愛犬が激しく吐き、さらに下痢までし始めると、どんなに冷静な飼い主さんでも動揺してしまうものです。
特に夜間や休日、病院が閉まっている時間帯であれば、その不安は計り知れません。
犬にとって嘔吐や下痢は比較的よく見られる症状ですが、嘔吐と下痢が「同時」に、あるいは「短時間」で交互に起きている場合は、体内で非常に激しい反応が起きているサインです。
それは単なる食べ過ぎかもしれませんし、一刻を争う重大な病気の兆候かもしれません。
この記事では、愛犬の命を守るために「今すぐ病院へ行くべきか」を正しく判断する基準と、考えられる原因、そして自宅でできる最善のケアについて詳しく解説します。
あなたの迅速な判断が、愛犬の未来を救う鍵となります。
もくじ
【緊急判定】今すぐ病院へ行くべき症状とレッドフラッグ
愛犬に以下のような症状が見られる場合、それは「命に関わる緊急事態」である可能性が極めて高いです。様子を見る時間は残されていません。すぐに最寄りの動物病院、または夜間救急センターへ連絡してください。
1分でわかる!命に関わる「緊急度チェック」
以下のチェック項目のうち、一つでも当てはまるものがあれば、すぐに受診が必要です。
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意識が朦朧(もうろう)としている、または呼んでも反応がない
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舌や歯茎の色が白、あるいは紫っぽくなっている
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激しい嘔吐を1時間に何度も繰り返している
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お腹を触ろうとすると痛がって鳴く、またはお腹が異常に張っている
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震えが止まらない、または体温が極端に低い(37度以下)
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歩けずに崩れ落ちる、あるいは立てない状態である
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異物を飲み込んだ可能性が少しでもある
これらの症状は、体内での大出血、ショック状態、あるいは主要な臓器の機能不全を示唆しています。「元気がない」という主観的な感覚は、毎日の愛犬を知っている飼い主さんにしか分からない最高の診断材料です。迷わず直感を信じて行動してください。
特に危険な「血便」と「吐血」の見分け方
便や吐しゃ物に血が混じっている場合、出血している場所や量によって危険度が変わります。
| 症状の状態 | 見た目の特徴 | 意味すること |
| 鮮血便(血便) | 明るい赤色の血が混じる | 大腸など出口に近い場所の炎症 |
| メレナ(黒色便) | 真っ黒でベタベタした、タール状の便 | 胃や小腸など上部での大量出血 |
| 吐血(鮮血) | 鮮やかな赤色の液を吐く | 胃や食道の深刻な損傷 |
| 吐血(コーヒー残渣状) | 茶褐色、黒い粒混じりの液 | 胃の中で血が酸化している状態 |
特に、真っ黒な便(タール便)や、全体がトマトジュースのように見える水下痢が出た場合は、重篤な状態です。これらは体内で深刻な出血や組織の壊死が起きている可能性を示しており、一刻も早い治療が必要です。
犬が嘔吐と下痢を同時に起こす主な原因と病気
なぜ嘔吐と下痢がセットで起きるのでしょうか。犬の体は、有害なものを外に出そうとする防御反応として、あるいは内部の激しい炎症の結果として、これらの症状を出します。
一刻を争う「誤飲・誤食」と「中毒」
犬が口にしてはいけないものを食べた時、胃腸はそれを排出しようと激しく活動します。
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中毒物質: チョコレート、タマネギ、ブドウ、キシリトール(ガム等)、殺鼠剤、観葉植物など。これらは神経症状や多臓器不全を併発し、短時間で命を落とす危険があります。
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物理的な異物: おもちゃの破片、紐、竹串、石など。これらが腸に詰まると「腸閉塞」を起こし、腸が壊死してしまいます。
「何かを壊して食べた跡がある」といった状況証拠は、診断において極めて重要です。
命に関わる「急性膵炎」と「腸閉塞」
これらは腹部に激痛を伴う病気です。
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急性膵炎: 高脂肪な食事(人間の食べ物など)が引き金になることが多いです。激しい嘔吐と下痢に加え、前足をつけてお尻を持ち上げる「祈りのポーズ」をすることがあります。
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腸閉塞(イレウス): 異物が詰まり、消化管の流れが止まる状態です。何度も吐こうとするのに何も出ない、あるいは激しい嘔吐を繰り返すのが特徴です。
これらの病気は、時間が経つほど生存率が低下するため、早期発見・早期治療が絶対条件となります。
感染力が強い「ウイルス性胃腸炎」
パルボウイルス感染症などは、特にワクチン未接種の子犬やシニア犬にとって致命的です。
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特徴: 非常に激しい嘔吐と、独特の生臭い臭いがする血便を伴う下痢。
