バレーボールにおいて、最も基本的でありながら最も奥が深い技術の一つが「オーバーハンドパス」です。
初心者から経験者まで、「ボールが遠くに飛ばない」「どうしてもドリブル(2度打ち)をとられてしまう」「トスの方向が安定しない」といった悩みを抱えるプレーヤーは少なくありません。特に、手の形や手首の使い方は感覚的な部分が多く、言葉で説明されてもなかなか身につきにくいものです。
オーバーハンドパスの質が変われば、チームの攻撃力は劇的に向上します。セッターだけでなく、すべてのポジションの選手にとって、正確なオーバーハンドパスを習得することは、試合に勝つための必須条件と言えるでしょう。
この記事では、オーバーハンドパスの基本から、飛距離を伸ばす全身の連動性、そしてミスを激減させるための具体的な練習方法までを徹底的に深掘りしていきます。
もくじ
なぜオーバーハンドパスが苦手なのか?多くの人が陥る「力み」と「手先だけ」の罠
オーバーハンドパスに苦手意識を持っている方の多くは、実は共通のミスを犯しています。それは、「ボールを飛ばそうとして腕の力だけで押し出している」という点です。
バレーボールは、飛んできたボールの勢いを自分の力として変換するスポーツです。しかし、苦手な人はボールが来るのを待ち構えすぎて、筋肉が硬直しています。この「力み」こそが、柔らかなタッチを阻害する最大の原因です。
以下の表に、オーバーハンドパスが苦手な人の特徴と、その原因を整理しました。
| 症状 | 主な原因 | 改善のポイント |
| ボールが飛ばない | 手首と膝の連動不足 | 下半身のバネを使う |
| ドリブルになる | 指の腹が使えていない | 指先で包み込む感覚 |
| パスが安定しない | 捕球位置がおでこから遠い | おでこの前でセットする |
| 指を突き指しやすい | 手の形が硬すぎる | 力を抜いて三角形を作る |
このように、オーバーハンドパスの悩みは、フィジカル(連動)とテクニック(手の形)のズレから生じています。まずは自分の悩みがどこにあるのかを明確にすることが、上達への第一歩となります。
【基本編】吸い付くようなパスを作る「手の形」と「構え」
「オーバーハンドパスは指先で三角形を作る」と教わったことがあるはずです。しかし、単に形を真似るだけでは不十分です。大切なのは、ボールを面で捉えつつ、指一本一本が自由に動ける状態を作ることです。
正しい手の形:親指と人差し指が作る「究極の三角形」
まず、両手の親指と人差し指で大きな三角形を作ってみてください。このとき、指をガチガチに固めるのではなく、「大きなスイカを包み込むような丸み」を持たせることが重要です。
この手の形が崩れると、ボールとの接地面積が小さくなり、コントロールが失われます。読者の方が「自分の手の形は正しいか」と不安になったときは、鏡の前で構えてみて、きれいな円が描けているかチェックしてみましょう。
捕球位置:おでこの斜め上10cmが「黄金のゴールデンゾーン」
ボールをどこで捕らえるかは、パスの精度を左右する決定的な要因です。理想的な位置は、おでこの斜め前、約10cm〜15cm程度の距離です。
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近すぎる場合: 肘が曲がりすぎてしまい、押し出すための「遊び」がなくなります。結果、ホールディングになりやすくなります。
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遠すぎる場合: 腕が伸び切った状態で捕らえるため、手首のクッションが使えず、ボールを弾いてしまいます。
「常にボールをヘディングする直前の位置で待ち構える」というイメージを持つと、自然と最適なポイントでボールを捉えられるようになります。
【実践編】ボールを遠くに飛ばすための「全身連動」のコツ
「腕の力はあるのにボールが飛ばない」という悩みは、パワー不足ではなく、エネルギーの伝達効率が悪いことが原因です。オーバーハンドパスは、足の裏から生み出したパワーを、膝→腰→肘→手首→指先へと順に伝えていくスポーツです。
膝のクッション:下半身のパワーを指先に伝える
遠くに飛ばしたい時ほど、手首を振るのではなく、膝を深く、かつ鋭く使いましょう。
- ボールの下に素早く入る。
- ボールを捕らえる瞬間に膝を軽く曲げ、エネルギーを溜める。
- 捕球と同時に膝を伸ばし始め、その上昇エネルギーを腕へと伝える。
「下半身でパスをする」という意識を持つだけで、指先の力みは驚くほど解消されます。 特に飛距離が必要なバックトスやオープントスでは、この下半身の連動が不可欠です。
肘と手首のリリース:最後の一押しで回転を制御する
ボールを押し出す最後の一瞬、肘を伸ばしながら手首を「外側」に返すようにリリースします。これを「スナップを効かせる」と表現することもありますが、無理に手首を折る必要はありません。
自然に両手を大きく広げるように送り出すことで、ボールに余計な回転がかからず、レシーバーやスパイカーが扱いやすい「無回転のパス」になります。
「ボールを放した後に、自分の手のひらが相手に向いているか」を確認してみてください。もし手のひらが内側を向いているなら、まだ力んでいる証拠です。
【悩み別】ドリブル・ホールディングを即座に改善する方法
試合中に反則をとられるのは、プレーヤーにとって最も避けたい事態です。特にオーバーハンドパスは審判の目が厳しくなりやすいポイントです。
Q:なぜドリブル(2度打ち)が起きてしまうのですか?
