愛犬の尿に血が混じっているのを見つけたら、誰しもがパニックに陥るものです。
しかし、当の犬自身が尻尾を振って元気に走り回っていると、「本当に病気なのだろうか」「少し様子を見てもいいのでは」と判断に迷うこともあるでしょう。
結論から述べます。犬が元気であっても血尿が出ている状態は決して正常ではなく、早期の受診が不可欠です。
本記事では、元気な犬に血尿が出る主な原因から、見逃してはいけない重症化のサイン、受診時に必要な準備までを専門的視点で詳しく解説します。
もくじ
犬の血尿で元気がある場合に考えられる主な原因
犬がいつも通り元気で食欲もあるのに血尿が出ている場合、考えられる原因は多岐にわたります。
「痛みを隠しているだけ」あるいは「初期症状」である可能性が極めて高いため、以下の疾患を疑う必要があります。
特発性膀胱炎や細菌性膀胱炎
犬の血尿で最も頻繁に見られる原因が膀胱炎です。 細菌が尿道から侵入して炎症を起こす細菌性膀胱炎と、ストレスなどが要因となる特発性膀胱炎があります。
初期段階では排尿時に少し違和感がある程度で、犬は活発に動き回ることが多いため、飼い主が軽視しやすい病気です。
放置すると炎症が広がり、激しい痛みや頻尿を引き起こすため、早期の抗生物質投与が推奨されます。
尿路結石症(尿石症)
膀胱や尿道に砂や石のような結石ができる病気です。 結石が膀胱の粘膜を傷つけることで出血が起こります。
結石が小さいうちは排尿もスムーズで元気に見えますが、結石が尿道に詰まると事態は一変します。
特にオス犬は尿道が長く狭いため、結石が詰まりやすく、完全に閉塞すると尿毒症で命を落とす危険性があります。
前立腺のトラブル(オス犬の場合)
未去勢のオス犬に多いのが、前立腺肥大や前立腺炎による出血です。 加齢とともにホルモンバランスが崩れ、前立腺が大きくなることで出血が生じ、尿に混じることがあります。
元気に散歩へ行き、食事も完食するケースが多いため、発見が遅れがちです。
去勢手術をすることで予防・改善できることが多いですが、進行すると排便困難を伴うこともあります。
玉ねぎ中毒などの溶血性疾患
厳密には血尿(赤血球が混じる)ではなく、血色素尿(赤血球が壊れて成分が溶け出す)と呼ばれる状態です。
玉ねぎなどのネギ類を摂取したことによる中毒症状として現れます。 食べてすぐは元気に見えても、数日かけて体内の赤血球が破壊され、重度の貧血に陥るリスクがあります。
誤食の可能性がある場合は、元気の有無にかかわらず一刻も早い処置が求められます。
「元気なら大丈夫」は危険?血尿を放置するリスク
飼い主さんが最も陥りやすい罠が、「元気だからまだ大丈夫」という過信です。
犬は本能的に弱みを見せない動物であり、かなりの苦痛があっても普段通り振る舞うことがあります。
血尿を放置することには、取り返しのつかないリスクが伴います。
症状が進行すると激痛や排尿障害を招く
今は元気に見えても、体の中では炎症が悪化し続けています。
膀胱の粘膜がボロボロになれば、排尿のたびに焼けるような痛みを感じるようになります。
また、結石が動いて尿道を塞いでしまえば、数時間後には激痛でのたうち回る事態になりかねません。
「様子を見る」という判断が、愛犬に余計な苦痛を強いる結果になることを忘れてはいけません。
慢性腎不全など重篤な病気に繋がる可能性
膀胱炎などの下部尿路疾患を放置すると、細菌が逆流して腎臓に到達し、腎盂腎炎を引き起こすことがあります。
腎臓は一度機能が失われると再生しない臓器であり、慢性腎不全へと進行すれば生涯にわたる治療が必要です。
また、血尿の原因が実は膀胱癌などの悪性腫瘍であった場合、放置は転移を許し、寿命を縮めることに直結します。
早期発見・早期治療こそが、愛犬の命を守る唯一の方法です。
病院へ行く前にチェックすべき5つのポイント
受診する際、獣医師に正確な情報を伝えることで診断がスムーズになります。
自宅で以下の5項目を詳しく観察し、メモや動画に残しておくことを強くおすすめします。
①尿の色とキラキラした粒の有無
尿の色が「全体的に赤い」のか「排尿の最後だけ赤い」のかを確認してください。
全体的に赤い場合は膀胱や腎臓、最後だけ赤い場合は尿道付近の出血が疑われます。
また、尿の中に砂のようなキラキラした結晶が混じっていないかも重要なチェックポイントです。 結晶がある場合は、尿路結石症の可能性が非常に高くなります。
②排尿回数と1回の量
「何度もトイレに行くが、少ししか出ない(頻尿)」という症状は、膀胱炎の典型です。 逆に、「何度も踏ん張っているのに一滴も出ない」場合は、尿道閉塞の可能性があり超緊急事態です。
普段の回数と比べてどの程度増えているか、1回の量が極端に減っていないかを正確に把握しましょう。
③排尿時の姿勢や鳴き声
排尿中に背中を丸めて震えていたり、鳴き声を上げたりしていないか観察してください。
元気に見える犬でも、排尿の瞬間だけ痛みをこらえているケースがあります。
排尿が終わった後に陰部を何度も舐める仕草も、違和感や痛みを感じているサインです。
④食欲や活動量の微妙な変化
「元気はある」と思っていても、詳しく見ると普段より寝ている時間が長かったり、大好きなおもちゃへの反応が鈍かったりすることがあります。
わずかな活動量の低下は、体内で炎症と戦っている証拠です。
食欲についても、完食はするものの食べるスピードが落ちていないかなど、細かな変化をチェックしましょう。
⑤陰部を気にする仕草
