「医療費控除を申請したいけれど、保険会社から受け取った入院給付金を差し引くと、還付金がほとんどなくなってしまう……。」
これ、正直に書かなくてもばれないのではないか?」
確定申告の時期になると、Yahoo!知恵袋などの掲示板でこのような切実な悩みや、ときには
「自分はバレなかった」
という危うい体験談を目にすることがあります。
しかし、結論からお伝えすると、税務署はあなたが考えている以上に「誰が、どの保険会社から、いくら受け取ったか」を正確に把握しています。
本記事では、医療費控除における保険金の扱いのルールから、税務署が情報を収集するメカニズム、そして申告漏れが発覚した際の厳しいペナルティまで、専門的な視点で詳しく解説します。
もくじ
医療費控除で保険金を差し引くのは「権利」ではなく「義務」
まず大前提として理解しておくべきなのは、医療費控除の計算において、受け取った保険金を差し引くことは所得税法第73条で定められた法的義務であるということです。
医療費控除は「実際に家計から支払った自己負担額」に対して適用される制度です。保険金などで補填された分は「支払った」とはみなされないため、その分を差し引かずに申告することは、本来払うべき税金を不当に逃れる行為とみなされます。
医療費控除の基本計算式
医療費控除の額は、以下の計算式によって導き出されます。
| 項目 | 内容 |
| 実際に支払った医療費の合計 | 1月1日から12月31日までに支払った額 |
| 保険金などで補填される金額 | 生命保険の入院給付金、高額療養費、出産育児一時金など |
| 10万円(所得200万未満は所得の5%) | 足切り額(自己負担の基準線) |
| 控除額(最大200万円) | 上記を差し引いて残った金額 |
この表から分かる通り、保険金などで補填される金額が大きければ大きいほど、控除できる金額は少なくなります。読者の方が「できれば差し引きたくない」と感じる理由はここにありますが、この「補填される金額」を正しく申告しないことが、後に大きなトラブルを招く原因となります。
なぜバレる?税務署が保険金の支払い情報を把握する「2つのルート」
「保険は民間の契約だし、通帳に振り込まれるだけなら税務署には分からないはず」という考えは、現代の税務行政においては通用しません。税務署が個人の保険金受取を把握する主なルートは以下の2つです。
1. 保険会社から提出される「支払調書」
税務署が最も強力な武器としているのが、保険会社に義務付けられている「支払調書」の提出です。
所得税法に基づき、保険会社は一定額(一般的に100万円など)を超える保険金や給付金を支払った場合、その内容を記した支払調書を管轄の税務署へ提出します。ここには受取人の氏名、住所、支払金額、支払日、支払理由(入院・手術など)が詳細に記載されています。
「少額ならバレないのでは?」と思うかもしれませんが、近年の税務署はシステムの高度化により、複数の小さな支払調書を名寄せして個人の収入状況を網羅的に把握する能力が飛躍的に向上しています。
2. 税務調査と「おたずね」の存在
確定申告後、提出された申告書の内容と、税務署が保有する支払調書や過去のデータに矛盾が生じた場合、税務署から「おたずね」と呼ばれる文書が届いたり、直接電話が入ったりすることがあります。
これは正式な税務調査の前段階であることが多く、「医療費の領収書と、それに対する保険金の受取状況を再確認してください」という趣旨の内容です。ここで回答を誤ったり無視したりすると、本格的な税務調査へと発展し、過去数年分の銀行口座の履歴まで徹底的に調べられることになります。
税務署は泳がせているだけで、忘れた頃にやってくるというのは、決して都市伝説ではないのです。
差し引く必要がある保険金と、対象外になる保険金の境界線
医療費控除の計算で差し引かなければならないのは、「その病気やケガの治療のために受け取った保険金」に限定されます。すべての保険金が対象になるわけではありません。
差し引く必要があるもの(補填される金額)
以下のものは、対象となる医療費から必ず差し引かなければなりません。
これらは「医療費の支払いを補うための性質」を持っているため、受け取った金額をそのまま医療費からマイナスする必要があります。
差し引かなくて良いもの(対象外)
一方で、以下のような名目の金銭は、医療費から差し引く必要はありません。
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死亡保険金(治療のための補填ではないため)
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がん診断給付金(診断確定に対して支払われる一時金であり、使途が限定されないため)
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就業不能保険の給付金(生活費の補填としての性格が強いため)
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お見舞金(個人的な贈与の範囲内であれば)
「何でもかんでも差し引く」のではなく、「その医療行為を補填するために支払われたものか」という視点で整理することが、正しい節税とリスク回避の第一歩となります。
保険金の申告漏れが発覚した際の「4つのペナルティ」
