愛犬の視線が合わなかったり、左右の目の向きがズレていたりすると、何かの病気ではないかと不安になるものです。
犬の斜視には、犬種特有の個性として心配のないケースもありますが、中には脳や神経の重大な疾患が隠れている場合もあります。
本記事では、犬の斜視の種類や原因、見分けるべき危険なサイン、そして適切な対処法について詳しく解説します。
愛犬の健康を守るための正しい知識を身につけましょう。
もくじ
犬の斜視とは?左右の目の向きがズレる状態
斜視とは、両目の視線が同じ方向を向かず、一方が正面を向いているのに対し、もう一方が内側や外側、あるいは上下にズレてしまっている状態を指します。
人間と同様に、犬も眼球を支える筋肉(外眼筋)のバランスが崩れることで発症します。
斜視そのものが痛みを感じさせることは稀ですが、物体を立体的に捉える能力が低下する場合があります。
特に子犬の頃から見られる場合は先天的な要因が強く、成犬になってから突然現れる場合は後天的な病気が疑われます。
斜視の種類:内斜視と外斜視
犬に見られる斜視は、その方向によって大きく2つのタイプに分類されます。
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外斜視:黒目が外側を向いている状態。パグやフレンチブルドッグなどの短頭種によく見られる傾向があります。
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内斜視:黒目が鼻の方向(内側)を向いている状態。特定の犬種や神経疾患で見られることがあります。
多くの場合、犬の斜視は外斜視であることが一般的です。
犬が斜視になる主な原因
犬が斜視になる理由は、遺伝的な背景から突発的な事故まで多岐にわたります。
原因を特定することは、治療の必要性を判断する上で極めて重要です。
先天的な要因(生まれつき)
多くのケースで見られるのが、生まれつきの骨格や筋肉の配置によるものです。
特に目が大きく、顔の幅が広い犬種では、眼窩(眼球が入るくぼみ)の形状により、黒目が外側に寄りやすい特性を持っています。
これらは「個性」として捉えられることが多く、日常生活に支障がなければ治療の対象にならないことがほとんどです。
後天的な要因(病気や怪我)
成長してから斜視が目立ってきた場合は、身体のどこかに異常が起きているサインです。
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神経の異常:眼球を動かす指令を出す神経(動眼神経、滑車神経、外転神経)のトラブル。
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脳疾患:脳腫瘍や水頭症により、脳圧が上がることで眼球の動きに制限が出る。
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前庭疾患:平衡感覚を司る前庭に異常が起き、斜視や眼振を引き起こす。
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外傷:事故や落下による頭部への衝撃。
特に高齢犬で急に斜視になった場合は、重大な疾患の可能性が高いため注意が必要です。
斜視になりやすい犬種の特徴
犬種によっては、その身体的特徴から斜視が頻繁に見られることがあります。
短頭種の場合は、外見上の特徴として定着していることもありますが、視界が極端に狭まっていないか観察が必要です。
病院を受診すべき「危険なサイン」
斜視以外に以下の症状が見られる場合は、早急に獣医師の診察を受ける必要があります。
これらは単なる目のトラブルではなく、命に関わる神経疾患の可能性があるからです。
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眼振(がんしん):目が左右や上下に小刻みに揺れている。
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捻転斜頸(ねんてんしゃけい):首が常にどちらか一方に傾いている。
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歩行異常:ふらつく、まっすぐ歩けない、円を描くように歩く(旋回運動)。
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顔面の麻痺:まぶたが垂れ下がる、唇が片方だけ下がっている。
これらの症状を伴う斜視は、脳や耳の奥(内耳)の異常を強く示唆しています。
診断と治療方法
病院では、まず視診によって斜視の程度を確認し、次に神経学的検査を行います。
検査の内容
原因を特定するために、以下のような検査が行われることが一般的です。
