猫は自分の不調を隠すのが非常に上手な動物です。野生時代の名残で、弱みを見せると外敵に襲われるリスクがあるため、限界まで痛みを隠し、普段通りに振る舞おうとする習性があります。
そのため、飼い主が「何かおかしい」と気づいたときには、すでに病気が進行しているケースも少なくありません。
愛猫と一日でも長く、健やかな時間を過ごすためには、飼い主であるあなたが「小さなサイン」を見逃さないことが何よりも重要です。
この記事では、猫に多い病気の種類から、症状別のチェックポイント、そして病院へ行くべき緊急性の判断基準まで、愛猫の命を守るために必要な情報を詳しく解説します。
もくじ
【症状別】猫の異変に気づくためのチェックリスト
愛猫の健康状態を把握するためには、日々の観察が欠かせません。
いつもと違う行動や外見の変化は、体の中で起きている「異常」のシグナルです。まずは、以下の項目に当てはまるものがないか確認してください。
猫の体調不良は、一つの症状だけでなく、複数の異変が重なって現れることがよくあります。
これらの変化が24時間以上続く場合や、明らかに元気が消失している場合は、速やかに動物病院を受診することをお勧めします。
特に、絶食状態が続くと猫特有の「肝リピドーシス」という重篤な病気を引き起こすリスクがあるため、注意が必要です。
部位別にみる猫の代表的な病気
猫がかかりやすい病気は、体の部位や器官によって多岐にわたります。
ここでは、特に注意が必要な主要な疾患を部位別に詳しく見ていきましょう。
1. 泌尿器系の病気(腎臓・膀胱・尿道)
猫にとって、泌尿器系のトラブルは宿命とも言えるほど頻度が高いものです。
特に慢性腎臓病はシニア猫の死因の上位を占めており、早期発見が寿命を左右します。
2. 消化器系の病気(口・胃・腸・肝臓)
食べることは生きることの基本です。消化器系の異常は、エネルギー摂取ができなくなるため、急激な体力低下を招きます。
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歯周病・口内炎: 猫の口内炎は非常に痛みが強く、食欲があっても食べられない状態になります。よだれが多い、口を気にする、食べこぼすといった行動に注意してください。
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胃腸炎: 細菌、ウイルス、寄生虫、あるいは食事内容の変化によって起こります。嘔吐や下痢が主な症状です。
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肝リピドーシス(脂肪肝): 何らかの理由で数日間食事を摂らなかった際に、体に蓄えられた脂肪が肝臓に集まりすぎて機能不全を起こす病気です。肥満気味の猫が急に食べなくなった時は特に危険です。
3. 循環器・呼吸器系の病気(心臓・肺)
これらの病気は、症状が目に見えにくい一方で、進行すると突然死を招く恐れがあります。
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肥大型心筋症: 猫で最も多い心臓病の一つです。心筋が厚くなり、心臓のポンプ機能が低下します。進行すると肺水腫(肺に水が溜まる)や、後ろ足の血管に血栓が詰まる動脈血栓塞栓症を引き起こし、激しい痛みと麻痺を伴います。
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猫喘息: アレルギー反応などにより気管支が狭くなる病気です。首を伸ばして低く構え、「カッカッ」と乾いた咳をするのが特徴です。
4. 皮膚・耳・目の病気
直接命に関わることは少ないものの、猫の生活の質(QOL)を著しく低下させます。
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皮膚糸状菌症: カビによる感染症で、円形の脱毛が見られます。人間にも感染する「人獣共通感染症」であるため、注意が必要です。
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外耳炎: 耳ダニの寄生や細菌感染により、耳が汚れ、痒みを伴います。頭を振ったり、耳の付け根を掻いたりする動作が増えます。
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結膜炎・角膜炎: 猫風邪(ウイルス感染)に伴って発症することが多く、目やに、涙、目が開けにくいといった症状が出ます。
