猫と一緒に暮らしている中で、ふとした瞬間に「最近、うちの子のお腹だけが妙に膨らんでいる気がする」と違和感を覚えることはありませんか。
食欲があって元気に動いていると、つい「少し太りすぎたかな」と楽観的に考えてしまいがちですが、そのお腹の膨らみが「脂肪」ではなく「液体(腹水)」であった場合、事態は一刻を争う可能性があります。
腹水はそれ自体が独立した病気ではなく、心臓や肝臓、あるいは重大な感染症といった深刻な病気が引き起こす一つのサインです。
飼い主が「単なる肥満」と「命に関わる腹水」を正しく見分けることは、愛猫の命を守るための第一歩となります。
本記事では、獣医学的な知見に基づき、自宅でできる腹水の具体的な見分け方から、病院へ行くべき緊急性の高い症状までを詳しく整理しました。
愛猫の体に起きている異変を正しく理解し、適切な行動をとるための判断材料として活用してください。
もくじ
猫の腹水を見分ける5つのチェックポイント
猫のお腹が膨らんでいるとき、それが腹水によるものかどうかを判断するには、視覚的な観察と触診が非常に有効です。
腹水が溜まっている場合、体の中ではすでに正常な循環が妨げられており、独特の身体的特徴が現れます。
以下の5つのポイントに沿って、愛猫の体を丁寧に確認してみてください。
お腹の触り心地と「波動感」の確認方法
腹水を見分ける最も確実な方法の一つが、お腹に触れた際の感触です。
健康な猫や肥満の猫の場合、お腹を触ると脂肪の柔らかさや筋肉の弾力を感じますが、腹水が溜まっている場合は「水が入った風船」のような独特の感触になります。
特に重要なのが「波動感(波動)」の有無です。片方の手をお腹の側面に軽く当て、反対側から指先でトントンと優しく叩いてみてください。
中の液体が揺れて、当てている手に波が伝わるような感触があれば、腹水が溜まっている可能性が極めて高いと言えます。
立ち姿と「カエル腹」の形状変化
猫を四つん這いで立たせた状態で、真上や真後ろから観察してみましょう。
肥満の場合はお腹全体がふっくらと丸みを帯びますが、腹水の場合は重力によって液体が下に溜まるため、お腹の下側や横側だけが異常に突き出した「カエル腹」のような形になります。
また、抱っこをした時にお腹の重みが不自然に下に寄っているように感じるのも特徴です。
普段のスタイルと比べて、お腹のラインが「ボテッ」と垂れ下がるように変化していないか注意深く観察してください。
肥満との決定的な違い:背骨とあばら
「食べていないのにお腹だけ出る」というのは、腹水の典型的なパターンです。
肥満であれば、お腹だけでなく顔周り、首、背中にも肉がつきます。そのため、背骨やあばら骨に触れようとしても肉に埋もれて感触が手に伝わりにくいのが一般的です。
一方で、腹水を伴う病気(FIPや末期がん、肝不全など)では、体全体の栄養状態が悪化していることが多いため、お腹だけが膨らんでいるのに背骨やあばら骨がゴツゴツと浮き出ているという不自然な状態になります。
「お腹はパンパンなのに背中は痩せている」と感じたら、それは肥満ではなく重篤な病気のサインかもしれません。
抱き上げた時の重みの変化
毎日愛猫を抱っこしている飼い主であれば、その「重み」の感覚も重要な判断基準になります。
腹水が溜まり始めると、短期間で急激に体重が増加したように感じることがあります。
しかし、これは健康的な成長や脂肪による増加ではありません。
「食べていないのに体重が増える」「数日で明らかに体が重くなった」という現象は、体内に大量の液体が蓄積されている可能性を示唆しています。
家庭用の体重計でこまめに計測し、食事量と体重の推移に矛盾がないかを確認しましょう。
尿量や飲水量の変化を観察する
腹水が溜まる原因となる病気(腎不全、心不全、肝不全など)の多くは、代謝や循環に関わっています。
そのため、腹水の発生と前後して尿量や水の飲み方に変化が現れることが珍しくありません。
お腹が膨らみ始めた時期と重なって、「おしっこの回数が極端に減った」「水ばかり大量に飲むようになった」といった変化が見られる場合は、内臓疾患が進行しているサインです。
お腹の形だけでなく、トイレの状況も併せてチェックすることが早期発見につながります。
腹水と肥満の主な違いを以下の表に整理しました。愛猫の状態と照らし合わせてみてください。
腹水と肥満の比較チェック表
| 比較項目 | 腹水の可能性が高い状態 | 肥満の可能性が高い状態 |
| お腹の感触 | 水風船のようにタプタプしている | 柔らかい脂肪の弾力がある |
| お腹の形状 | 横や下に突き出した「カエル腹」 | 全体的に丸みを帯びた樽型 |
