猫を家族に迎え、穏やかな生活を送っている中で、突然愛猫が今まで聞いたこともないような奇妙な大声で鳴き始めたり、家中をソワソワと歩き回ったりすることがあります。
初めてその姿を目の当たりにした飼い主さんは、「どこか体が悪いのではないか」「ストレスで変になってしまったのか」と大きな不安を感じてしまうことでしょう。実は、その行動の正体の多くは発情期による本能的な反応です。
猫の発情期は人間や犬のサイクルとは大きく異なり、一度始まると飼い主さんにとっても愛猫にとっても、精神的・肉体的に大きな負担となる場合があります。特に夜通し続く鳴き声や、部屋中に強い臭いを残す尿スプレーなどは、生活環境に深刻な影響を及ぼしかねません。
愛猫がいつ、どのようなサインを出すのか、そして飼い主としてどのようなサポートができるのかを正しく理解することは、猫との幸せな共生を続けるための第一歩となります。
もくじ
猫の発情期はいつから?性別や月齢による違い
猫が初めての発情期を迎える時期は、個体差がありますが一般的には生後6ヶ月から12ヶ月の間とされています。
しかし、これはあくまで目安であり、早い子では生後4ヶ月頃から兆候が見られることもあれば、逆に1歳を過ぎてから始まるケースもあります。この時期の違いには、性別だけでなく、生まれた季節や育った環境、さらには猫種といったさまざまな要因が複雑に関係しています。
まずは、愛猫がいつ性成熟を迎えるのか、その目安を性別ごとに整理してみましょう。
猫の性成熟と最初の発情時期の目安
| 性別 | 性成熟の時期(目安) | 最初の発情時期 | 特徴 |
| メス猫 | 生後6ヶ月~10ヶ月 | 生後6ヶ月~1歳頃 | 日照時間に左右されやすく、短毛種の方が早い傾向 |
| オス猫 | 生後7ヶ月~9ヶ月 | 明確な発情期はない | メス猫のフェロモンに反応して発情行動が始まる |
メス猫の場合、体重が一定(約2.3kg〜2.5kg以上)に達し、かつ日照時間が長くなる時期に最初の発情を迎えることが多いのが特徴です。そのため、春生まれの子猫は秋には発情せず、翌年の春まで持ち越されることもあります。
一方、オス猫にはメスのような一定の周期はありません。生後9ヶ月頃に性成熟を終えると、いつでも交尾が可能な状態になります。近所に発情中のメス猫がいれば、その鳴き声や匂い(フェロモン)を察知して、いつでも発情行動を開始します。
「まだ子供だと思っていたのに、急に様子が変わった」と驚かないよう、生後半年を過ぎたら、いつ発情が始まってもおかしくないという心の準備をしておくことが大切です。
猫が発情する季節と室内飼育の影響
野生の猫や外で暮らす猫にとって、子育てに適した暖かい時期に子供を産むことは生存戦略として非常に重要です。そのため、猫は季節性多発情動物と呼ばれ、日照時間の長さに反応して発情サイクルが回る仕組みになっています。
具体的には、1日のうちで光を浴びる時間が14時間を超えるようになると、脳の松果体からホルモンが分泌され、繁殖シーズンに入ると言われています。
日本における猫の繁殖シーズンとピーク時期
| 項目 | 内容 | 詳細 |
| 主な繁殖シーズン | 1月下旬~9月頃 | 日が長くなり始める冬の終わりから秋口まで |
| 発情のピーク時期 | 2月~4月 / 6月~8月 | 春の訪れとともに最も活発になり、夏にも再度ピークが来る |
| 発情が止まる時期 | 10月~12月 | 日照時間が短くなる冬の間は、通常発情が停止する(休止期) |
このように、自然界では冬の間に発情が止まるサイクルが一般的ですが、現代の室内飼育環境では事情が大きく異なります。
家の中には人工照明があり、夜遅くまで明るい環境が保たれています。猫の脳は電灯の光を太陽光と区別できないため、室内で暮らす猫は一年中、季節を問わず発情期が訪れる可能性があるのです。
冬場であっても、夜まで明るいリビングで過ごしている猫は、ホルモンバランスが常に繁殖モードに傾きやすくなります。これが、室内飼いの猫において発情周期が不規則になったり、頻繁に繰り返されたりする大きな原因となっています。
「冬だから安心」と思い込まず、室内飼育特有のリスクを理解しておくことが、愛猫の急な変化に慌てないためのポイントとなります。