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リスク: 激しい脱水と白血球の減少により、数日で死に至ることもあります。また、多頭飼いの場合は他の犬にも猛烈な勢いで感染が広がるため、完全な隔離が必要です。
ウイルス性の場合、自宅でのケアだけで治すことはほぼ不可能です。専門的な点滴や投薬治療が不可欠です。
病院へ行くまでの応急処置と自宅ケア
「緊急ではないが、症状が出ている」という場合や、病院へ向かうまでの間にできる対応をまとめました。
間違えると危険!「絶食・絶水」のルール
一昔前までは「24時間の絶食」が推奨されていましたが、現在の獣医学では犬の状態によって判断が変わります。
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成犬の場合: 吐き気が強い時は、半日〜1日程度の絶食を行うことで、荒れた胃腸粘膜を休めることができます。
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子犬・超小型犬・老犬の場合: 勝手な絶食は「低血糖」を引き起こし、意識を失う原因になります。これらに該当する場合は、必ず獣医師の指示を仰いでください。
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水の与え方: 吐き気がひどい時にガブ飲みさせると、さらに胃を刺激して吐いてしまいます。湿らせたガーゼで口を拭うか、製氷皿で作った小さな氷を1個ずつ舐めさせる程度にしましょう。
脱水症状を自宅で見極める2つの方法
嘔吐と下痢で最も怖いのは、体内の水分が失われる「脱水」です。以下の方法でチェックしてください。
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スキン・テント・テスト: 首の後ろや背中の皮膚をつまんで持ち上げ、パッと離します。健康なら一瞬で戻りますが、脱水していると皮膚が山を作ったまま、ゆっくりとしか戻りません。
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粘膜のチェック: 唇をめくって歯茎を触ってみてください。健康ならヌルヌルしていますが、脱水していると指がくっつくようにベタベタ、あるいはカサカサしています。
これらの兆候があれば、すぐに点滴治療が必要です。
受診時に獣医師へ伝えるべき「5つの情報」
診察の際、飼い主さんが提供する情報は、どんな検査よりも診断を早めることがあります。
情報を整理して伝えるためのポイント
パニックにならず、以下の内容をメモ、あるいはスマホで撮影して持参しましょう。
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症状の履歴: いつから、どちらが先に始まったか。回数は何回か。
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実物の持参: 嘔吐物や便を、ラップに包むかビニール袋に入れて持参してください。色、匂い、寄生虫の有無などを直接確認できるため、最も正確な情報になります。
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写真・動画の撮影: 持参できない場合は、スマホで撮影してください。特に「吐く時の動作」の動画は、それが嘔吐なのか、咳なのか、逆くしゃみなのかを判別する重要な手がかりになります。
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誤飲の可能性: 家の中でなくなったもの、かじられた跡があるものはないか。
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生活の変化: 最近変えたフード、おやつ、行った場所、ストレスの原因になりそうなこと。
病院へ行く際は、移動中の嘔吐や失禁に備えて、ペットシーツを敷いたクレートに入れ、予備のシーツやタオルも持参しましょう。
二次感染を防ぐ!正しい清掃と除菌方法
もし原因がウイルスや細菌だった場合、家の中の掃除を怠ると、再感染したり、同居犬や人間にうつったりする危険があります。
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汚物の処理: 使い捨ての手袋とマスクを着用し、ペーパータオル等で汚物を丁寧に取り除きます。
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除菌剤の選択: 一般的なアルコール除菌では、多くのウイルス(特にパルボウイルス)には効果がありません。「次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)」を希釈したものを使用してください。
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希釈方法: 水1リットルに対して、キャップ1〜2杯程度の漂白剤を混ぜます。
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仕上げ: 汚染された場所をこの液で拭き、10分ほど放置してから水拭きします。使用したタオルやペーパーはビニール袋に密閉して捨ててください。
愛犬の体を拭く際は、除菌剤が直接皮膚につかないよう、ペット専用の除菌シートやぬるま湯を使用しましょう。
よくある質問
嘔吐と下痢に関して、飼い主さんが迷いやすいポイントをQ&A形式で解説します。
Q:元気はあるけれど下痢だけしている場合、様子を見てもいい?
