「愛犬の匂いを嗅ぐと、なぜか心が落ち着く…」
「顔をうずめて深呼吸するのが日課」
そんなあなたは、すでに立派な「犬吸い」の常習者かもしれません。
SNSでも話題のこの行為は、飼い主にとって至福の時間ですが、実はやり方を間違えると愛犬に嫌われたり、思わぬ感染症にかかったりするリスクも潜んでいます。
この記事では、犬吸いがもたらす驚きの癒し効果から、安全に楽しむためのマナー、知っておくべき危険性までを徹底解説します。
正しい知識を身につけて、愛犬との絆をもっと深めましょう。
もくじ
犬吸いとは?意味と多くの飼い主がハマる理由
「犬吸い」とは、文字通り愛犬の体や顔に自分の顔をうずめ、思い切りその匂いを吸い込む行為のことです。
元々は「猫吸い」という言葉が有名でしたが、犬好きの間でも同様の愛情表現が行われていることから定着しました。
ただ匂いを嗅ぐだけでなく、モフモフした感触や温もりを同時に感じることで、言葉にできない幸福感に包まれるのが特徴です。
多くの飼い主がこの行為に「ハマる」理由は、単なる匂いフェチというだけではありません。そこには、私たち人間の本能や脳の働きが深く関係しています。
なぜ犬吸いをしてしまうのか?3つの心理と効果
なぜ私たちは、愛犬を見ると無性に「吸いたく」なってしまうのでしょうか。ここでは、科学的な視点も交えて、その心理と効果を紐解きます。
1. オキシトシン分泌による究極のリラックス
犬吸いをしている時、飼い主の脳内では「オキシトシン」というホルモンが分泌されていると言われています。
オキシトシンは別名「幸せホルモン」や「絆ホルモン」とも呼ばれ、以下のような効果が期待できます。
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ストレスの軽減
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不安感の解消
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幸福感の向上
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心拍数の安定
愛犬の温かい体に触れ、独特の香りを吸い込むことで、一日の疲れが吹き飛ぶような感覚になるのは、このホルモンの働きによるものです。まさに、心安らぐ癒やしの時間と言えるでしょう。
2. 本能的な「守りたい」欲求(ベビースキーマ)
犬、特に小型犬や子犬のような丸みを帯びたフォルム、大きな瞳は、人間の「ベビースキーマ」という本能を刺激します。
ベビースキーマとは、赤ちゃんのような特徴を持つものに対して「かわいい」「守りたい」と感じる心理作用です。
この強烈な保護本能が、「抱きしめたい」「密着したい」という衝動に変わり、結果として顔をうずめて吸うという行動に繋がります。
3. 愛犬との絆を深めるコミュニケーション
信頼関係が築かれている場合、犬吸いは愛情確認の手段になります。
犬にとって、体を預けたり匂いを確認させたりすることは、相手への信頼の証です。
飼い主がリラックスして接することで、犬も安心感を得て、お互いのオキシトシン分泌が高まるという相乗効果も研究で示唆されています。
ただし、これはあくまで犬が嫌がっていない場合に限ります。一方的な愛情の押し付けにならないよう注意が必要です。
犬吸いのやり方と人気部位ランキング
「犬吸い」に決まった作法はありませんが、多くの飼い主が好む「極上のスポット」と、愛犬に負担をかけないマナーがあります。
飼い主が選ぶ「吸いポイント」3選
愛犬家の間で特に人気が高い「吸いポイント」をまとめました。部位によって香りの特徴が異なります。
| 順位 | 部位 | 香りの特徴(飼い主の声) |
| 1 | 耳の後ろ・首元 | ミルクのような甘い香り、日向の匂い、凝縮された犬の匂い |
| 2 | 肉球 | 香ばしいポップコーン、枝豆、とんがりコーンのような匂い |
| 3 | お腹 | お布団のような温かい匂い、優しい干し草の香り |
その他、「おでこ」や「マズル(口周り)」を好む人もいますが、マズルは犬にとって非常に敏感な部分でもあるため、慎重に行う必要があります。
愛犬に嫌われない「正しい吸い方」の手順
愛犬に「また吸われてもいいかな」と思ってもらうための、スマートな吸い方を紹介します。
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リラックス状態を確認する
愛犬がまどろんでいる時や、甘えてきている時がベストタイミングです。遊びに夢中な時や食事中は避けましょう。
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優しく声をかける
いきなり無言で顔を埋めるのではなく、「かわいいね」「いい匂いだね」と優しく声をかけながら近づきます。
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そっと顔をうずめる
体重をかけないように注意し、フェザータッチで顔を埋めます。強く押し付けるのは厳禁です。
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短時間で済ませる
数秒〜数十秒程度で切り上げます。しつこく追いかけ回すと、逃げられる原因になります。
【警告】犬吸いに潜む危険性と感染症リスク
ここまでは犬吸いの魅力をお伝えしましたが、ここからは非常に重要な注意点です。
過度なスキンシップには、人間と犬の双方に健康リスクがあります。特に、免疫力の低い子供や高齢者がいる家庭では十分な注意が必要です。
ズーノーシス(人獣共通感染症)の可能性
動物から人間へ、人間から動物へとうつる病気を「ズーノーシス(人獣共通感染症)」と呼びます。犬吸い、特に口周りへの接触(キスなど)によって感染するリスクがある主な病気は以下の通りです。
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パスツレラ症
ほとんどの犬が口内に保有している常在菌。人間に感染すると、呼吸器疾患や皮膚の化膿などを引き起こすことがあります。
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カプノサイトファーガ感染症
犬の口内に常在する細菌。健康な人なら無症状のことも多いですが、免疫力が低下していると重症化し、最悪の場合は命に関わることもあります。