A:左右の手がボールに触れるタイミングがズレているからです。
ドリブルの主な原因は、ボールに対して正面に入っていないことにあります。斜めからボールを捕らえようとすると、どうしても片方の手が先に触れてしまいます。
「おへそをボールが飛んでくる方向に向ける」ことを徹底するだけで、ドリブルのリスクは激減します。また、指を柔らかく保ち、ボールの勢いを「吸い込む」感覚を養うことも有効です。
Q:ホールディング(持ちすぎ)を回避するには?
A:ボールを「キャッチ」するのではなく、一瞬の「タメ」を作る感覚を持ちましょう。
ホールディングをとられる人は、ボールを捕らえてから押し出すまでの時間が長すぎます。これは、指の力が弱かったり、おでこに近すぎる位置で捕球したりしていることが原因です。
解決策として、「ボールが指に触れた瞬間に、熱いものに触れたときのように素早く弾き出す」イメージを持ってみてください。ただし、指先だけで弾くのではなく、肘の屈伸運動をコンパクトに使うのがコツです。
自宅でも上達!オーバーハンドパス練習メニュー5選
チーム練習の時間だけでは、繊細な指の感覚を身につけるのは難しいものです。自宅での5分、10分の積み重ねが、大きな差を生みます。
1. 椅子に座って直上パス
立って練習すると膝の力に頼ってしまいますが、あえて椅子に座ることで、「肘と手首、指先だけの感覚」を研ぎ澄ますことができます。
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目的:指先のコントロール力の向上
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回数:50回×3セット
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ポイント:天井にぶつけないよう、一定の高さで連続して行う。
この練習を繰り返すと、指がボールの重みを「どの指で支えているか」が鮮明に分かるようになります。
2. 壁打ちドリブル(超至近距離)
壁から30cmほどの距離に立ち、高速でパタパタとボールを壁に当て続けます。
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目的:手首の柔軟性と指の反応速度アップ
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回数:1分間連続
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ポイント:手の形を崩さず、指の腹だけで叩く。
「指先が疲れてきたな」と感じるくらいが、筋肉が強化されている証拠です。 握力ではなく、指を支える筋力がつくことで、強いボールにも負けないパスが可能になります。
3. 寝ながら直上パス
仰向けに寝た状態で、真上にパスを出します。
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目的:正しい捕球位置(おでこの上)の固定
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ポイント:顔にボールが落ちてこないよう、正確にコントロールする。
寝た状態では腕を前に出すことができないため、強制的に「おでこの真上」で捕らえるフォームが身につきます。
4. グーパートレーニング
ボールを使わないトレーニングです。両腕を前に突き出し、全力で指を「グー」「パー」と開閉します。
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目的:指の瞬発力とスタミナ
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回数:100回
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ポイント:パーのときに指を限界まで開く。
非常に地味な練習ですが、「指の力が弱くてボールに押し負ける」という初心者の方には劇的な効果があります。
5. 重いボール(メディシンボール)でのキャッチ&スロー
もし重いボールがあれば、それをオーバーハンドパスの形で捕球し、全身で押し出す練習をします。
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目的:全身連動の強化
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ポイント:手先だけで投げようとせず、必ず膝を使って押し出す。
これにより、軽いバレーボールを持ったときに「羽のように軽く飛ばせる」感覚が手に入ります。
よくある質問
Q:指が短くてボールを包み込めないのですが、コツはありますか?
A:指の長さはパスの精度に決定的な影響を与えません。大切なのは「5本の指の役割」を理解することです。親指、人差し指、中指の3本で主にボールを支え、薬指と小指は横に添えてブレを防ぐという役割分担を意識してください。指が短くても、指の腹をしっかり使えば安定したパスは十分に可能です。
Q:試合になると緊張して手がガチガチになります。どうすればいいですか?
A:緊張すると呼吸が浅くなり、肩に力が入ります。パスを出す直前に、「フーッ」と息を吐きながら肩を落とす習慣をつけてみてください。また、構えの段階で指を少し動かして(ピアノを弾くように)リラックスさせるのも効果的です。
Q:セッターとして、もっと速いトスを上げたいです。
A:速いトス(クイックなど)を上げるには、ボールを捕らえる位置を通常より少し「高く」設定し、手首の返しを鋭くする必要があります。「ボールの勢いを殺さず、そのまま方向だけ変える」というイメージです。そのためには、壁打ち練習で極限まで接地時間を短くする訓練を積みましょう。
まとめ
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手の形は「スイカを包む丸み」を帯びた三角形を作り、指の腹で触れる。
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捕球位置は「おでこの斜め上10cm」をキープし、ヘディングする感覚を持つ。
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飛距離を出すには、手先ではなく「膝のクッション」との連動が不可欠。
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ドリブルを防ぐには、常に「ボールの正面」におへそを向けて入る。
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自宅での「椅子パス」や「壁打ち」で、繊細な指の感覚を養う。
オーバーハンドパスは、一朝一夕で身につく技術ではありません。しかし、正しいフォームを意識して毎日ボールに触れることで、必ず「ボールが手に吸い付く感覚」が訪れます。
その感覚を掴んだとき、あなたのトスはスパイカーにとって最高のプレゼントになり、チームに勝利をもたらす原動力となるはずです。まずは今日、鏡の前で自分の「手の形」をチェックするところから始めてみましょう。






















指の腹で触れる: 手のひら(ベタ手)ではなく、指の第一関節から第二関節までの「腹」の部分でボールに触れます。
親指の向き: 親指を自分の目の方に向けず、やや横に開くことで、ボールを深く迎え入れることができます。