「犬を飼いたいけれど、ショップで見ると30万円も50万円もする……」
「もっと安く、例えば1万円くらいで買える方法はないのかな」
そう考えてこの記事に辿り着いた方もいるかもしれません。
結論からお伝えすると、「生体代金1万円」で犬を入手すること自体は不可能ではありません。
しかし、そこには命を扱う上での非常に複雑な背景と、飼い主さんが後から「こんなはずじゃなかった」と後悔しかねない大きなリスクが隠されています。
犬を迎えるということは、単なる買い物を超えた「家族の命を預かる」という重大な決断です。
1万円という安さに惹かれる前に、なぜその価格で販売されているのか、そして実際に犬と暮らすためにいくらの予算が必要なのかという現実を直視しなければなりません。
この記事では、低価格で販売される犬の実態から、健全な方法で費用を抑えて迎える「里親制度」の仕組み、そして愛犬と一生を添い遂げるために必要な「真のコスト」までを詳しく解説します。
もくじ
1万円で犬は買えるのか?生体価格の現実と相場
現在の日本では、健康状態や飼育環境が十分に担保された子犬が1万円で販売されるケースは極めて稀であり、何らかの理由や条件が付くことがほとんどです。
まずは、一般的な相場と、1万円という価格が何を意味するのかを確認しましょう。
一般的な子犬の販売価格相場
現在、ペットショップやブリーダーから子犬を迎える場合の相場は、人気犬種(トイプードル、チワワ、柴犬など)であれば20万円から80万円程度です。
これには、親犬の飼育費、交配料、出産後のワクチン代、マイクロチップ装着費、そして何より適切な社会化や健康管理にかかるコストが含まれています。
「1万円」で売られている犬の正体
もしネット広告や一部のショップで「1万円」という値札がついている場合、それは以下のようなケースが考えられます。
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繁殖引退犬: 繁殖用として働いてきた親犬が、年齢や体力の限界で引退した個体。
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売れ残り(月齢が進んだ犬): 生後半年〜1年以上が経過し、子犬としての「商品価値」が下がったとされる個体。
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健康上の欠陥: 遺伝性疾患、心雑音、噛み合わせの不具合、ヘルニアなどがある場合。
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格安譲渡を謳う業者: 生体価格は1万円でも、強制的な「高額フードの定期購入契約」や「保険加入」が条件となっている実質的なローン契約。
「安すぎる犬」には裏がある?知っておくべきリスクと背景
安く手に入ることは、一見すると飼い主にとってメリットに思えますが、実は後から何倍もの金銭的・精神的負担となって返ってくるリスクを孕んでいます。
1. 膨大な医療費がかかる可能性
安く販売されている犬は、適切な遺伝子検査や健康管理が行われていないケースが散見されます。
迎えた直後にパルボウイルスなどの感染症を発症したり、数ヶ月後に深刻な遺伝病が見つかったりすることも珍しくありません。
生体代を1万円に抑えたとしても、重篤な感染症や先天疾患が見つかった場合、短期間で数十万円規模の医療費が発生するケースが報告されています。
2. 悪質な繁殖業者(パピーミル)の加担
生体価格を極端に下げるためには、徹底したコストカットが必要です。
それには、狭い檻に閉じ込め、不衛生な環境で、最低限の餌しか与えず、ボロボロになるまで産ませ続ける「パピーミル(子犬工場)」の存在が加担している可能性があります。
このように、一部には劣悪な飼育環境で繁殖を繰り返す業者も存在するため、価格だけで判断せず、飼育環境や説明内容を慎重に確認する必要があります。
3. 社会化不足による問題行動
安く早く売るために、親兄弟から引き離される時期が早すぎた犬は、噛み癖や無駄吠え、極端な臆病さといった「問題行動」を起こしやすくなります。
これらをプロのトレーナーに依頼して改善するには、多大な時間と費用がかかります。
費用を抑えて犬を迎えたいなら「里親制度」を検討すべき理由
「生体代金にお金をかけられないけれど、犬への愛情は人一倍ある」という方にとって、最も誠実で推奨される選択肢が保護犬の里親になることです。
譲渡費用の仕組み
動物愛護団体や保健所から犬を迎える場合、犬自体の「価格」は無料です。しかし、全くの0円で連れて帰れるわけではありません。
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混合ワクチン、狂犬病予防接種の実費
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不妊・去勢手術の費用
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フィラリア検査、マイクロチップ装着代
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保護期間中の食費、医療費の寄付
譲渡費用は団体によって大きく異なりますが、これらを合わせて数万円以上かかることもあります。
里親になることのメリット
里親制度を利用することは、単に費用を抑えるだけでなく、以下のような素晴らしい側面があります。