メス猫に見られる発情期の兆候とサイクル
メス猫の発情は、非常に特徴的で分かりやすいサインが現れます。いつもはクールな猫が急に甘えん坊になったり、逆に攻撃的になったりすることもあり、その変化の激しさに困惑する飼い主さんは少なくありません。
メス猫の発情周期は、大きく分けて4つの段階に分類されます。それぞれの期間で見られる具体的な行動を把握しておきましょう。
メス猫の発情周期と主な行動変化
| 段階 | 期間の目安 | 見られる主なサイン・行動 |
| 発情前期 | 1日~5日間 | 飼い主への過剰な甘え、尿回数の増加、自分の体を家具にこすりつける |
| 発情期(ピーク) | 4日~10日間 | 赤ん坊のような大声(発情鳴き)、お尻を高く上げる(ロードシス)、転げ回る |
| 発情後期 | 交尾後1〜3日 / 未交尾後約7日 | 発情行動が徐々に治まる。未交尾の場合は次のサイクルへ準備 |
| 発情休止期 | 約1週間~数ヶ月 | 通常の状態に戻る。季節や環境により次のサイクルが始まる |
最も飼い主さんを悩ませるのは、発情期のピークに見られる発情鳴きです。これはオスを呼ぶための本能的な叫びであり、昼夜を問わず非常に大きな声で鳴き続けます。叱っても止まるものではなく、むしろ猫自身もコントロールできない衝動に突き動かされている状態です。
また、ロードシス(交尾受容姿勢)と呼ばれる、前足をお腹の下に折りたたみ、お尻を高く突き出して足踏みをするようなポーズは、メス猫特有のものです。このとき、しっぽを横に避けるような動作も見られます。
ここで重要なのは、猫は交尾刺激によって排卵する(交尾排卵)動物であるという点です。交尾をしない限り卵子は排出されず、発情のエネルギーが発散されないため、未避妊のままでは2週間から3週間おきに何度も苦しい発情を繰り返すことになります。
このループは猫にとって肉体的にも精神的にも大きな消耗を強いるものであり、食欲不振や体重減少につながることも珍しくありません。
オス猫の発情行動と誘発の仕組み
オス猫には、メスのような決まった発情周期はありません。一度性成熟を迎えると、周囲に発情したメスがいる限り、いつでも発情状態に入ることができます。
オスの発情は、メスが発するフェロモンの匂いや、独特の高い鳴き声によってスイッチが入ります。たとえ完全室内飼いであっても、網戸越しに外の野良猫の気配を感じたり、飼い主さんの衣服に付着した微かな匂いを嗅いだりするだけで、激しい反応を見せることがあります。
オス猫の発情期に見られる代表的な行動
| 行動の種類 | 具体的な内容 | 飼い主への影響・リスク |
| スプレー(尿マーキング) | 尻尾を立てて、垂直な壁などに強い臭いの尿を吹きかける | 部屋中に強烈な悪臭が残り、掃除が困難になる |
| 激しい鳴き声 | メスに応えるように低い太い声で鳴き続ける | 近隣トラブルや飼い主の睡眠不足の原因となる |
| 脱走の試み | わずかな隙間から外に出ようと必死に画策する | 交通事故、迷子、喧嘩による感染症のリスクが激増する |
| 攻撃性の増加 | イライラして噛みついたり、他の同居猫と喧嘩をしたりする | 飼い主の怪我や多頭飼育崩壊のきっかけになる |
特に尿スプレーは、去勢していないオス猫にとって最も深刻な問題行動の一つです。この尿は通常の排尿とは異なり、自分の存在を誇示するための成分が含まれているため、非常に粘り気が強く、一度壁や家具に付着すると洗剤を使ってもなかなか臭いが取れません。
また、発情中のオスは「メスの元へ行かなければならない」という強烈な本能に支配されています。そのため、普段はおとなしい猫でも、玄関が開いた瞬間に脱走を企てたり、網戸を突き破って外へ出ようとしたりします。
外の世界には、ウイルス性の病気(猫エイズや猫白血病など)を持った猫や、縄張り争いをするライバルが待ち構えています。未去勢のオスが外へ出ることは、命に関わる重大なリスクを伴うことを忘れてはなりません。
発情期を落ち着かせるための具体的な対策