| 骨の感触 | 背骨やあばら骨が触れる、痩せている | 脂肪に埋もれて骨に触れにくい |
| 体重変化 | 短期間で急激に増えることがある | 数ヶ月かけてゆっくり増加する |
| 全身の様子 | 元気がなく、お腹以外は痩せている | 毛並みが良く、全体的にふっくら |
この表からわかるように、腹水の場合は「不自然な膨らみ」と「全身の衰弱」がセットで現れるのが大きな特徴です。
腹水が疑われる時にすぐ確認すべき随伴症状
お腹の膨らみが腹水である場合、それは体内で循環器や排泄系が正常に機能していないことを意味します。
腹水そのものが苦痛を与えるだけでなく、原因となっている疾患が進行することで、猫の日常生活に明らかな変化が生じます。
お腹の張り以外に以下の症状が見られる場合、病状は非常に深刻である可能性があります。
もしこれらの症状が一つでも当てはまるなら、翌日まで様子を見るのではなく、救急での受診を検討すべき段階です。
猫は痛みを隠す習性があるため、飼い主が気づく頃には限界に近い状態であることが少なくありません。
なぜ猫にお腹に水が溜まるのか?考えられる主な原因
猫に腹水が溜まる背景には、必ず何らかの基礎疾患が存在します。腹水とは、血液中の水分が血管の外へ漏れ出したり、リンパ液が漏れたりすることで起こる現象です。
その主な原因としては、以下の4つの疾患が代表的です。
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猫伝染性腹膜炎(FIP)
特に若い猫に多く見られる、猫コロナウイルスが変異して引き起こされる恐ろしい病気です。腹水や胸水が溜まる「ウェット型」は進行が非常に速く、かつては致死率が極めて高いとされてきました。現在では治療の選択肢も増えていますが、早期発見・早期治療が何より重要です。
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心不全(心筋症など)
心臓のポンプ機能が低下することで血流が滞り、行き場を失った水分が血管から漏れ出して腹水となります。猫に多い「肥大型心筋症」などは、初期症状がほとんどないまま腹水が溜まって初めて気づくケースも多々あります。
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肝不全・肝硬変
肝臓はタンパク質(アルブミン)を合成する重要な臓器です。肝臓がダメージを受けるとアルブミンが不足し、血液の浸透圧が維持できなくなるため、水分が血管外へ漏れ出してしまいます。
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低アルブミン血症(タンパク漏出性胃腸症・腎疾患)
腎臓のフィルター機能が壊れてタンパク質が尿として漏れ出したり、腸から吸収できなくなったりすることで、血中のタンパク濃度が下がり、結果として腹水が溜まります。
このように、腹水の原因は多岐にわたります。腹水が出ているという事実だけでは病名を特定することはできないため、獣医師による正確な診断と、原因に応じた根本的な治療が必要不可欠です。
動物病院を受診するタイミングと検査の流れ
「もしかして腹水かも」と思ったら、迷わず動物病院を受診してください。
特に、呼吸に異変がある場合や、ぐったりして動かない場合は、夜間であっても救急病院を探すべき緊急事態です。
病院では、腹水の原因を特定するために以下のような検査が行われるのが一般的です。
検査のステップと目的
- 触診・聴診: お腹の張り具合や心雑音、呼吸音を直接確認します。
- 超音波(エコー)検査: お腹の中にどれくらいの液体が溜まっているか、臓器の形に異常はないかを視覚的に確認します。少量でも検出可能です。
- 腹水穿刺(ふくすいせんし): 針を刺して少量の腹水を採取し、その成分(色、粘り気、細胞の種類、タンパク濃度)を調べます。これにより、FIPなのか、心不全なのか、ガンの転移なのかを絞り込むことができます。
- 血液検査: 肝臓や腎臓の数値、アルブミン濃度、炎症反応などを確認し、全身状態を把握します。
- レントゲン検査: 心臓の大きさや、肺の状態、大きな腫瘍の有無を確認します。
腹水を抜くことで一時的に呼吸が楽になる場合もありますが、それは対症療法に過ぎません。
大切なのは、「なぜ水が溜まったのか」という根本的な原因を突き止め、それに対する治療を開始することです。
よくある質問
猫の腹水に関して、飼い主の方から特によく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。
Q:腹水は自然に吸収されて消えることはありますか?