猫のライフステージと注意すべき病気
猫は人間よりも遥かに早いスピードで年を重ねます。年齢によって、かかりやすい病気やケアの重点が変化します。
それぞれの時期に合わせた健康管理を行うことが、病気の早期発見につながります。
「うちの子はまだ若いから大丈夫」という過信は禁物です。
特に成猫期に形成される生活習慣(食事や運動)が、老後の健康状態を大きく左右することを忘れないでください。
病院に行くべき「緊急事態」のサイン
猫の体調不良の中には、一刻を争う「救急」のケースが存在します。
以下のような症状が見られた場合は、夜間であってもすぐに救急対応可能な動物病院に連絡してください。
- おしっこが全く出ていない: 特にオス猫の場合、24時間以上尿が出ていないと尿毒症を起こし、命を落とす危険があります。何度もトイレに行くが出ない、トイレで鳴いている場合は緊急です。
- 口を開けてハァハァと呼吸している: 猫が口呼吸をするのは、酸素が十分に足りていない非常に苦しい状態です。舌の色が紫や白くなっている(チアノーゼ)場合は一分一秒を争います。
- 後ろ足が動かず、冷たくなっている: 肥大型心筋症に伴う血栓塞栓症の疑いがあります。激しい痛みで鳴き叫ぶこともあります。
- 痙攣(けいれん)が止まらない: 数分以上続く、あるいは何度も繰り返す痙攣は脳へのダメージが大きいため、緊急の処置が必要です。
- 異物を飲み込んだ: 紐状のもの、中毒物質(ユリ科の植物、ネギ類、チョコレート、保冷剤など)を口にした可能性がある場合は、症状が出る前に対処する必要があります。
診察時には、「いつから」「どのような症状が」「どのくらいの頻度で」起きているかを正確に伝えることが重要です。
余裕があれば、異常な動作や排泄物の様子をスマートフォンで動画や写真に撮っておくと、診断の大きな助けになります。
飼い主ができる日常の健康チェックと予防
病気になってから治すよりも、「病気にさせない」「早期に見つける」ことの方が、猫にとっても飼い主にとっても負担が少なくなります。
今日から始められる予防と習慣をご紹介します。
1. 毎日のスキンシップを通じた体触チェック
猫を撫でる時間は、最高の健康チェックタイムです。
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しこりはないか: 全身を触り、皮膚に変な膨らみがないか確認します。
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痛みはないか: 特定の場所を触ると嫌がったり、怒ったりしないか。
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体型の変化: 背骨が急にゴツゴツしてきた、お腹だけ異常に膨らんでいるなどの変化。
2. 環境の最適化とストレス軽減
猫は環境の変化に非常に敏感な動物です。ストレスは免疫力を低下させ、特発性膀胱炎などの原因にもなります。
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清潔なトイレ: 猫は綺麗好きです。トイレが汚れていると排泄を我慢し、泌尿器系の病気を誘発します。
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安心できる隠れ家: 高い場所や、誰にも邪魔されない隠れ場所を用意しましょう。
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適切な水分補給: 腎臓病予防のため、新鮮な水をいつでも飲めるように複箇所に水飲み場を設置します。
3. 定期検診の習慣化
猫の1年は人間の約4年に相当します。見た目が元気でも、体の中では変化が起きているかもしれません。
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若齢〜成猫: 年に1回のワクチン接種と健康診断。
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シニア猫(7歳〜): 半年に1回の健康診断(血液検査、尿検査、エコー検査など)。
検査結果をデータとして蓄積しておくことで、「その子にとっての通常値」が把握でき、わずかな数値の変化から病気の予兆を捉えることが可能になります。
よくある質問
Q:猫の治療費はどのくらいかかりますか?
