愛犬が突然吐いてしまうと、多くの飼い主はパニックや強い不安を感じるものです。
しかし、犬が吐く理由は、一時的な空腹から命に関わる重大な病気まで多岐にわたります。
大切なのは、現在の状況が緊急事態かどうかを正しく見極めることです。
本記事では、吐いた物の色や愛犬の状態から、すぐに病院へ行くべきか、自宅で様子を見てよいかの判断基準を詳しく解説します。
もくじ
犬が吐く主な原因と見極め方
犬が吐くという行為は、日常的に起こりやすいものですが、その背景には深刻な悩みや病気が隠れていることがあります。
まずは、愛犬が「いつ」「どのように」吐いたのかを観察することが、適切な対処への第一歩となります。
空腹による胃液の吐き戻し
朝方や夕食前など、お腹が空いている時間帯に吐く場合は、空腹が原因である可能性が高いと考えられます。
胃が空っぽの時間が長すぎると、胃酸が過剰に分泌され、胃粘膜を刺激して吐き気を催してしまいます。
この場合、吐き出されたものは黄色い液体（胆汁）や白い泡であることが多く、吐いた後も元気があるのが特徴です。
対処法としては、1日の食事回数を増やして空腹時間を短くすることが、最も効果的な改善策となります。
食べ過ぎや早食いによる未消化物の吐出
ドッグフードを食べてすぐに、形が残ったままの状態で吐き出すことを「吐出」と呼び、食べ過ぎや早食いが主な原因です。
勢いよく食べ過ぎることで食道に食べ物が詰まり、胃に到達する前に逆流してしまう現象です。
これは胃腸の病気ではなく、食べ方や食事の量に問題があるため、早食い防止用の食器を使うことが推奨されます。
吐いた後にケロッとしていて、再度食べようとする意欲があるなら、それほど大きな心配はいりません。
ストレスや環境の変化
犬は非常に繊細な生き物であり、環境の変化や精神的なストレスが原因で嘔吐してしまうケースも少なくありません。
引っ越し、新しいペットの加入、長時間の留守番、あるいは飼い主の不在などが、自律神経を乱す要因となります。
ストレス性の嘔吐は、検査をしても内臓に異常が見つからないことが多く、原因の特定が難しいという悩みがあります。
愛犬の生活環境を振り返り、安心できる居場所を作ってあげることが、症状を落ち着かせる近道です。
注意が必要な嘔吐物の色と状態
犬が吐いた物の「色」には、体の中で何が起きているかを知るための、極めて重要なメッセージが込められています。
色によって緊急度が大きく変わるため、以下の比較表を参考に、現在の状況を正しく把握してください。
| 吐写物の色 | 主な内容物 | 判定と注意点 |
| 白・透明 | 唾液、胃液、泡 | 一時的な刺激や空腹。様子見が可能だが、回数に注意。 |
| 黄色 | 胆汁 | 空腹時間が長い。食事のタイミング改善が必要。 |
| 緑色 | 胆汁、草、毒物 | 異物摂取や中毒の疑い。早めの受診を推奨。 |
| 赤色・ピンク | 鮮血（食道や胃の出血） | 口内や上部消化管の傷。至急病院へ行くべき。 |
| 茶色・黒色 | 古い血液、コーヒー残渣様 | 胃潰瘍や重度の炎症。非常に危険なサイン。 |
黄色（胆汁）や白（泡）の場合
黄色い液体は「胆汁」、白い泡は「胃液」が混ざったものです。
これらは主に空腹時に見られることが多く、一度きりの嘔吐で元気があるならば、緊急性はそれほど高くありません。
ただし、1日に何度も繰り返したり、毎日続いたりする場合は、慢性胃炎などの可能性も考えられます。
愛犬の食欲や元気を注意深く観察し、変化があれば動物病院に相談するのが賢明な判断です。
赤色や茶色（出血）の場合
吐いた物に赤色の血が混じっている場合や、全体が茶色っぽい（コーヒーのカスのような）場合は、消化管内で出血が起きています。
赤い血は口の中や食道の傷、茶色は胃や十二指腸での出血が酸化したものである可能性が高いです。
これらの症状は、胃潰瘍や腫瘍、深刻な感染症などが疑われるため、絶対に放置してはいけません。
出血を伴う嘔吐は体力の消耗も激しく、命に関わる事態に直結するため、直ちに受診してください。
緑色（異物摂取や中毒）の場合
緑色の嘔吐物が見られるときは、散歩中に草を食べたか、あるいは胆汁が酸化している可能性があります。
しかし、最も注意すべきは、殺鼠剤や不凍液などの毒物を摂取してしまった際の中毒症状です。
もし緑色の液体を吐き、さらに震えや痙攣、よだれが見られる場合は、一刻を争う事態です。
何を飲んだか、何を食べたかの心当たりを整理し、すぐに救急対応ができる病院へ連絡してください。
