愛猫のトイレの中に、普段とは違う赤っぽい色やピンク色のおしっこを見つけたとき、飼い主の心には大きな不安がよぎります。言葉を話せない猫にとって、おしっこの異常は体の中から発信される 重大なSOSサイン であることが少なくありません。
血尿は単なる体調不良ではなく、命に関わる病気が隠れている可能性もあります。まずは落ち着いて、愛猫の状態を観察することが大切です。この記事では、血尿の原因から緊急性の判断基準、病院での治療費、そして再発を防ぐための環境作りまでを詳しく解説します。
愛猫の健康を守るために、今何ができるのかを一つずつ確認していきましょう。
もくじ
猫の血尿を見つけたらまず確認すべき「緊急度チェック」
猫が血尿を出しているとき、最も重要なのは 「今すぐ夜間救急へ行くべきか、翌朝の診察を待てるか」 の判断です。血尿そのものも問題ですが、それ以上に深刻なのは、おしっこが正常に体外へ排出されているかどうかという点にあります。
以下の項目をチェックし、愛猫の今の状態を把握してください。
今すぐ病院へ行くべき「危険なサイン」
もし血尿に加えて以下の症状が一つでも当てはまる場合は、一刻を争う事態の可能性があります。深夜や休日であっても、すぐに動物病院に連絡し、受診の準備を始めてください。
これらの症状は、尿道が何らかの原因で完全に詰まってしまう 尿道閉塞 を起こしている可能性を強く示唆しています。
尿が出ていない(尿閉)は命に関わるタイムリミットがある
特におしっこが全く出ていない状態(尿閉)は、猫にとって非常に危険な状態です。体内で作られた老廃物や毒素がおしっことして排出されないため、わずか 24時間から48時間で急性腎不全や尿毒症を引き起こし、死に至る こともあります。
また、膀胱がパンパンに膨らみ続けることで、膀胱破裂のリスクも高まります。雄猫は雌猫に比べて尿道が細く長いため、結晶や結石が詰まりやすく、この緊急事態に陥りやすい傾向があります。
「元気はあるから明日まで様子を見よう」という判断が、取り返しのつかない結果を招くこともあるのです。排尿がないことを確認したら、即座に専門医の診察を受けること を強く推奨します。
猫が血尿を出す主な4つの原因
猫の血尿を引き起こす原因はいくつかありますが、その多くは「下部尿路疾患(FLUTD)」と呼ばれる、膀胱から尿道にかけてのトラブルです。原因を特定することで、適切な治療法とケアが見えてきます。
主な原因とそれぞれの特徴を下表にまとめました。
猫の血尿を引き起こす主な疾患とその特徴比較
| 原因疾患 | 発生頻度 | 主な特徴・背景 |
| 特発性膀胱炎 | 非常に高い(約6割) | 検査で異常が見つからない。ストレスが主な要因。 |
| 尿石症(結石) | 高い | ストルバイトやシュウ酸カルシウムの結晶・石。 |
| 細菌性膀胱炎 | 低い〜中程度 | 尿道から細菌が侵入して炎症を起こす。高齢猫に多い。 |
| 腫瘍(がん) | 低い(中高齢以降) | 膀胱や尿道にできたデキモノ。持続的な血尿。 |
それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。
原因の約6割を占める「特発性膀胱炎」とは
猫の膀胱炎の中で最も多いのが、この特発性膀胱炎です。驚くべきことに、細菌感染や結石といった明確な物理的要因がないにもかかわらず、膀胱に炎症が起き、血尿や頻尿といった症状が現れます。
この病気の最大の引き金は 「ストレス」 です。猫は非常に繊細な生き物であり、私たちの想像以上に周囲の変化に敏感に反応します。
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引っ越しや模様替えなどの環境変化
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新しい家族(人間やペット)が増えた
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近所の工事の騒音
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トイレが汚れている、または場所が気に入らない
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飼い主とのコミュニケーション不足、あるいは過剰な干渉
ストレスを感じると、膀胱の粘膜を保護する物質が減少し、尿に含まれる成分が直接膀胱の壁を刺激して炎症を起こすと考えてられています。「家の中で愛猫を不安にさせている要因はないか」 と振り返ることが、この病気の理解と治療の第一歩となります。
石が尿路を傷つける「尿石症(結石)」
尿石症は、尿に含まれるミネラル成分が結晶化し、それが大きくなって石(結石)になる病気です。この結石が膀胱の壁を傷つけたり、尿道を塞いだりすることで血尿が発生します。
代表的な結石には「ストルバイト結石」と「シュウ酸カルシウム結石」の2種類があります。