A:自由診療のため病院により異なりますが、初診料、検査代(血液・レントゲン等)だけで1〜2万円程度かかるのが一般的です。
慢性疾患で通院が続く場合や入院・手術が必要な場合は、数十万円単位の費用が必要になることもあります。万が一に備え、ペット保険への加入や専用の貯金を検討しておくのが賢明です。
Q:家の中で気をつけるべき「毒」になるものは?
A:観葉植物(特にユリ科は猛毒)、アロマオイル(精油)、人間用の薬、特定の食品(タマネギ、チョコレート、ブドウ等)は猫にとって致命的な毒になります。
また、紐やビニール袋の誤飲による腸閉塞も非常に多いため、猫の手が届く範囲には物を置かない「整理整頓」が最大の予防策です。
Q:多頭飼いで一頭が病気になったらどうすべき?
A:猫伝染性腹膜炎(FIP)や猫エイズ(FIV)、猫白血病(FeLV)、あるいは猫風邪などの感染症の場合、速やかな隔離が必要です。
食器やトイレの共有を避け、飼い主の手洗いを徹底してください。診断名が確定するまでは、念のため他の猫との接触を最小限に抑えるのが安全です。
Q:サプリメントは病気予防に効果がありますか?
A:関節、皮膚、腎臓、口腔ケアなど、目的別のサプリメントが多数存在します。これらはあくまで「食品」であり治療薬ではありませんが、適切な使用は健康維持をサポートします。
ただし、持病がある場合や投薬中の場合は、成分が治療を妨げる恐れがあるため、必ずかかりつけの獣医師に相談してから与えるようにしてください。
Q:病院を嫌がって連れて行くのが大変なのですが。
A:多くの猫にとって通院は大きなストレスです。
普段からキャリーバッグを部屋に置いて「安心できる場所」として慣れさせておくことや、フェロモン製剤の活用、往診に対応している病院を探すなどの工夫があります。
また、猫の扱いに長けた「キャット・フレンドリー・クリニック」の認定を受けている病院を選ぶのも一つの手です。
まとめ
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猫は不調を隠す動物であるため、飼い主による「日々の観察と小さな異変への気づき」が命を救う。
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「食欲不振」「多飲多尿」「嘔吐・下痢」は多くの病気に共通する初期サインであり、放置してはならない。
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慢性腎臓病や尿路疾患は猫の宿命とも言える病気であり、早期発見・早期治療が寿命を大きく左右する。
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尿が出ない、呼吸が苦しい、後ろ足の麻痺などは「一刻を争う緊急事態」として即座に受診する。
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定期的な健康診断と、猫にとってストレスの少ない室内環境づくりが最大の病気予防となる。
愛猫の健康を守れるのは、世界でたった一人、飼い主であるあなただけです。
猫は言葉で「痛い」「苦しい」と伝えることはできませんが、その代わりに全身を使って、あなたにサインを送り続けています。
日々の穏やかな時間の中で、愛猫が見せる表情や行動の一つひとつに心を配り、ささいな変化を敏感に感じ取ってあげてください。
「いつもと少し違う気がする」というあなたの直感は、時にどんな精密検査よりも早く病気を見つけ出すことがあります。少しでも不安を感じたら、迷わず獣医師に相談しましょう。
その一歩が、愛猫との幸せな未来をより長く、確かなものにしてくれるはずです。






















慢性腎臓病: 腎臓の機能が徐々に低下し、老廃物を排出できなくなる病気です。一度失われた機能は戻らないため、進行を遅らせる治療が中心となります。「多飲多尿(水をたくさん飲み、薄い尿をたくさん出す)」が初期の代表的なサインです。
猫下部尿路疾患(FLUTD): 膀胱炎や尿路結石などの総称です。特にオス猫は尿道が狭いため、結石が詰まると「尿道閉塞」を起こし、命に関わる事態に陥りやすいのが特徴です。
特発性膀胱炎: 原因が特定できない膀胱炎で、主にストレスが要因とされています。血尿や頻尿、トイレ以外での粗相が見られます。