仕事中や通勤途中に怪我をした際、会社から「労災(労働者災害補償保険)は使わないでほしい」「健康保険で対応してくれ」と言われるケースは珍しくありません。
Yahoo!知恵袋などの悩み相談サイトでも、このような会社側の対応に困惑し、どうすべきか迷っている声が数多く寄せられています。
結論から言えば、「労災を使わない方がいい」という選択肢は、労働者にとって一切のメリットがありません。
むしろ、労災隠しという違法行為に加担させられたり、将来受け取れるはずの多額の補償を失ったりする甚大なリスクを孕んでいます。
この記事では、なぜ会社が労災を渋るのかという裏事情から、健康保険を使うことの危険性、そして会社が協力してくれない場合の対処法まで、あなたが損をしないための情報を網羅的に解説します。
もくじ
労災を使わない方がいいと言われる5つの理由と会社側の本音
知恵袋などでよく見かける「労災を使わない方がいい」というアドバイス。その多くは、労働者のためではなく、会社側の都合や保身からくるものです。
まずは、なぜ会社がこれほどまでに労災申請を嫌がるのか、その本音を紐解いていきましょう。
1. 労災保険料が上がることを恐れている(メリット制)
会社が労災を嫌がる最大の経済的理由は「メリット制」にあります。
メリット制とは、一定規模以上の事業所において、過去数年間の労災発生状況に応じて労災保険料が最大40%増減する仕組みです。
「労災を使うと保険料が高くなるから」という上司の言葉は、この制度を指しています。
しかし、これは会社の経費の問題であり、怪我をした従業員が治療を妥協する理由にはなりません。
2. 労働基準監督署の調査や指導を避けたい
労災が発生すると、内容によっては労働基準監督署(労基署)による調査が入ることがあります。
特に重大な事故や、安全管理に不備があった疑いがある場合、会社は厳しく追及されます。
会社は「面倒な調査を入れられたくない」「ズブズブの安全管理体制を露呈させたくない」という心理から、穏便に済ませようと圧力をかけてくるのです。
3. 「労災隠し」という違法行為への加担
労災が発生したにもかかわらず、労働基準監督署に届け出ないことを「労災隠し」と呼びます。
これは明確な犯罪行為であり、発覚すれば会社は50万円以下の罰金などの刑事罰を科されます。
「健康保険でいいよ」「治療費は会社が負担するから」という提案は、あなたを犯罪の片棒を担がせる行為に等しいのです。
4. 事務手続きが煩雑である
労災申請には、会社側が作成すべき書類や証明が複数必要です。
人事や総務の担当者が「仕事が増えるのが嫌だ」という身勝手な理由で、手続きを渋るケースも少なくありません。
5. 対外的なイメージダウンを避けたい
建設業など、安全成績が受注に影響する業界では、労災の発生が「仕事の質が低い」とみなされることを恐れます。
しかし、労働者の健康と権利を犠牲にしてまで守るべきイメージなど、どこにも存在しません。
知恵袋でよくある誤解「労災を使うとクビ・転職に不利」の真実
知恵袋の回答の中には、不安を煽るような誤った情報も混在しています。特に多い「不利益を被る」という噂について、法的根拠を持って否定します。
労災申請を理由に解雇することは法律で禁止されている
労働基準法第19条により、労災による療養のために休業する期間、およびその後30日間は、会社はその従業員を解雇することができません。
労災を使ったからといってクビにするのは不当解雇であり、裁判になれば会社側が確実に負ける重大な違反です。
転職活動やキャリアに影響することはない
労災の利用履歴が、ハローワークや転職先の企業に知られることはありません。
労災はプライバシーに属する情報であり、本人が口外しない限り、外部に漏れることはないため、将来のキャリアを心配して申請を躊躇する必要は全くありません。
労災保険と健康保険の徹底比較!使わないとこれだけ損をする
「健康保険で受診しても同じでしょ?」と思っているなら、それは大きな間違いです。労災保険と健康保険には、治療費だけでなくその後の補償に雲泥の差があります。
以下の表で、その違いを具体的に確認してみましょう。
| 項目 | 労災保険(仕事中・通勤中) | 健康保険(私的な病気・怪我) |
| 本人負担額 | 0円(全額支給) | 3割負担(自己負担あり) |
| 休業補償 | 給付基礎日額の約80% | 概ね3分の2(傷病手当金) |
| 治療の範囲 | 治癒するまで継続 | 一定の制限あり |
| 後遺障害補償 | あり(年金または一時金) | なし |
| 死亡時の遺族補償 | あり(遺族年金等) | なし |
3割の自己負担は「本来払わなくていいお金」
健康保険で受診すると、窓口で3割の自己負担が発生します。本来、仕事中の怪我であればこの負担は0円です。
会社が「後で3割分を現金で渡すから」と言ってきても、それは領収書が残らない不透明なやり取りになり、後のトラブルの元となります。
最大の損失は「後遺障害補償」がないこと
