静かな部屋で、じっとこちらを見つめる不思議な瞳。恐竜のような力強い造形美と、時折見せる愛くるしい仕草。
近年、爬虫類の中でもトカゲをペットとして迎える人が急増しています。
トカゲとの生活は、犬や猫とは全く異なる魅力に満ちています。
鳴かない、散歩が不要、そして何よりその独特な存在感は、忙しい現代人の生活にそっと寄り添ってくれる最高のアニマート(伴侶)となります。
しかし、トカゲは環境の変化に敏感な生き物でもあります。「正しい知識を持たずに飼い始めてしまい、短期間で死なせてしまった」という悲しい失敗は、絶対に避けなければなりません。
この記事では、トカゲを初めて飼う方が抱くすべての疑問を解消し、あなたとトカゲが10年、15年と幸せに暮らすための具体的な方法を徹底的に解説します。
もくじ
トカゲをペットにする魅力と知っておくべき現実
トカゲをペットにする最大の魅力は、その「手間のかからなさと奥深さの両立」にあります。
一人暮らしや共働きで家を空ける時間が長くても、適切な飼育設備さえ整えれば、トカゲはストレスを感じることなく自分の時間を過ごしてくれます。
また、毎日のお世話は給餌と水替え、排泄物の掃除がメインであり、ルーチンワークとして確立しやすいのも特徴です。
一方で、爬虫類は「感情で通じ合う」というよりは、「適切な環境を提供することで健康な姿を見せてもらう」という関係性になります。
なつく種類もいますが、それは犬のように駆け寄ってくるものではなく、人の手に慣れて「安全な場所だ」と認識してくれる状態を指します。
この「適度な距離感」こそが、爬虫類飼育の醍醐味であると言えるでしょう。
ただし、以下の3点は飼育前に必ず覚悟しておく必要があります。
これらをクリアできるのであれば、トカゲはあなたの人生を豊かに彩る最高のパートナーになってくれるはずです。
初心者が失敗しない「おすすめのトカゲ」5選
初めてのトカゲ選びで最も重要なのは、「日本の室内環境で管理しやすく、性格が温厚な種類」を選ぶことです。
一口にトカゲと言っても、樹上で生活するもの、砂漠で暮らすもの、昆虫しか食べないものなど、その生態は千差万別です。初心者が扱いやすく、かつ人気も高い5種類を厳選しました。
以下の表で、それぞれの特徴を比較してみましょう。
| 種類名 | 全長 | 餌の種類 | 性格 | 飼育難易度 |
| ヒョウモントカゲモドキ | 約20〜25cm | 昆虫・人工飼料 | 非常に温厚 | ★☆☆☆☆ |
| フトアゴヒゲトカゲ | 約40〜50cm | 昆虫・野菜・人工飼料 | 人に慣れやすい | ★★☆☆☆ |
| アオジタトカゲ | 約40〜60cm | 雑食(果実・昆虫・肉) | おっとりしている | ★★☆☆☆ |
| クレステッドゲッコー | 約20cm | 昆虫・人工飼料(果実系) | 動きはやや速い | ★★☆☆☆ |
| ニホントカゲ(野生種) | 約15〜20cm | 昆虫 | 非常に臆病 | ★★★☆☆ |
表を見るとわかる通り、サイズや食性が種類によって大きく異なります。それぞれの詳しい特徴を見ていきましょう。
1. ヒョウモントカゲモドキ(レオパ)
通称「レオパ」と呼ばれる、現在世界で最も人気のあるトカゲの一種です(分類上はヤモリの仲間ですが、まぶたがありトカゲに近い容姿をしています)。
最大のメリットは、「昆虫を与えなくても人工飼料だけで終生飼育が可能」な点です。虫が苦手な方にとって、これは大きな安心材料となるでしょう。
また、カラーバリエーション(モルフ)が豊富で、自分好みの美しい個体を探す楽しみもあります。動きがゆっくりで噛むこともほとんどないため、「初めて爬虫類に触れる」という方に最適な種類です。
2. フトアゴヒゲトカゲ
「トカゲを飼っている!」という実感を最も強く味わえるのがフトアゴヒゲトカゲです。
名前の通り喉元に髭のような鱗があり、恐竜を小さくしたような格好良さが魅力です。
非常に知能が高く、飼い主の顔を覚えたり、手から餌を食べたりと、「コミュニケーションを楽しみたい人」に強くおすすめします。
ただし、昼行性のため強力な紫外線ライトが必要であり、ケージも90cm以上の大型のものを用意する必要があります。
「初期投資を惜しまず、しっかりとした環境を作れるか」が飼育の鍵となります。
3. アオジタトカゲ
その名の通り、鮮やかな青い舌を持つトカゲです。
ツチノコのような独特の体型と、のっそりとした動きが特徴。
雑食性が非常に強く、専用の人工飼料のほか、果物やゆで卵なども食べるため、餌のバリエーションが豊富で飽きることがありません。
性格も比較的おっとりしており、「少し大きめのトカゲとゆったり過ごしたい」というニーズに合致しています。多湿な環境を好むため、湿度管理がポイントになります。
4. クレステッドゲッコー(クレス)
まつ毛のような突起が可愛らしい、樹上性の種類です。