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寄生虫(エキノコックス、回虫など)
犬の被毛や口周りに付着した虫卵が口に入り、飲み込んでしまうことによる経口感染のリスクがあります。
「愛犬は清潔だから大丈夫」という過信は禁物です。菌は目に見えません。
アレルギー誘発と衛生面の注意点
犬吸いは、アレルゲンを直接吸い込む行為でもあります。
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犬アレルギーの発症
今まで平気だった人でも、大量のフケや唾液、被毛を吸い込み続けることで、ある日突然アレルギー症状(くしゃみ、鼻水、喘息など)が出ることがあります。
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外部寄生虫(ノミ・ダニ)
散歩中に付着したマダニなどが、顔を近づけた際に人間に移る可能性があります。中にはSFTS(重症熱性血小板減少症候群)のような危険なウイルスを持つダニもいます。
犬吸いを嫌がるサインを見逃さないで
あなたが幸せでも、愛犬にとっては「迷惑行為」になっているかもしれません。犬は言葉を話せませんが、全身を使って「NO」を伝えています。
ストレスを感じている時の「カーミングシグナル」
犬が不安やストレスを感じた時に出す仕草を「カーミングシグナル」と呼びます。犬吸い中に以下のサインが見られたら、即座に中止してください。
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顔を背ける、視線を逸らす
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鼻や口の周りをペロペロ舐める
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あくびをする
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体が固まる、のけぞる
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白目が見える(クジラ目)
これらは「落ち着いて」「もうやめて」というサインです。「じっとしているから喜んでいる」と勘違いしがちですが、実は恐怖で動けなくなっているだけの可能性もあります。
信頼関係を壊さないためのNG行動
良かれと思ってやったことが、愛犬との絆にヒビを入れることもあります。
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寝ているところを無理やり起こして吸う
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拘束して長時間吸い続ける
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大声を出して驚かせながら吸う
特に、マズル(口輪部分)を強く掴んだり、逃げられないように押さえつけたりする行為は、犬に恐怖心を植え付け、咬みつき事故の原因にもなりかねません。愛犬のペースを尊重し、嫌がる素振りを見せたらすぐに解放してあげましょう。
よくある質問(FAQ)
毎日犬吸いをしても大丈夫ですか?
愛犬が嫌がっていなければ大丈夫ですが、衛生面には注意が必要です。
毎日行う場合は、愛犬の体を清潔に保つこと(ブラッシングや定期的なシャンプー)に加え、飼い主自身の洗顔や手洗いも徹底しましょう。過度な頻度は犬のストレスになる可能性があるため、様子を見ながら行ってください。
犬吸いで具体的にどんな匂いがしますか?
個体や部位によりますが、「干した布団」「メープルシロップ」「ポップコーン」「古い靴下」などと表現されることが多いです。
特に肉球は、汗腺があるため独特の香ばしい匂いがします。急に匂いが変わった場合(生臭い、腐敗臭など)は、皮膚炎や歯周病のサインの可能性があるため、獣医師に相談してください。
犬以外のペット(猫など)でも吸っていいですか?
猫吸いも一般的ですが、感染症リスクは同様にあります。
猫の場合もパスツレラ菌などを保有しているため、過度な接触は控えましょう。
また、ハムスターなどの小動物は、人間が急に顔を近づけると強いストレスを感じたり、驚いて噛みついたりする恐れがあります。また、げっ歯類特有のアレルギーや感染症リスクもあるため控えましょう。
感染症(ズーノーシス)を防ぐための対策は?
口同士のキスを避け、吸った後は顔を洗うのが基本です。
また、愛犬に定期的な予防接種やノミ・ダニ駆除薬の投与を行うこと、散歩から帰ったら足を拭くことなど、日常的な衛生管理がリスク軽減につながります。体調が優れない時は、濃厚な接触を控えましょう。
なぜ犬の足の裏(肉球)は香ばしい匂いがするの?
犬の汗腺(エクリン腺)が肉球にのみ存在するからです。
肉球周辺の微生物(常在菌)が汗を分解する際に、ポップコーンやトウモロコシに似た独特の香ばしい匂いを発します。これを「フリート(Fritos)臭」と呼ぶこともあります。
まとめ
犬吸いは、飼い主にとってオキシトシンにより癒しを得られる至福の時間であり、愛犬との絆を確認するコミュニケーションの一つです。
しかし、その行為には以下のポイントを守ることが不可欠です。
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愛犬の合意(リラックス)を確認する
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カーミングシグナル(嫌がるサイン)を無視しない
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ズーノーシスやアレルギーのリスクを理解する
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口周りなどの粘膜接触は避ける
愛犬は「吸うための道具」ではなく、感情を持った大切なパートナーです。お互いが幸せで健康でいられる距離感を保ちながら、節度を持って「犬吸いライフ」を楽しみましょう。
※ 本記事は獣医学的アドバイスに代わるものではありません。皮膚の異常や体調不良が見られる場合は医師・獣医師にご相談ください。


