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殺処分されるかもしれない命を救える: 社会貢献としての側面。
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性格が把握されている: 保護主がその犬の性格や癖を知っているため、ミスマッチが少ない。
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成犬という選択肢: 子犬のような手探りの育児ではなく、落ち着いた成犬と静かに暮らすことができる。
生体代金は序の口。初月から発生する「本当の初期費用」
1万円で犬を入手できたとしても、その日から始まる「生活」には、生体価格を遥かに上回るお金がかかります。
迎える当日に必要な飼育用品
以下の表にまとめたものは、犬を迎えるための最低限の準備です。
| 項目 | 具体的な内容 | 概算費用 |
| 住環境 | サークル・ケージ、クレート | 15,000円〜30,000円 |
| 寝具・トイレ | トイレトレー、シーツ、ベッド | 8,000円〜15,000円 |
| 食器・食事 | フードボウル、水飲み器、高品質なフード | 5,000円〜10,000円 |
| お散歩用 | 首輪・ハーネス、リード | 5,000円〜8,000円 |
| お手入れ | ブラシ、爪切り、シャンプー | 4,000円〜7,000円 |
これだけで、生体代金1万円を優に超える4万円〜7万円程度が必要です。
さらに、畜犬登録料や毎年の予防接種、ノミ・ダニ予防、フィラリア予防薬といった「医療費の備え」も初月から発生します。
生涯でいくら必要?超大型犬から小型犬までのコストシミュレーション
犬の寿命は平均15年前後です。その間に飼い主が支払う総額は、軽自動車や、場合によっては家が一軒買えるほどの金額になることを覚悟しなければなりません。
生涯コストの概算表
犬種やサイズにより異なりますが、一般的な生涯コストの目安は以下の通りです。
| 犬のサイズ | 1ヶ月の維持費 | 生涯コスト(15年換算) |
| 小型犬 | 10,000円〜15,000円 | 250万円〜350万円 |
| 中型犬 | 15,000円〜20,000円 | 350万円〜450万円 |
| 大型犬 | 25,000円〜40,000円 | 500万円〜800万円 |
食費、トイレシーツ代、冷暖房費(エアコン代)、そしてシニア期に激増する医療費。 これらを15年間、途切れることなく支え続けられる経済力こそが、犬を飼うための「真の資格」と言えます。
よくある質問
Q:保健所に行けば完全に無料で犬をもらえますか?
A:自治体によりますが、現在は「ただで配る」のではなく、適正飼育ができるかどうかの厳しい審査があります。
また、登録手数料や講習受講料などが数千円〜1万円程度かかるのが一般的です。「無料だからもらう」という考え方では審査を通るのは難しいでしょう。
Q:生体価格が安いからといって、必ずしも病気とは限りませんよね?
A:はい、その通りです。たまたま月齢が過ぎただけの健康な犬もいます。
しかし、なぜ安くなっているのかという「理由」を明確に説明できない業者には注意が必要です。
安さの理由が「経営上の都合」なのか「犬の健康上の問題」なのかを見極める目が求められます。
Q:今の貯金が10万円以下なのですが、犬を飼い始めても大丈夫ですか?
A:正直に申し上げて、おすすめできません。
初期費用でほとんどが消えてしまい、万が一の急な病気や怪我に対応できなくなります。
まずは愛犬のための「緊急医療資金」として20万円〜30万円ほど貯金してから迎えることが、愛犬にとってもあなたにとっても最大の安心につながります。
まとめ
「1万円で犬を買いたい」という願いの背景には、犬と暮らしたいという純粋な憧れがあるはずです。
しかし、その憧れを現実のものにするためには、冷徹なまでの「お金の現実」を知らなければなりません。
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生体代1万円の犬は実在するが、健康リスクや悪質な業者の影がある
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安さの裏にある「繁殖引退犬」や「売れ残り」の背景を理解する
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費用を抑えたいなら、命を救う選択肢である「里親制度」を推奨
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飼育用品や医療費だけで、生体代を超える初期費用が即座に発生する
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生涯コストは小型犬でも300万円前後。この責任を負う覚悟が必要
犬にとって、飼い主は世界のすべてです。「安く手に入ったから、病気になっても諦める」という選択は、命を預かる立場として許されません。
もし今、予算が足りないのであれば、焦る必要はありません。愛犬のために資金を貯める時間は、あなたが「理想の飼い主」になるための準備期間でもあります。
十分な準備を整え、万全の状態で迎えた愛犬との生活は、何物にも代えがたい幸福をあなたにもたらしてくれるはずです。


