最大の特徴は、「温度管理が比較的容易」な点です。多くのトカゲが30度以上の高温を必要とするのに対し、クレスは25度前後の涼しい環境を好みます。
日本の夏場の高温には注意が必要ですが、冬場の保温負荷は少なめです。
垂直な壁を登ることができるため、高さのあるケージでレイアウトを楽しむことができます。専用のパウダーフード(水で溶くタイプ)が普及しており、「虫を一切使わない飼育」が確立されています。
5. ニホントカゲ・ニホンカナヘビ
身近な公園や庭先で見かける種類ですが、実はペットとしても非常に魅力的です。
野生個体を捕まえる場合は生体代が無料ですが、実は「飼育難易度はレオパなどより高い」ことに注意が必要です。
非常に臆病でストレスを溜めやすく、日光浴(紫外線)が不足するとすぐに体調を崩してしまいます。
身近な生き物だからこそ、「正しい環境を整えて観察する」という深い学びを与えてくれる存在です。
トカゲ飼育に不可欠な「7つの基本アイテム」
トカゲを家に迎える前に、必ず環境をセットアップしておかなければなりません。爬虫類にとって、「ケージの中が世界のすべて」だからです。
最低限必要なアイテムは以下の7点です。
- 飼育ケージ: 種類に合わせた広さと高さ。
- 保温器具: パネルヒーターや保温球(サーモスタット併用)。
- 照明(紫外線・バスキング): 昼行性種には必須。
- 床材: 誤飲しにくいキッチンペーパーや専用の砂。
- シェルター: トカゲが隠れて安心できる場所。
- 水入れ・餌皿: 常に清潔な水が飲めるようにする。
- 温湿度計: 24時間の環境変化を把握するため。
これらを揃えるための費用は、小型種で2〜3万円、中型種で5〜10万円ほどが目安となります。
「安物買いの銭失い」にならないよう、最初から信頼性の高い爬虫類専用メーカーの製品を選ぶことが、結局は生体の健康とコスト削減につながります。
温度・湿度管理こそがトカゲの命を左右する
トカゲは「変温動物」であり、自ら体温を調節することができません。そのため、ケージ内に「温度勾配(温度の差)」を作ることが鉄則です。
ケージの片側を「ホットスポット(30〜35度前後)」、もう片側を「クールスポット(25度前後)」に設定することで、トカゲは自分の体温に合わせて場所を移動します。
これができない環境では、「消化不良を起こして死んでしまう」か、逆に「オーバーヒートで脱水症状を起こす」かのどちらかになってしまいます。
また、脱皮を正常に行うためには適度な湿度も不可欠です。
特に冬場の乾燥は、指先が壊死する「脱皮不全」の原因となるため、霧吹きや加湿器による対策を怠らないようにしましょう。
「毎日温湿度計を確認し、トカゲの動きを観察する」。これこそが、飼育者にとって最も重要な日課となります。
餌の種類と「人工飼料」への移行ガイド
「トカゲは好きだけど、虫は無理……」という理由で諦める必要はありません。現代の爬虫類飼育において、人工飼料の進化は目覚ましいものがあります。
現在主流となっている餌は以下の3タイプです。
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昆虫(活餌・冷凍): コオロギ、デュビア。栄養価は高い。
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人工飼料(ゲル・ペレット): レオパゲル、フトアゴドライなど。保存が利く。
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乾燥餌・乾燥昆虫: 水でふやかして与えるタイプ。
初心者が人工飼料で育てたい場合は、「ショップで既に人工飼料に慣れている個体」を選ぶことが成功の近道です。
もし拒食(餌を食べない状態)になった場合は、無理に与えようとせず、まずは温度設定を見直してください。
トカゲが餌を食べない原因の多くは、空腹ではないことではなく、「消化できる体温に達していないこと」にあります。
トカゲと仲良くなるための「ハンドリング」のコツ
「トカゲと触れ合いたい」と思うのは自然なことですが、彼らにとって人間は巨大な捕食者に見えることもあります。
無理なスキンシップは寿命を縮めるほどのストレスになります。「トカゲのペースに合わせる」ことが、結果として最も早く仲良くなれる秘訣です。
ハンドリング(手に乗せること)の手順は以下の通りです。
- まずは数日間、環境に慣れるまでそっとしておく。
- 掃除や給餌の際に、飼い主の「手の匂い」を覚えさせる。
- トカゲが起きている時に、正面からではなく「横からそっと」手を差し出す。
- 決して上から掴まない(鳥に襲われる恐怖を連想させるため)。
- 手のひらで包み込むのではなく、「動く枝」のようにして歩かせる。
「自分の意志で手に乗ってきてくれた」。その瞬間、あなたとトカゲの絆は確かなものへと変わります。
