愛くるしい表情と、どっしりとした存在感で知られるマーモット。世界中にファンを持つこの大型齧歯類を、日本国内でペットとして飼うことは決して不可能ではありません。
しかし、その外見の可愛らしさの裏には、一般的なペットとは比較にならないほどの高いハードルが存在します。
マーモットを家族に迎えようと考えているあなたは、今、期待と不安が入り混じった状態ではないでしょうか。
珍しい動物だからこそ、ネット上の断片的な情報だけで判断するのは非常に危険です。
この記事では、マーモットと暮らすために必要な法的知識、費用、環境、そしてその一生に寄り添うための心構えを、どこよりも具体的に掘り下げていきます。
もくじ
マーモットをペットとして飼うための基本知識と法的規制
まず最初に理解しておくべきは、日本国内で「どの種類のマーモットが飼育可能なのか」という法律の問題です。すべてのマーモットが自由に飼えるわけではありません。
日本国内で飼育できる種類
現在、日本のペットショップで稀に見かける、あるいは個人輸入などで流通しているのは、主に以下の2種類です。
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アルプスマーモット: ヨーロッパの山岳地帯に生息する種で、非常に大型。冬眠の習性が強い。
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ウッドチャック(グラウンドホッグ): 北米に生息し、マーモットの中では比較的流通量がある。
一方で、ボバクマーモットなどは「特定外来生物」に指定されている場合があり、原則として一般家庭での飼育は禁止されています。 自分が検討している個体がどの種類に該当するのか、販売店に対して学名レベルでの確認を行うことが不可欠です。
マーモットの身体的特徴と寿命
マーモットはリスの仲間ではありますが、そのサイズは猫や小型犬に匹敵します。体重は種類や季節によって変動しますが、3kgから、多いときには8kgを超えることもあります。
寿命は飼育下では12年から15年と言われています。これは、犬や猫とほぼ同等か、それ以上の長い年月を共に過ごすことを意味します。
一時の好奇心ではなく、人生の大きなステージを共に歩む覚悟があるか、自問自答してみてください。
マーモットの入手方法と販売価格の相場
マーモットは、犬や猫のように近所のペットショップでいつでも出会える動物ではありません。その希少性ゆえに、入手ルートは非常に限られています。
入手ルートの選び方
主な入手方法は、エキゾチックアニマルを専門に扱うショップからの購入です。年に数回、海外からの輸入便に混じって入荷することがありますが、予約なしで購入できるケースは極めて稀です。
また、里親募集サイトなどで見かけることもありますが、マーモットは非常に縄張り意識が強く、環境の変化に敏感な動物です。
前の飼い主が手放した理由が「性格の荒さ」や「破壊行動」である場合、初心者が手懐けるのは至難の業であることを覚悟すべきでしょう。
販売価格と初期費用の目安
マーモットの生体価格は、年々上昇傾向にあります。かつては10万円台で取引されることもありましたが、現在は輸入コストの高騰により、以下の表のような価格帯が一般的です。
マーモット飼育にかかる初期費用の概算
表からわかる通り、初期費用だけで数十万円の予算が必要です。これに加えて、専門医による初診料や、万が一の際の治療費もストックしておく必要があります。
金銭的な余裕は、マーモットの健康を守るための絶対条件と言えます。
飼育環境の構築とマンションでの注意点
マーモットは野生下では地下に深い巣穴を掘って生活しています。この本能を満たしつつ、家庭内での安全を確保する環境作りは、飼育の成否を分ける最重要ポイントです。
ケージの選び方と設置場所
一般的なウサギ用ケージでは、マーモットには小さすぎます。犬用の大型サークルや、チンチラ用の背の高いケージを改造して使用するのが一般的です。
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床材の工夫: 穴掘り本能を満たすため、深めに床材を敷ける構造が理想ですが、衛生面を考慮し、牧草を大量に敷き詰める方法が現実的です。
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温度・湿度の厳密な管理: 高山地帯に住むアルプスマーモットなどは、日本の夏の高温多湿に極めて弱いです。夏場は24時間エアコンを稼働させ、室温を20〜23度前後に保つ必要があります。
部屋の破壊対策と放し飼いのリスク
マーモットの歯は一生伸び続け、その切断力は凄まじいものがあります。ケージから出して部屋で遊ばせる(部屋んぽ)際には、電気コード、壁紙、家具の脚などはすべて破壊の対象になると考えてください。
電気コードを噛めば感電死の恐れがあり、壁紙を誤食すれば腸閉塞のリスクがあります。マーモットを放すスペースには、一切の障害物を置かない、あるいは金属製のガードで完全に遮断する徹底した対策が求められます。
マーモットの食事と栄養管理:何をどれくらい与えるべきか
草食動物であるマーモットにとって、食事は健康管理の根幹です。誤った食事は、不正咬合(歯の噛み合わせ不全)や消化器疾患を招き、寿命を縮める直接的な原因となります。
主食は高品質な牧草(チモシー)
食事の8割以上は、乾燥した牧草であるべきです。
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1番刈りチモシー: 繊維質が豊富で、歯の摩耗を助けます。常に新鮮なものを食べ放題の状態にしておきます。
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ペレット: 齧歯類用の総合栄養食を補助的に与えますが、高カロリーなものは肥満を招くため、量は厳格に管理します。
野菜・果物と与えてはいけないもの
おやつとして野菜を与えるのはコミュニケーションに有効ですが、水分や糖分の摂りすぎには注意が必要です。
与えてもよい野菜と控えるべき食品
懐く?懐かない?マーモットの性格とコミュニケーション
多くの人が期待する「懐く」という状態。マーモットは非常に知能が高く、飼い主を識別し、甘えるような仕草を見せることもあります。しかし、それは決して容易な道のりではありません。