もし保険金の差し引きを忘れ、税務署からの指摘で修正を行うことになった場合、本来納めるべきだった税金に加えて、以下のような附帯税(ペナルティ)が課されます。
| ペナルティの種類 | 内容と税率の目安 |
| 過少申告加算税 | 新たに納めることになった税金の10%〜15%相当額 |
| 延滞税 | 納期限の翌日から完納までの日数に応じた利息(年利約2%〜9%前後) |
| 重加算税 | 意図的な隠蔽や偽装と判断された場合、35%〜40%の重い加算税 |
| 住民税の追徴 | 所得税の修正に伴い、翌年の住民税も自動的に増額・追徴される |
特に「知恵袋でばれないと聞いたから隠した」といった行為は、意図的な隠蔽とみなされ重加算税の対象になるリスクがあります。
数万円の還付金欲しさに、その数倍ものペナルティを支払うことになるのは、極めて合理性に欠ける判断と言わざるを得ません。「バレるかバレないか」で悩む時間は、精神的なコストとしても非常に高くつきます。
「うっかり忘れ」に気づいた時の対処法:修正申告のすすめ
この記事を読んで「あ、去年の確定申告で保険金を差し引くのを忘れていた!」と気づいた方もいらっしゃるかもしれません。その場合は、税務署から指摘を受ける前に「修正申告」を行うことを強く推奨します。
指摘される前に動くメリット
自分から間違いを申し出て修正申告を行う場合、過少申告加算税が免除されるという大きなメリットがあります。
負担するのは「本来払うべきだった税金の差額」と「遅れた期間分の延滞税(利息)」だけで済みます。延滞税は日割り計算のため、1日でも早く手続きをすることで出費を最小限に抑えることが可能です。
修正申告の手続き方法
- 確定申告書等作成コーナー(e-Tax)を利用する
- 過去の申告データを読み込み、保険金の額を正しく入力し直す
- 差額の税金を納付する
現在はスマホやPCから簡単に修正申告書を作成できます。不明点があれば、管轄の税務署へ電話で相談すれば丁寧に教えてもらえます。「怒られるのが怖い」と感じる必要はありません。税務署にとっては、自発的な修正は歓迎すべき行為なのです。
よくある質問
Q:保険金のほうが医療費よりも多かった場合、余った分はどうすればいいですか?
A:保険金が医療費を上回った場合、その余った分を他の病気やケガの医療費から差し引く必要はありません。
医療費控除における保険金の差し引きは「引ききれない分は切り捨て(0円として扱う)」というルールがあります。例えば、A病の入院で50万円支払い、保険金を60万円受け取った場合、A病の医療費控除額は0円になりますが、余った10万円をB病の治療費から引く必要はないということです。
Q:共働き夫婦の場合、どちらの医療費から保険金を引くのが得ですか?
A:基本的には、「実際にその医療費を支払い、かつ保険金を受け取った人」の申告から差し引くのが原則です。
ただし、生計を一にする家族であれば、所得の多い方が家族全員分をまとめて申告するのが最も節税効果が高くなります。その場合、誰が受け取った保険金であっても、対象となる医療費に対応するものはすべて合算して差し引かなければなりません。
Q:数年前の申告漏れもバレますか?
A:はい、バレる可能性は十分にあります。
税務署が支払調書などの資料を精査し、申告内容と照らし合わせる作業には時間がかかるため、申告から2〜3年経ってから指摘が来るケースは珍しくありません。所得税の時効(更正の期限)は原則として5年(悪質な場合は7年)ですので、その期間内であればいつでも調査の手が入る可能性があります。
まとめ
医療費控除における保険金の扱いは、一見すると「自己申告だからごまかせる」ように思えるかもしれません。
しかし、日本の税務システムは非常に緻密に構成されており、保険会社からの支払調書という確実な証拠が税務署に蓄積されています。
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保険金の差し引きは所得税法上の義務である
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税務署は保険会社からの支払調書で個人の受取額を把握している
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「ばれない」というネットの情報を信じるのは極めてリスクが高い
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申告漏れが発覚すると、過少申告加算税や延滞税などのペナルティが課される
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間違いに気づいたら、自発的に修正申告を行うことでリスクを最小化できる
医療費控除は、正しく活用すれば家計を助ける強力な味方となります。しかし、それは「正しい申告」があってこそ成り立つものです。
目先の小さな還付金にとらわれて、将来的な社会的信用や多額の追徴課税というリスクを背負うのは得策ではありません。
もし不安や疑問がある場合は、税理士などの専門家や税務署の窓口に相談し、誠実な申告を行うことを心がけましょう。それが結果として、あなたの資産と安心を守る一番の近道になるはずです。






















生命保険や損害保険の入院給付金・手術給付金
健康保険から支給される高額療養費
家族の扶養に入っている場合に支給される家族療養費
出産育児一時金
損害賠償として受け取った医療費補填金