A:1回きりの軟便で、本人が元気・食欲ともに旺盛であれば、半日ほど様子を見ても良いでしょう。ただし、翌日も続く場合や、少しでも元気がなくなってきた場合は、早めに受診してください。軽い下痢だと思って放置した結果、体力が削られて急変するケースもあります。
Q:空腹時に黄色い液を吐き、その後に下痢をするのはなぜ?
A:空腹時間が長すぎて胆汁が逆流する「胆汁嘔吐症候群」の可能性があります。しかし、下痢を併発している場合は、単なる空腹ではなく、慢性的な腸の炎症(IBDなど)が隠れていることも考えられます。食事の回数を増やしても改善しない場合は、詳しい検査が必要です。
Q:夜間救急へ行くか、明日の朝まで待つか迷っています。
A:迷うこと自体が「緊急性が高い可能性」を示唆しています。犬の病状は、人間の数倍のスピードで進行します。 「明日の朝、冷たくなっていたら」という後悔をしないためにも、夜間救急に電話をして、現在の症状を伝えて指示を仰ぐのが最も安全な選択です。
Q:下痢止めの薬を飲ませてもいいですか?
A:絶対に自己判断で人間用の薬や、以前もらった余り薬を飲ませないでください。 下痢は「体内の悪いものを出そうとする反応」である場合もあり、無理に止めると毒素が体内に回り、かえって悪化させることがあります。また、薬の種類によっては犬に中毒を引き起こす成分が含まれています。
Q:病院へ行く時、ご飯は食べさせていいですか?
A:検査(血液検査やエコー検査)を行う際、食事を摂っていると正しい結果が出ないことがあります。また、麻酔が必要になった場合に嘔吐して窒息するリスクもあります。病院へ行く直前の食事は控え、獣医師に「いつ最後に何を食べたか」を正確に伝えてください。
まとめ
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嘔吐と下痢が同時に起きたら、まずは「意識、色、痛み、震え」で緊急度をチェックする
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鮮血便、タール便、コーヒー状の吐血が見られる場合は一刻を争うサインである
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原因は誤飲、膵炎、感染症など多岐にわたり、自己判断での放置は非常に危険である
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子犬や老犬の「絶食」は低血糖のリスクがあるため、獣医師の指示なしで行わない
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受診時は嘔吐物や便を持参、または写真に撮り、経過を詳しく伝える
愛犬が嘔吐と下痢を繰り返す姿を見るのは、本当に辛いものです。しかし、今愛犬が頼れるのは、世界でたった一人、飼い主であるあなただけです。
あなたが冷静に状況を観察し、迅速に病院へ連れて行くことで、救える命が確実にあります。まずは深呼吸をして、愛犬の横に寄り添い、状態を確認してください。そして、少しでも不安を感じるなら、プロである獣医師の力を借りることを躊躇しないでください。
この記事が、あなたと愛犬の健やかな日々を取り戻すための一助となることを願っています。一日も早く、愛犬にいつもの元気な笑顔が戻りますように。










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