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ストルバイト結石: 若い猫に多く、尿がアルカリ性に傾くことで発生します。食事療法で溶かせる場合があります。
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シュウ酸カルシウム結石: 中高齢の猫に多く、尿が酸性に傾くことで発生します。一度できると食事では溶けず、手術で摘出する必要があります。
これらは、日頃食べているフードの栄養バランスや、飲水量の不足が大きく関係しています。
細菌感染による膀胱炎・尿道炎
尿道口から大腸菌などの細菌が侵入し、膀胱の中で増殖して炎症を起こすのが細菌性膀胱炎です。若い健康な猫では比較的少ないのですが、免疫力が低下している猫や、糖尿病、腎臓病を患っている高齢の猫では感染リスクが高まります。
抗生物質による治療が必要となりますが、自己判断で投薬を止めると耐性菌ができてしまい、治りにくくなるため注意が必要です。
高齢猫で注意したい「腫瘍(がん)」
7歳から10歳を過ぎたシニア猫で、血尿が長期間続いたり、良くなったり悪くなったりを繰り返す場合は、膀胱癌(移行上皮癌など)の可能性を考慮しなければなりません。
腫瘍によって膀胱の粘膜が常に刺激され、出血が止まらなくなります。結石や膀胱炎の治療をしても改善が見られない場合は、詳しい超音波検査や病理検査が必要です。早期発見が難しいため、シニア期に入ったら定期的な尿検査を習慣化すること が大切です。
病院へ行く前の準備と診察の流れ
血尿を確認し、病院へ行くことが決まったら、診察をスムーズに進めるための準備をしましょう。獣医師が診断を下すための「武器」となる情報を用意することで、愛猫への負担を最小限に抑えることができます。
自宅でのおしっこの採り方(採尿のコツ)
病院で尿検査を行う際、新鮮なおしっこがあれば、より正確な診断が可能になります。もし可能であれば、自宅で採尿して持参しましょう。
採尿のポイントは以下の通りです。
- 清潔な容器に入れる: 洗浄し乾燥させたタッパーや、専用の採尿キット(病院でもらえます)を使います。
- なるべく新鮮な尿を: 採尿から3時間以内のものが理想的です。難しい場合は冷蔵庫で保管し、早めに持参してください。
- 採尿のテクニック:
- おしっこをしている最中に、お玉やカットしたペットボトルを差し込んでキャッチする。
- システムトイレを使用している場合は、下のトレーのシートを裏返しておく(吸収させない)。
- 猫砂の上にラップを敷き、その上に溜まった尿をスポイトで吸い取る。
もし「どうしても採尿ができない」という場合でも、無理をせず病院へ向かってください。病院では、膀胱を直接圧迫して採尿したり、注射針を使って膀胱から直接尿を採取したりする(膀胱穿刺)ことも可能です。
獣医師に伝えるべき「おしっこ情報」のメモ
診察では、獣医師から多くの質問をされます。記憶を頼りに答えるのは難しいため、以下の内容をメモしていくか、スマートフォンの写真・動画に収めておくと非常に役立ちます。
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いつから始まったか: 今朝から、あるいは数日前から、など。
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尿の色: 真っ赤、ピンク色、オレンジ色、ワイン色など。
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排尿の頻度: 1日に何回トイレに行っているか。
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一回の量: 普段通りか、チョロチョロとしか出ていないか。
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行動の異常: トイレで鳴く、粗相(トイレ以外でする)、股間を頻繁になめる。
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全身状態: 元気はあるか、食欲はあるか、嘔吐はないか。
「いつもと何が違うのか」を具体的に伝えること が、迅速な診断への近道です。
【最新】猫の血尿治療にかかる費用相場
動物病院には自由診療の側面があるため、費用は病院によって異なりますが、一般的な血尿の診療にかかるコストの目安を知っておくことは安心材料になります。
ここでは、初診から一般的な治療までの費用シミュレーションを紹介します。
猫の血尿に関する診療費用の目安(一例)
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
| 初診料・再診料 | 1,000円 〜 3,000円 | 病院によって基本料金が異なります。 |