これが最も重要です。もし怪我が完治せず、身体に障害が残ってしまった場合、労災であれば等級に応じた多額の年金や一時金が一生涯、あるいはまとまった金額で支給されます。
健康保険にはこの仕組みがありません。労災を使わないということは、将来の生活保障をすべて投げ捨てることと同じなのです。
会社が「労災を使わせない」と言った時の最強の対処法
会社が頑なに協力を拒む場合、あなたは一人で立ち向かう必要があります。実は、労災申請は会社を通さなくても自分一人で行うことが可能です。
1. 病院の窓口で「仕事中の怪我です」と正直に伝える
まず、病院へ行く際に必ず「仕事中(または通勤中)の怪我です」と伝えてください。健康保険証を提示してはいけません。
もし既に健康保険を使ってしまった場合は、速やかに病院の会計窓口、または健康保険組合に「労災だったので切り替えたい」と申し出てください。
2. 会社印がなくても申請書は受理される
労災の申請書には「事業主の証明(会社印)」をもらう欄があります。しかし、会社が拒否した場合は、その欄を空欄のまま提出しても構いません。
空欄の理由として「会社が労災と認めず、証明を拒否しているため」と書いた別紙(上申書)を添えて、管轄の労働基準監督署に直接提出してください。
労基署には調査権限があるため、あなたの主張が正しければ、会社の意向に関わらず労災として認定されます。
3. 証拠を集めておく
会社が「そんな事故はなかった」と嘘をつくケースに備え、以下の証拠を確保しておきましょう。
特に「労災を使わないでくれ」という上司の指示を録音やメールで残しておけば、非常に強力な証拠となります。
よくある質問
ここでは、労災申請に迷う方が抱きやすい具体的な疑問に回答します。
Q:自分の不注意で怪我をした場合でも、労災は使えますか?
A:はい、使えます。 労災保険は「無過失責任」の原則に基づいています。あなたの不注意やミスが原因であっても、それが業務中に起きたことであれば、原則として全額補償されます。会社から「お前の不注意なんだから労災なんて通らない」と言われても、それは無視して構いません。
Q:バイトやパートでも労災は適用されますか?
A:当然、適用されます。 雇用形態は関係ありません。1日だけの単発バイトであっても、働いている以上はすべての労働者に労災保険を受ける権利があります。社会保険に加入していない短時間労働者であっても、労災保険は会社が全労働者分を加入させているものです。
Q:退職した後からでも労災申請は可能ですか?
A:可能です。 療養補償(治療費)は2年、休業補償や障害補償は5年という時効がありますが、在職中に起きた怪我であれば退職後でも申請できます。会社に居づらくなって辞めてしまった後でも、諦める必要はありません。
Q:会社が「うちは労災に入っていない」と言っていますが?
A:それは嘘か、重大な違法状態です。 労働者を一人でも雇っていれば、会社には労災保険への加入義務があります。万が一、会社が加入手続きを怠っていたとしても、労働者は遡って補償を受けることができます。その場合の保険料や罰金は、すべて国が会社から徴収します。
まとめ
労災を使わないことで得をするのは、保険料や世間体を気にする会社だけです。労働者であるあなたにとっては、経済的な損失と法的リスクしかありません。
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会社側の「メリット制」や「事務負担」は、あなたの健康を犠牲にする理由にはならない。
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健康保険の使用は「労災隠し」という違法行為への加担になり得る。
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労災なら治療費0円、休業補償80%、さらに後遺障害への一生涯の保障がある。
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会社が協力しなくても、労働基準監督署へ直接「自分一人で」申請できる。
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労災を理由とした解雇は法律で固く禁じられており、転職にも影響しない。
「会社に迷惑をかけたくない」という優しい気持ちが、あなたの将来を壊してしまわないよう、正しい権利を行使してください。
万が一、会社から強い圧力を受けたり、一人での申請が不安だったりする場合は、労働基準監督署の相談窓口や、労働問題に強い弁護士に相談することをお勧めします。
あなたの身体とこれからの生活を守れるのは、適切な制度を利用するというあなた自身の決断だけです。



























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