かかりやすい病気と信頼できる病院の見つけ方
トカゲは体調不良を隠すのが非常に上手な生き物です。目に見えて異変が現れた時には、すでに病状が深刻化していることが珍しくありません。
以下のサインが見られたら、すぐに専門医に相談してください。
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目が落ち窪んでいる(脱水症状)。
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口を半開きにしてゼーゼーと呼吸している(呼吸器感染症)。
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手足の関節が不自然に曲がっている(代謝性骨疾患・くる病)。
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1週間以上排泄がない(便秘・腸閉塞)。
爬虫類を診察できる動物病院は限られています。「生体を迎える前に、必ず近隣の爬虫類対応病院を特定しておく」ことが、飼い主としての最低限の義務です。
ネットの掲示板やSNSの情報だけで自己判断するのは非常に危険です。専門家の診断こそが、大切な家族の命を守る唯一の手段であることを忘れないでください。
よくある質問
ここでは、トカゲ飼育を検討している方から寄せられる「よくある質問」とその回答をまとめました。
Q:トカゲを飼うと部屋が臭くなりませんか?
A:トカゲ自体に体臭はほとんどありません。臭いの原因の9割は「排泄物」と「食べ残しの放置」です。これらを毎日しっかり掃除していれば、犬や猫に比べて圧倒的に無臭で飼育することが可能です。ただし、水入れが汚れると雑菌が繁殖して臭うことがあるため、水は毎日替えましょう。
Q:旅行に行くとき、トカゲはどうすればいいですか?
A:成体のトカゲであれば、2〜3日程度の留守番は問題ありません。照明や保温器具をタイマー管理し、水さえ十分に用意しておけば大丈夫です。ただし、ベビー(幼体)の場合は毎日の給餌が必要なため、4日以上の長期不在になる場合は、ペットホテルや爬虫類に詳しい知人に預けることを検討してください。
Q:多頭飼い(同じケージで複数飼うこと)はできますか?
A:基本的には「単独飼育」を強く推奨します。トカゲは縄張り意識が強く、同じケージに入れると喧嘩をしたり、立場の強い個体が弱い個体の餌を奪ったりしてしまいます。共食いのリスクもあります。どうしても複数を飼いたい場合は、個体ごとにケージを分けるのが鉄則です。
Q:冬場の電気代はどのくらいかかりますか?
A:種類やケージのサイズ、部屋の断熱性によりますが、小型種1匹であれば月額500円〜1,500円程度、中型種で保温球をガンガン使う場合は2,000円〜4,000円程度が目安です。ケージを断熱材(スタイロフォームなど)で囲むことで、電気代を大幅に節約することができます。
まとめ
トカゲをペットとして迎えるために、これだけは押さえておきたいポイントを整理します。
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自分の生活スタイル(餌、スペース、接し方)に合った種類を慎重に選ぶ。
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「温度勾配」と「紫外線」の重要性を理解し、適切な設備を妥協せず整える。
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人工飼料を活用しつつも、生体の健康状態に合わせた柔軟な給餌を心がける。
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無理なハンドリングは避け、トカゲが安心できる環境づくりを最優先する。
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万が一に備え、爬虫類を診られる動物病院を事前にリサーチしておく。
トカゲは、正しく飼育すれば10年以上、あなたの生活に癒やしと驚きを与え続けてくれる素晴らしい生き物です。
その小さな体には、何億年も前から続く生命の神秘が詰まっています。
彼らがケージの中でリラックスして目を閉じ、あるいは元気に餌を追いかける姿を見る時、あなたはこの趣味の深さに心から満足することでしょう。
この記事が、あなたの新しい「爬虫類ライフ」の第一歩となることを願っています。命を預かる重みを大切にしながら、ぜひトカゲとの最高の時間を作り上げてください。






















寿命が10年以上と長く、長期的な責任が伴うこと
専門の動物病院が少なく、診察料が高額になりがちなこと
電気代(保温器具)や適切な餌の確保にコストがかかること