信頼関係を築くまでのステップ
マーモットは元来、警戒心の強い動物です。無理に抱っこをしたり、追いかけ回したりすれば、一生消えない恐怖心を植え付けることになります。
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環境に慣らす: お迎えから1週間は、過度な接触を避け、ケージの外から優しく声をかける程度にします。
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手からおやつを与える: 「この人は美味しいものをくれる安全な存在だ」と認識させます。
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優しく撫でる: 顎の下や耳の後ろなど、喜ぶポイントを探ります。
「個体差が非常に大きい」という事実を受け入れることが重要です。
ベタ慣れして膝の上に乗ってくる個体もいれば、生涯を通じて一定の距離を保つ個体もいます。自分の理想を押し付けず、その子の個性を愛せるかどうかが問われます。
噛み癖と発情期の凶暴化
マーモットのコミュニケーションには、時に「噛む」という行為が含まれます。特に発情期にはホルモンバランスの変化により、普段は穏やかな個体であっても、突然攻撃的になることがあります。
この時の噛む力は、人間の指を容易に貫通し、数針縫う怪我を負わせるほど強力です。**「噛まれても怒らず、冷静に対処できる精神力」**が、マーモットの飼い主には求められます。
健康管理と寿命、注意すべき病気のリスク
エキゾチックアニマルであるマーモットを診察できる動物病院は、日本国内に数えるほどしかありません。病気になってから病院を探すようでは、手遅れになる可能性が高いでしょう。
専門医の確保は必須
自宅から通える範囲に、**「齧歯類、特にマーモットの診察実績がある病院」**があるかどうか、必ずお迎え前に確認してください。
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定期検診: 3ヶ月〜半年に一度は、不正咬合のチェックや糞便検査を受けることを推奨します。
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治療費の高騰: 珍しい動物の治療は保険が適用されないことが多く、手術や入院が必要になれば、一度に数十万円の費用が発生することも珍しくありません。
陥りやすい病気とその予防
最も多いトラブルは、歯に関する問題です。牧草を十分に食べない、あるいはケージの金属部分を噛み続けることで、歯の根元が炎症を起こしたり、噛み合わせが歪んだりします。
また、運動不足による肥満は、心臓や関節に大きな負担をかけます。
「適切な食事・広々とした運動スペース・信頼できる専門医」。この3点セットが揃って初めて、マーモットの健康は保たれます。
よくある質問
マーモットを飼育する上で、多くの人が抱く疑問をQ&A形式で整理しました。
Q:マーモットは臭いますか?
A:個体そのものの体臭はそれほど強くありませんが、大型齧歯類特有の排泄物の量は非常に多いです。特に尿の臭いは放置すると強烈になるため、毎日の清掃と、吸水性の高い床材の頻繁な交換が不可欠です。
Q:鳴き声はうるさいですか?
A:野生下では見張り役が鋭い口笛のような警戒鳴きを発します。家庭内でも、空腹時や驚いた時に大きな声で鳴くことがあります。マンション等では壁の薄さによっては隣室に聞こえる可能性があるため、防音対策を検討すべきです。
Q:多頭飼いは可能ですか?
A:野生ではコロニーを作りますが、狭い飼育下では激しい縄張り争いが起こり、死に至るほどの喧嘩に発展するリスクがあります。特にオス同士の同居は極めて難しく、基本的には単独飼育が推奨されます。
Q:冬眠はさせたほうがいいですか?
A:家庭飼育下での冬眠は非常にリスクが高く、そのまま目覚めないケースも多いため、推奨されません。冬場もヒーター等を活用し、一定の温度を保って「冬眠させない管理」を行うのが一般的です。
Q:散歩(外に連れ出すこと)は必要ですか?
A:ハーネスをつけて外を散歩させる飼い主もいますが、交通事故、カラス等の天敵の襲撃、寄生虫感染、逃亡など、リスクが非常に高いです。基本的には、室内での「部屋んぽ」だけで運動量は十分に確保できます。
まとめ
マーモットをペットとして迎えるということは、単に珍しい動物を所有することではなく、ひとつの野生の命を、その天寿を全うするまで守り抜くという重い契約を結ぶことです。
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日本で飼えるのはアルプスマーモットやウッドチャックなどで、法的確認が必須
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生体価格は25万〜50万円、初期費用も含めると非常に高額な投資が必要
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24時間の温度管理と、家を破壊されないための徹底した環境構築が求められる
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診察できる専門医が極めて少なく、医療アクセスの確保が飼育の前提条件
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性格には大きな個体差があり、噛み癖や発情期の変化を受け入れる寛容さが必要
マーモットとの暮らしは、決して楽なものではありません。毎日の掃除、温度の微調整、高価な食事の用意、そして時には激しい噛み傷に耐える日々が待っているかもしれません。
しかし、彼らが心を開き、あなたに寄り添って眠る姿を見せてくれたとき、その苦労はすべて報われるほどの深い絆を感じることができるはずです。
もしあなたが、金銭的・環境的・精神的なすべての条件をクリアし、なおかつ「この子と一生を共にしたい」と心から思えるのであれば、マーモットはあなたの人生に、他のどんな動物にも代えがたい豊かさと驚きをもたらしてくれるでしょう。
十分な準備と覚悟を持って、新しい家族を迎え入れる第一歩を踏み出してください。




