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眼科検査:視力や眼圧、眼球の動きを確認。
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耳鏡検査:中耳炎や内耳炎の有無を確認。
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血液検査:全身の炎症や代謝異常の確認。
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MRI・CT検査:脳腫瘍や脳の構造的な異常(水頭症など)を精密に調査。
治療のアプローチ
治療法は原因によって大きく異なります。
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経過観察:先天性で生活に支障がない場合。
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内科的治療:脳圧を下げる薬、炎症を抑えるステロイド、抗生物質の投与。
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外科的治療:脳腫瘍の摘出や、重度の水頭症に対するシャント手術。
先天的な斜視を美容目的で矯正手術することは、犬の負担を考慮して通常は行われません。
家庭でできるサポートと注意点
斜視がある犬との生活では、視界の特性に合わせた配慮が求められます。
視界の死角に配慮する
斜視がある犬は、特定の方向に死角が生じている場合があります。
急に触ると驚いて噛んでしまう恐れがあるため、声をかけてから近づくようにしましょう。
散歩時の安全確保
距離感が掴みづらいことがあるため、段差や障害物には注意が必要です。
リードを短めに持ち、飼い主側で危険を回避してあげてください。
変化を記録する
「いつから斜視になったのか」「症状は悪化しているか」を記録しておくことが診断の助けになります。
スマートフォンの動画で、顔の正面と横からの映像を撮っておくと獣医師に状況を伝えやすくなります。
よくある質問(FAQ)
生まれつき目が外を向いていますが、視力には問題ないのでしょうか?
先天的な外斜視の場合、脳がその状態に適応しているため、日常生活に必要な視力は保たれていることがほとんどです。
ただし、両眼視による立体感の把握が苦手な場合があります。
おもちゃを上手くキャッチできないなどの様子が見られても、生活空間が安全であれば過度に心配する必要はありません。
老犬が急に斜視になり、ふらついています。何が原因でしょうか?
高齢犬で斜視とふらつきが同時に現れた場合、特発性前庭疾患が強く疑われます。これは平衡感覚を司る神経に異常が起きる病気です。
また、脳梗塞や脳腫瘍の可能性も否定できません。放置すると症状が悪化する恐れがあるため、一刻も早く動物病院を受診し、適切な処置を受けてください。
パグやチワワの斜視は、手術で治すべきものなのでしょうか?
短頭種に見られる先天的な斜視は、骨格上の特徴であるため、原則として手術の必要はありません。
視線がズレていても、本人が不自由を感じておらず、他に神経症状がなければ健康に過ごせます。
無理に手術を行うことは、全身麻酔のリスクや犬へのストレスになるため、個性のひとつとして受け入れることが推奨されます。
斜視を予防するために飼い主ができることはありますか?
残念ながら、先天的な斜視や加齢に伴う疾患を完全に予防する方法はありません。
しかし、耳の清潔を保つことで内耳炎からの神経症状(斜視を含む)を防ぐことは可能です。
また、頭部への強い衝撃を避ける生活環境を整えることも大切です。
日頃から愛犬の顔を正面から観察する習慣をつけ、早期発見に努めましょう。
目が左右に揺れているのですが、これも斜視の一種ですか?
それは斜視ではなく「眼振(がんしん)」と呼ばれる症状です。
斜視が「目の位置の固定的なズレ」であるのに対し、眼振は「意思に反した目の動き」です。眼振は脳や前庭系の異常を示す極めて重要なサインです。
斜視よりも緊急性が高いケースが多いため、動画を撮影してすぐに獣医師に見せるようにしてください。
まとめ
犬の斜視は、犬種特有の個性である場合と、命に関わる病気のサインである場合の2種類に大別されます。
パグやチワワなどに見られる生まれつきのものは、多くの場合で過度な心配は不要ですが、成犬になってから急に発症した場合は注意が必要です。
特に**「ふらつき」「首の傾き」「目の揺れ」**といった症状を伴う場合は、脳や神経の疾患が疑われます。
飼い主として大切なのは、愛犬の「いつもの顔」をよく理解し、異変を感じたら迷わず専門家に相談することです。早期発見と適切なケアが、愛犬の健やかな毎日を守る鍵となります。



