A:残念ながら、猫の腹水が治療なしに自然に消えることはまずありません。腹水は何らかの深刻な内臓疾患の「結果」として現れるものだからです。放置すると腹水の量は増え続け、肺を圧迫して窒息のような状態を招く恐れがあります。必ず獣医師の診断を受けてください。
Q:腹水を抜く治療は痛いのでしょうか?
A:腹水穿刺に使用する針は細いものが多く、多くの猫は麻酔なしで実施できます。針を刺す一瞬の痛みよりも、大量の腹水によって圧迫されている苦痛の方がはるかに大きいため、抜去した直後に呼吸が劇的に楽になり、表情が穏やかになる猫も少なくありません。
Q:腹水が溜まったら、もう長くないということでしょうか?
A:腹水が見られる状態は、確かに病気が進行しているサインであることが多いです。しかし、原因が心不全であれば投薬でコントロールし、長く穏やかに過ごせるケースもあります。また、かつて不治の病とされたFIPも、現在では適切な治療によって完治を目指せるようになっています。諦める前に、まずは現在の病状を正確に把握することが大切です。
まとめ
愛猫のお腹の膨らみに気づいた時、それを「ただの太りすぎ」で済ませてしまうのは非常に危険です。特に腹水は、命に関わる重大な病気のSOSサインであることが少なくありません。
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お腹をトントンと叩いた時に波打つ感覚(波動感)があるかを確認する
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お腹だけが膨らむ「カエル腹」に対し、背中が痩せていないかをチェックする
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呼吸の速さや元気のなさなど、お腹以外の随伴症状に目を向ける
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肥満と腹水は、触り心地、形状、骨の感触で明確に見分けることができる
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異変を感じたら、一刻も早く動物病院でエコーや腹水検査を受ける
お腹に水が溜まっている状態は、猫にとって非常に苦しく、体力を消耗させるものです。
飼い主であるあなたにできる最も重要なことは、「いつもと違う」という直感を信じて、早急にプロである獣医師の助けを求めることです。
早期に適切な診断を受け、原因となっている疾患へのアプローチを始めることが、愛猫との健やかな時間を一日でも長く守ることにつながります。
この記事で紹介したチェック項目を参考に、今すぐ愛猫の体の状態を優しく、丁寧に確認してあげてください。



























呼吸が速い、または苦しそうにしている
腹水が大量に溜まると、横隔膜が圧迫されて肺が十分に広がることができなくなります。安静にしているのに肩を上下させて呼吸をしていたり、口を開けて呼吸(パンティング)をしていたりする場合は、酸欠状態に陥っているため非常に危険です。
食欲が極端に落ち、元気がない
お腹が液体で圧迫されることで胃が圧迫され、食事を受け付けなくなることがあります。また、体内の炎症や毒素の蓄積により、一日中うずくまって動かない、呼んでも反応が鈍いといった状態が見られます。
粘膜の色が白い、あるいは黄色い
口の粘膜や結膜を確認してみてください。白っぽくなっている場合は貧血や循環不全、黄色っぽくなっている(黄疸)場合は肝臓や胆管の異常が疑われます。これらは腹水を伴う重篤な疾患で見られる代表的なサインです。
不自然な姿勢で休んでいる
肺が圧迫されている猫は、横になって寝るのが苦しいため、前足を突っ張って胸を広げるような姿勢でじっとしていることがあります。これを「伏せ」の状態と勘違いしがちですが、「寝たくても寝られない」という苦痛のサインである場合があります。