犬が自分の陰部をしつこく舐めている場合は、炎症による痒みや痛みがある証拠です。
舐めすぎることで外部から細菌が入り込み、さらに症状を悪化させる二次感染のリスクもあります。
また、陰部周辺が腫れていたり、膿のようなものが出ていないかも合わせて確認してください。
検査の内容と治療費用の目安
病院ではどのような検査が行われ、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。
一般的な診療内容と費用の目安を把握しておくことで、落ち着いて受診できます。
一般的な尿検査と超音波検査
まずは尿検査が行われます。尿に含まれる潜血、タンパク、比重、結晶の有無、細菌の数などを調べます。
次に、超音波(エコー)検査で膀胱内に石がないか、壁が厚くなっていないかを確認します。
これらの検査は犬に大きな負担をかけず、その日のうちに結果が出ることがほとんどです。
原因が特定できない場合は、レントゲン検査や血液検査が追加されることもあります。
症状別の治療期間と費用の比較表
一般的な治療費用と期間の目安を以下の表にまとめました。
※費用は動物病院や犬の大きさにより大きく異なります。あくまで目安として参考にしてください。
家庭でできる予防策と食事管理
治療が終わった後、あるいは血尿を繰り返さないために、家庭でのケアが重要になります。
特に泌尿器系のトラブルは再発しやすいため、日々の生活習慣を見直しましょう。
水分摂取量を増やす工夫
尿を薄め、細菌や結晶を押し流すために、水をたくさん飲ませることが予防の基本です。
新鮮な水を複数の場所に置く、ウェットフードを活用する、ドライフードをぬるま湯でふやかすなどの工夫をしましょう。
また、冬場は水が冷たすぎると飲水量が減るため、ぬるま湯を与えるのも効果的です。
療法食の選び方と注意点
一度結石ができた犬は、体質的に再発しやすい傾向があります。
獣医師の指示に従い、マグネシウムやリンなどのミネラルバランスが調整された**「療法食」を継続することが極めて重要です。
** 飼い主さんの自己判断で市販のおやつを多量に与えてしまうと、せっかくの食事療法が台無しになります。
「一口くらいなら大丈夫」という油断が、再発を招く最大の原因です。
よくある質問(FAQ)
血尿が出た当日に病院へ行けない場合、一晩様子を見ても大丈夫ですか?
犬が元気で、なおかつ尿がしっかり出ているのであれば、翌朝一番の受診でも間に合うことが多いです。
ただし、何度もトイレに行くのに尿が一滴も出ない、あるいはぐったりしている場合は、夜間救急病院を検討してください。
一晩待つ間は、安静にさせ、新鮮な水をたっぷり飲める環境を整えることが大切です。
元気はあるのですが、尿の色がオレンジ色に近いのは血尿ですか?
オレンジ色や濃い黄色も、血尿や血色素尿、あるいは脱水のサインである可能性が高いです。
特に玉ねぎ中毒などの溶血性疾患では、真っ赤ではなく茶褐色やオレンジ色の尿が出ることがあります。
「血の色ではないから」と安心せず、色のついた尿が出た時点で異常と判断し、受診することをおすすめします。
血尿が出た時に、自宅で採尿して持っていった方が良いですか?
可能な限り、新鮮な尿を持参することをおすすめします。 病院で採尿することも可能ですが、緊張して尿が出なかったり、膀胱に針を刺す処置が必要になる場合があるからです。 採尿時は、システムトイレのシートを裏返すか、清潔なプラスチック容器で直接受けるようにしましょう。 採尿から時間が経過すると検査結果に影響が出るため、3時間以内のものを持参するのが理想的です。
去勢手術をしていても、血尿が出ることはありますか?
去勢手術をしていても、膀胱炎や結石による血尿は発生します。
前立腺肥大のリスクは大幅に低減されますが、泌尿器系の炎症や結石は去勢の有無に関わらず起こり得る病気です。
「去勢しているから大丈夫」と過信せず、尿の色に変化があれば速やかに検査を受けてください。
散歩中に血尿が出たのですが、運動は控えさせた方が良いですか?
血尿が出ている間は、激しい運動や長時間の散歩は控えるべきです。
運動によって血流が良くなると、出血量が増えたり炎症が悪化したりする恐れがあるからです。
元気があるように見えても、体は休息を必要としています。 排泄のための短い散歩にとどめ、室内ではゆったりと過ごさせるように心がけてください。
治療費が心配です。検査だけでも受けた方が良いでしょうか?
はい、まずは検査だけでも受けるべきです。
放置して症状が悪化し、手術や入院が必要になれば、初期の検査費用の数倍から数十倍のコストがかかることになります。
初期の尿検査だけであれば、数千円程度で済むことがほとんどです。
早期発見は愛犬の身体的負担を減らすだけでなく、結果として経済的な負担を抑えることにも繋がります。
まとめ
犬が元気なのに血尿を出す場合、その多くは膀胱炎や初期の結石、あるいは前立腺のトラブルが隠れています。
「痛がっていないから」「食欲があるから」という理由で放置することは、病気の悪化を招き、愛犬に将来的な激痛を強いるリスクがあります。
飼い主さんがすべきことは、尿の状態や回数を細かく観察し、早急に動物病院を受診することです。
早期に適切な治療を開始すれば、多くのケースで短期間での回復が見込めます。
愛犬の健康な毎日を守るために、言葉を発せない彼らが出している小さなサインを、決して見逃さないでください。


