緊急性が高い症状とチェックリスト
犬が吐くこと自体は珍しくありませんが、特定の症状が伴う場合は、一分一秒を争う緊急事態かもしれません。
以下のチェックリストに一つでも当てはまるなら、夜間であっても病院を探すべきです。
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1時間に何度も激しく吐き続ける
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吐こうとしても何も出てこない（空吐き）
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お腹が異常に膨れている
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激しい下痢や血便を伴っている
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意識が朦朧としている、または立てない
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呼吸が荒く、舌の色が紫や白になっている
何度も繰り返す場合
短時間の間に何度も吐き続けるのは、体内の水分が失われ、深刻な脱水症状を引き起こす危険があります。
特に子犬やシニア犬の場合、脱水は急激に体力を奪い、ショック状態に陥るリスクが高いです。
繰り返し吐く行為は、腸閉塞や急性膵炎など、内科的な重症疾患のサインであることが多いです。
「そのうち止まるだろう」という安易な判断は、取り返しのつかない後悔につながる恐れがあります。
下痢や発熱を伴う場合
嘔吐に加えて下痢や発熱がある場合は、ウイルス性の感染症や中毒、寄生虫などが疑われます。
特に「パルボウイルス感染症」などは、極めて感染力が強く、致死率も非常に高い恐ろしい病気です。
これらの随伴症状があるときは、体力が限界に達していることを示しています。
速やかな診断と治療を開始しなければ、数日で命を落とすケースもあるため、最大限の警戒が必要です。
ぐったりして元気がない場合
吐いた後に愛犬がぐったりとして動かない、呼びかけに反応が薄いといった状況は、末期的な危険信号です。
心不全や腎不全などの臓器不全、あるいは敗血症などが進行している可能性があります。
元気がない状態での嘔吐は、もはや「吐いたこと」自体よりも、全身状態が悪化していることが問題です。
飼い主の目から見て「いつもと明らかに違う」と感じる直感は、往々にして正しいものです。
自宅でできる対処法と注意点
愛犬が吐いた際、病院へ行くまでの間や、様子を見てよいと判断した場合の、正しいホームケアを学びましょう。
間違った対処をしてしまうと、かえって症状を悪化させてしまう注意点もあります。
絶食・絶水が必要なケース
激しく吐いている最中に、無理に水や食べ物を与えるのは、逆効果になることがほとんどです。
胃腸が炎症を起こしているときに何かを入れると、それが刺激となってさらに嘔吐を誘発してしまいます。
一般的には、数時間は食事を与えず、胃腸を休ませること（安静）が基本となります。
ただし、糖尿病の持病がある場合や子犬の場合は、低血糖の恐れがあるため、自己判断での絶食は避け、医師の指示を仰いでください。
食事の与え方を見直す
嘔吐が落ち着いた後は、消化に良い食事を少量ずつ与えることから再開します。
普段のドライフードをふやかしたり、消化器サポート用の療法食を利用したりするのが、胃腸への負担を減らすコツです。
一度に大量の食事を与えると再発しやすいため、数回に分けて少量ずつ与えるようにしましょう。
また、冷たい食事は胃を刺激するため、人肌程度に温めてから出すのが、愛犬への思いやりとなります。
安静にさせる環境作り
吐いた後の犬は体力を消耗しており、精神的にも不安な状態にあります。
テレビの音を小さくし、照明を落として、静かで落ち着ける場所で寝かせてあげることが大切です。
多頭飼いの場合は、他の犬に邪魔されないよう隔離し、リラックスできる環境を整えてください。
飼い主がそばに寄り添い、優しく声をかけることは、愛犬の不安を和らげる大きな助けとなります。
病院へ行く際に伝えるべきポイント
診断をスムーズに進め、適切な治療を受けるためには、正確な情報提供が欠かせません。
診察室でパニックにならないよう、以下の情報をメモしておくか、スマートフォンで記録しておきましょう。
