯周病の治療」にはならないため、健康維持を目的とするのであれば、設備と知識の整った動物病院での処置を選択することをおすすめします。
歯石取りの後に歯が抜けてしまうことがあると聞きました。なぜですか？
それは、歯石取りの処置そのものが原因ではなく、すでに歯周病によって歯を支える骨（歯槽骨）が溶けていたためです。
処置前は、歯石が「ギプス」のように歯を固定していただけで、歯石を取り除いたことで本来のグラつきが露呈した結果です。
そのまま放置すれば痛みが続き、膿が溜まる原因となるため、抜歯が必要になるケースが多いのです。
歯磨きガムだけで歯石は予防できますか？
残念ながら、ガムだけで全ての歯石を予防することは不可能です。
ガムは主に「奥歯の噛む面」の汚れを落とす効果はありますが、汚れが溜まりやすい「前歯」や「歯の裏側」「歯周ポケット」には届きません。
ガムはあくまで歯磨きをサポートする補助的なツールとして考え、歯ブラシによる物理的な清掃とセットで行うことが、確実な予防につながります。
歯石取りの費用を安く抑える方法はありますか？
一度付いてしまった歯石を安く取る魔法のような方法はありませんが、長期的なコストを抑える唯一の方法は「予防」です。
毎日の歯磨きを徹底すれば、数年に一度の歯石取りの頻度を下げることができ、抜歯などの追加費用も発生しません。
また、ペット保険の中には、歯科診療が補償対象になるものもあるため、加入状況を確認してみるのも一つの手段です。
歯石が付きやすい犬種や特徴はありますか？
トイプードル、チワワ、ダックスフンドなどの小型犬は、歯石が非常に付きやすい傾向にあります。 理由は、体のサイズに対して歯が大きく、歯と歯の隙間が狭いため、食べかすが詰まりやすいからです。
また、短頭種（パグやブルドッグなど）も噛み合わせの影響で汚れが溜まりやすいです。
これらの犬種を飼っている場合は、他の犬種よりも特に念入りなデンタルケアが求められます。
まとめ
愛犬の歯石取りは、単なる美容ケアではなく、健康寿命を左右する重要な医療行為です。
無麻酔での安易な処置は避け、動物病院で適切な検査と処置を受けることが、結果として愛犬を痛みや病気から守ることにつながります。
高額な費用や麻酔への不安があるかもしれませんが、「歯周病を放置するリスク」の方が、犬の体にとっては遥かに大きな負担となります。
この記事を参考に、まずはかかりつけの獣医師に口内の相談をすることから始めてみてください。
今日からの正しいケアが、愛犬との楽しい時間を1日でも長くしてくれるはずです。
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