発情が始まってしまった場合、その衝動を根本的に止めることは、家庭での対処だけでは不可能です。しかし、猫のストレスを少しでも和らげ、同居する飼い主さんの負担を軽減するためにできる工夫はいくつかあります。
「うるさいから」と叱ったり、無理やり押さえつけたりすることは、猫との信頼関係を壊すだけで逆効果です。以下の方法を組み合わせて、発情期間を乗り切りましょう。
発情期のストレス緩和と環境対策リスト
| 対策項目 | 具体的な方法 | 期待できる効果 |
| 運動量を増やす | 狩猟本能を刺激するおもちゃで、息が切れるまで遊ばせる | 疲労による睡眠を促し、夜鳴きを軽減する |
| 外の情報を遮断する | カーテンを閉める、窓際に近づけないようにする | 外の猫の匂いや声による興奮を防ぐ |
| 防音対策を行う | 防音カーテンの設置、ケージを段ボールで囲う | 近隣への騒音被害を抑え、飼い主のストレスを減らす |
| またたびを活用する | 少量を与えてリラックスさせる | 一時的な気分の高揚と、その後の鎮静効果を期待する |
| スプレー対策 | はっ水シートを壁に貼る、トイレを増やす | 掃除の負担を減らし、清潔な環境を維持する |
「たっぷり遊ばせて疲れさせる」ことは、シンプルながらも有効な手段です。猫は本来、狩りをして、食べて、寝るというサイクルで生きています。発情で溜まったエネルギーを遊びによる擬似的な狩りで発散させてあげることで、夜間の活動をある程度抑えることができます。
また、メス猫が激しく甘えてくる際、過度になで続けることは避けたほうが賢明です。背中やお尻付近への刺激は、かえって発情を促進させ、猫をより興奮させてしまう可能性があります。声をかけて安心させつつも、物理的な刺激は最小限にとどめ、つかず離れずの距離で見守るのが、猫にとっても負担の少ない接し方です。
なお、インターネット上で見かける「綿棒などを使った疑似交尾」は、獣医学的な知識がない素人が行うと、猫の生殖器を傷つけたり、深刻な細菌感染を引き起こしたりする恐れがあります。絶対に自己判断で行わないようにしてください。
避妊・去勢手術のメリットと適切なタイミング
繁殖を望まない場合、最も確実で人道的な解決策は不妊手術(避妊・去勢手術)です。
多くの飼い主さんが「体にメスを入れるのはかわいそう」「自然の摂理に反するのではないか」と悩みます。しかし、交尾ができない環境で発情を繰り返させることは、猫にとって解消できない欲求不満にさらされ続ける、非常に過酷な状態であるとも言えます。
手術を行うことで、発情に伴うストレスから解放されるだけでなく、将来的な病気の予防という大きなメリットも得られます。
避妊・去勢手術によって得られる主なメリット
| 項目 | メス猫のメリット | オス猫のメリット |
| 病気予防 | 子宮蓄膿症、乳腺腫瘍のリスク激減 | 精巣腫瘍のリスク消失、前立腺疾患の予防 |
| 行動改善 | 激しい鳴き声、発情に伴う食欲不振の解消 | スプレー尿の抑制(8〜9割)、攻撃性の緩和 |
| 安全面 | 発情期の脱走、それに伴う事故や感染症の防止 | 縄張り争いや喧嘩による怪我、感染症の防止 |
| 生活の質 | ホルモンに左右されない穏やかな性格への変化 | 欲求不満によるストレスからの解放、寿命の延伸 |
手術を受ける適切なタイミングについては、最初の発情を迎える前の生後6ヶ月前後が推奨されています。
特にメス猫の場合、初めての発情が来る前に避妊手術を行うことで、乳腺腫瘍(猫の場合はその多くが悪性)の発生率を極めて低く抑えられることが分かっています。一度発情を経験するごとに、この予防効果は段階的に低下していくため、早めの決断が愛猫の健康を守る鍵となります。
手術費用は自治体によって助成金が出る場合もあります。また、術後はホルモンバランスの変化により基礎代謝が落ち、太りやすくなる傾向があるため、食事管理(避妊・去勢後専用フードへの切り替えなど)をセットで考えることが重要です。
「かわいそう」という感情を一旦脇に置き、「一生を健康に、ストレスなく過ごさせてあげるための贈り物」として手術を捉え直してみてはいかがでしょうか。
よくある質問
Q:発情期に夜鳴きがうるさくて眠れません。即効性のある対策はありますか?