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嘔吐の回数と頻度（いつから、何回吐いたか）
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嘔吐物の内容と色（未消化物、液体、血の混じりなど）
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最後に食事をした時間と、何を食べたか
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随伴症状の有無（下痢、元気、食欲、呼吸の状態）
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異物誤飲の可能性（おもちゃや植物、薬品などがなくなっていないか）
可能であれば、吐いた実物を持参するか、写真や動画を撮っておくのが最も確実です。
言葉で伝えるよりも視覚的な情報のほうが、獣医師にとって的確な判断材料となります。
よくある質問（FAQ）
犬が黄色い液を吐くのは病気ですか？
黄色い液体は胆汁であり、主に空腹時間が長すぎることが原因で起こる「胆汁嘔吐症候群」の可能性が高いです。
吐いた後に元気があり、食欲も普通であれば、即座に命に関わる病気であることは稀です。
ただし、頻繁に繰り返す場合は、食事回数を分けるなどの対策が必要であり、胃炎が隠れていることもあるため注意が必要です。
吐いた後、すぐに水を飲ませても大丈夫ですか？
激しい嘔吐の直後に大量の水を飲ませると、再び胃を刺激して吐いてしまうことが多いため、控えるべきです。
まずは1〜2時間ほど様子を見て、吐き気が治まってから少量の水を舐めさせる程度から始めてください。
脱水を心配して無理に飲ませることは、かえって嘔吐を誘発し症状を悪化させるリスクがあるため、慎重な判断が求められます。
散歩中に草を食べて吐くのは放っておいてもいいですか？
犬が草を食べて吐く行為は、胃の不快感を取り除こうとする本能的なものと言われていますが、楽観視は禁物です。
草に除草剤や殺虫剤が付着していたり、中毒を起こす植物であったりする場合、命に関わる重篤な事態を招く恐れがあります。
吐いた後に元気がない、よだれが止まらないといった異変があれば、速やかに動物病院を受診してください。
子犬が吐くのと成犬が吐くのでは緊急度が違いますか？
子犬は成犬に比べて体力がなく、わずかな嘔吐や下痢でも急激に脱水や低血糖を起こしやすいため、緊急度は非常に高いです。
また、子犬は好奇心旺盛で異物を誤飲するリスクも高く、感染症にかかった際の悪化スピードも驚くほど速いです。
成犬なら様子を見られる状況でも、子犬の場合は「迷わず病院へ行く」というのが、愛犬を守るための鉄則となります。
夜間に吐いた場合、翌朝まで待っても大丈夫ですか？
嘔吐物の色や愛犬の様子によって判断が分かれますが、**「空吐き」や「ぐったりしている」**場合は朝まで待ってはいけません。
特に胃捻転などは数時間で死に至る病気であり、夜間救急センターをすぐに受診すべきケースです。
逆に、一度黄色い液を吐いただけで本人が寝ているのであれば、翌朝の受診でも間に合うことが多いですが、不安なら電話で相談しましょう。
吐いた物を片付けるときに注意することはありますか？
もし感染症（ウイルス性腸炎など）が原因だった場合、排泄物や嘔吐物を介して二次感染が広がる恐れがあります。
片付ける際は使い捨て手袋を着用し、次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒液で徹底的に除菌を行ってください。
また、愛犬が何を吐いたかを確認し、写真を撮っておくことは、後の診察で非常に重要な診断のヒントとなります。
まとめ
愛犬が吐くという行為には、必ず何らかの理由があります。
飼い主に求められるのは、冷静に「色」「回数」「元気」を観察し、適切な行動を選択することです。
空腹や早食いといった日常的な原因であれば、食事の改善で解決できる場合があります。
しかし、血が混じっていたり、何度も繰り返したり、元気がなかったりする場合は、迷わず専門家の助けを借りてください。
あなたの素早い判断が、愛犬の命を救う最大の鍵となります。
異変を感じたら、決して一人で悩まず、信頼できる動物病院に相談しましょう。