| 尿検査 | 2,000円 〜 5,000円 | 比重、潜血、結晶の有無、沈渣を確認。 |
| 超音波(エコー)検査 | 3,000円 〜 7,000円 | 膀胱壁の厚さや結石の有無を確認。 |
| レントゲン検査 | 4,000円 〜 8,000円 | 全体的な配置や不透過性結石の確認。 |
| 血液検査 | 5,000円 〜 15,000円 | 腎機能の低下や炎症反応を確認。 |
| 皮下点滴・注射 | 3,000円 〜 6,000円 | 脱水改善や痛み止め、抗生剤の投与。 |
| 内服薬(1週間分) | 2,000円 〜 5,000円 | 抗生剤、消炎鎮痛剤、止血剤など。 |
もし重症化し、尿道閉塞による処置や入院が必要になった場合は、さらに以下の費用が加算されることがあります。
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尿道カテーテル留置処置: 10,000円 〜 30,000円
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入院費用(1泊あたり): 5,000円 〜 15,000円
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外科手術(結石摘出など): 100,000円 〜 250,000円(入院費込み)
こうして見ると、早期発見・早期治療がいかに重要かがわかります。症状が軽いうちに受診すれば数千円から数万円で済む場合でも、様子を見すぎて重症化させると10万円を超える高額な治療費が必要になる だけでなく、愛猫の命も危険にさらしてしまいます。
今日からできる猫の血尿・膀胱炎の予防策
猫の泌尿器トラブルは、一度治っても非常に再発しやすいのが特徴です。病院での治療が終わった後こそ、飼い主による「家庭でのケア」が重要になります。
再発を最小限に抑えるための3つのポイントを解説します。
水を飲ませる工夫(自動給水器、ウェットフード)
おしっこの色が濃い(濃度が高い)状態が続くと、膀胱の粘膜が刺激されやすくなり、結石もできやすくなります。たくさん水を飲んで、薄いおしっこをたくさん出すことが、泌尿器の健康維持に直結します。
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水飲み場を増やす: 猫の動線に合わせて、複数の場所に新鮮な水を置きます。
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好みの器を見つける: 陶器、プラスチック、ステンレスなど、猫によって好みの感触があります。
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流れる水を活用する: 自動給水器などの動く水に興味を示す猫は多いです。
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ウェットフードを取り入れる: ドライ製品は水分が10%程度ですが、ウェット製品は約80%が水分です。食事から自然に水分を摂取させるのが最も効率的です。
「おしっこを我慢させない、濃くさせない環境作り」 を常に意識しましょう。
トイレ環境の改善(理想の設置場所と数)
トイレ環境への不満は、猫にとって大きなストレスとなり、排尿を我慢する原因になります。
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数は「猫の頭数+1」: 1匹なら2箇所、2匹なら3箇所のトイレを用意するのが理想です。
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常に清潔に: 猫はきれい好きです。排泄物は速やかに片付け、定期的に丸洗いをしましょう。
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静かな場所に置く: 洗濯機の横やドアのすぐそばなど、騒がしい場所や視線が気になる場所は避けます。
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サイズの確認: 猫の体長の1.5倍程度の、ゆったりとしたサイズのトイレを選んでください。
療法食の正しい選び方
結石症や特発性膀胱炎を経験した猫には、獣医師から「療法食」が処方されることがあります。これは、尿のpH値を適切にコントロールしたり、ミネラルバランスを調整したりするための 「食べる薬」 とも言える重要なものです。
自己判断で市販の一般的なキャットフードに戻すと、数週間から数ヶ月で再発することが多々あります。療法食を継続すること、そして 「人間の食べ物や不必要なおやつを与えないこと」 を徹底してください。
よくある質問
猫の血尿に関して、多くの飼い主が抱く疑問をQ&A形式でまとめました。
Q:血尿が出たけれど、本人は元気で食欲もあります。様子を見てもいいですか?