A:残念ながら、発情鳴きをその場ですぐに完全に止める魔法のような方法はありません。しかし、一時的な緩和策として、寝る直前に激しい遊びを取り入れて猫を肉体的に疲れさせることや、またたびを少量与えてリラックスさせることが有効な場合があります。また、飼い主さんが耳栓を使用したり、猫のケージの周りを防音性の高い厚手の毛布や段ボールで囲ったりして、物理的に音を遮断する工夫も検討してください。根本的な解決には、やはり手術によるホルモンバランスの安定が必要です。
Q:メス猫に生理(出血)はありますか?
A:猫には、人間や犬のような目に見える形での生理(月経)による出血はありません。猫は交尾の刺激によって排卵が起こる仕組み(交尾排卵)を持っているため、未交尾の状態で子宮内膜が剥がれ落ちることはないからです。もし愛猫の陰部から出血が見られる場合は、発情ではなく、膀胱炎や子宮蓄膿症といった何らかの病気のサインである可能性が非常に高いです。すぐに動物病院を受診してください。
Q:去勢手術をすれば、すでに始まっている尿スプレーは必ず治まりますか?
A:多くの場合は改善されますが、100%確実に止まるとは限りません。性成熟が進み、スプレー行為が習慣(クセ)として定着してしまった後に手術を行うと、ホルモンがなくなっても行動だけが残ってしまうケースがあるためです。スプレー尿を確実に防ぎたいのであれば、生後半年から8ヶ月頃までの、行動が習慣化する前に去勢手術を行うのが最も効果的です。
Q:多頭飼いをしていて、1匹だけが発情しています。他の猫への影響は?
A:多頭飼育の場合、1匹の発情は他の猫にとって大きなストレス要因になります。特に未去勢のオスと未避妊のメスが混在している場合、あっという間に交尾・妊娠に至るため、生活エリアを完全に分ける必要があります。また、去勢済みの猫であっても、発情中の猫の異常な鳴き声やテンションに怯えたり、イライラして喧嘩に発展したりすることがあります。発情期の間は無理に接触させず、落ち着ける場所をそれぞれに確保してあげることが重要です。
まとめ
愛猫が発情期に見せる激しい変化は、すべて命を繋ごうとする本能に基づいたものです。猫自身も、自分の体の中で起こる急激なホルモンの変化に戸惑い、落ち着かない日々を過ごしています。
飼い主さんにできることは、その行動を否定するのではなく、なぜそのような行動をとるのかという背景を正しく理解してあげることです。
鳴き声やスプレー尿といった問題に直面すると、つい感情的に対応したくなることもあるでしょう。しかし、一時の対処療法だけでなく、愛猫が生涯を通じてどのような環境で過ごすのが最も幸せなのかを、この機会に改めて考えてみてください。適切な知識を持ち、獣医師と相談しながら最適な選択をすることで、愛猫との絆はより深く、より確かなものになっていくはずです。






















猫の最初の発情期は、一般的に生後6ヶ月から12ヶ月頃に訪れる
室内猫は人工照明の影響で、季節を問わず一年中発情する可能性がある
メスは独特の鳴き声やお尻を上げるポーズ、オスはスプレー尿や脱走が主な兆候
根本的な解決策は避妊・去勢手術であり、病気予防の面でもメリットが大きい
発情中の叱責は厳禁。遊びや環境整備でストレスを緩和し、穏やかに見守る