A:いいえ、早めに受診してください。 猫は痛みを隠すのが非常に上手な動物です。元気そうに見えても、膀胱の中では炎症が起き、痛みを感じていることがほとんどです。また、今は元気でも、数時間後に急激に悪化して排尿困難に陥るケースもあります。早期に対処するほど、治療期間も短く、猫の負担も軽くなります。
Q:以前もらった膀胱炎の薬が残っています。それを飲ませても大丈夫ですか?
A:絶対にやめてください。 前回の血尿と今回の血尿の原因が同じとは限りません。細菌性であれば適切な抗生物質が必要ですが、特発性であれば抗生物質は不要かもしれません。また、古い薬は劣化している可能性もあり、間違った投薬は病状を複雑にする恐れがあります。必ず今の状態を医師に診断してもらい、新しい処方を受けてください。
Q:多頭飼いなのですが、どの猫が血尿を出したか分かりません。どうすればいいですか?
A:全頭の観察と、個別の隔離が必要です。 可能であれば、一時的に部屋を分けたり、トイレのタイミングを見張ったりして、どの猫の尿に異常があるかを特定してください。システムトイレを使っている場合は、シートについた色で判断できることもありますが、誰がしたか確定できない場合は、全頭連れて診察を受けるか、まずは電話で獣医師に相談してください。
Q:療法食は一生続けなければならないのでしょうか?
A:猫の状態によりますが、継続が必要なケースは多いです。 特にシュウ酸カルシウム結石ができやすい猫や、再発を繰り返す特発性膀胱炎の猫は、生涯にわたって食事管理が必要になることが一般的です。医師の判断なく食事を切り替えると、あっという間に再発し、再び苦しい思いをさせることになります。定期的な尿検査を行いながら、医師と相談して決めていきましょう。
Q:避妊・去勢手術は血尿と関係がありますか?
A:直接の原因ではありませんが、間接的なリスク因子にはなります。 手術自体が血尿を引き起こすわけではありませんが、避妊・去勢後の猫は代謝が落ちて肥満になりやすく、肥満は下部尿路疾患のリスクを高めることが知られています。また、雄猫は去勢に関わらず尿道が細いため、常に注意が必要です。適切な体重管理を心がけることが、間接的な予防に繋がります。
まとめ
猫の血尿は、飼い主にとって非常にショッキングな光景ですが、そこには愛猫からの切実なメッセージが込められています。
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血尿を見つけたら、まずは「おしっこが出ているか」を確認し、緊急性を判断する
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尿が出ていない、ぐったりしている場合は、命に関わるため即座に動物病院へ行く
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原因の多くはストレス(特発性)や結石、細菌感染であり、適切な診断が必要
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治療には尿検査や画像検査が必須で、早期受診が費用の抑制にも繋がる
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再発防止には「飲水量の確保」「トイレ環境の改善」「正しい食事」が不可欠である
猫にとって、泌尿器の健康はQOL(生活の質)を大きく左右します。血尿というサインを見逃さず、迅速に対応し、日々の生活環境を整えてあげること。それが、愛猫と穏やかで健やかな毎日を長く過ごすための、最も確実な道です。
あなたの愛猫が一日も早く健やかな排尿習慣を取り戻し、痛みから解放されることを願っています。






















何度もトイレに行くが、一滴も尿が出ていない
トイレの中で力み続け、痛そうに鳴いている
ぐったりとしていて元気がない、または呼んでも反応が鈍い
何度も嘔吐を繰り返している
お腹(特に下腹部)を触ると激しく嫌がる、または硬く張っている
体温が低く、耳の先や足先が冷たくなっている