犬と一緒に暮らしていると、愛犬が急に「フンフン」「ブーブー」と鼻を鳴らす場面に遭遇することがあります。
まるで何かを訴えかけているような音もあれば、どこか苦しそうで心配になるような音まで、その種類はさまざまです。
言葉を持たない愛犬にとって、鼻を鳴らす行為は非常に重要なサインの一つです。
それは単なる感情の表れであることもあれば、体の中で起きている異変を知らせるSOSである可能性も否定できません。
特に、豚のような「ブーブー」という音や、鼻を激しくすするような「逆くしゃみ」と呼ばれる現象は、初めて目にする飼い主様にとって大きな不安の種となります。
この記事では、犬が鼻を鳴らす理由を、感情・生理現象・病気の3つの視点から詳しく紐解いていきます。
愛犬が今、何を伝えようとしているのか。その音の裏に隠された真実を一緒に確認していきましょう。
もくじ
犬が鼻を鳴らす音の種類とそれぞれの意味
犬が鼻を鳴らすとき、その音の特徴を捉えることが状況判断の第一歩となります。
音の種類によって、脳や喉、鼻腔のどこに原因があるのかを推測することができるからです。
まずは、代表的な音の種類とその意味を整理した以下の表をご覧ください。
犬が発する鼻の音とその背景にある主な要因
| 音の特徴 | 推測される主な理由 | 緊急度・注意点 |
| フンフン(短い) | 挨拶、期待、軽い興奮 | 低:コミュニケーションの一環 |
| クーン、ピーピー | 甘え、要求、不安、痛み | 中:精神的ケアや痛みの確認が必要 |
| ブーブー、ズーピー | 逆くしゃみ、軟口蓋過長症 | 中:短頭種は呼吸困難に注意 |
| ズズッ、グズグズ | 鼻水、鼻炎、異物の混入 | 中:持続する場合は受診を推奨 |
| ガーガー(アヒル声) | 気管虚脱の可能性 | 高:早急な獣医師による診断が必要 |
このように、音の種類一つとっても、愛犬が置かれている状況は千差万別です。ここからは、それぞれのパターンについて詳しく掘り下げていきます。
「フンフン」と短く鳴らすときの心理
散歩の前や、飼い主様が帰宅した際に「フンフン」と鼻を鳴らすのは、主にポジティブな感情の表れです。
これは犬同士の挨拶でも見られる行動で、「嬉しい!」「楽しみ!」といった期待感を表現しています。
また、飼い主様の注意を自分に向けたいときに、軽く鼻を鳴らして「こっちを見て」とアピールすることもあります。
この場合の「フンフン」は、人間でいうところの「鼻歌」や「軽い返事」に近いニュアンスだと考えてよいでしょう。
愛犬がリラックスした表情でこの音を出しているなら、優しく声をかけてあげてください。
「クーン」「ピーピー」と高い音で鳴らす理由
一方で、鼻から抜けるような高い音で「クーン」「ピーピー」と鳴らす場合は、少し注意深く観察する必要があります。
多くの場合、これは「要求」や「不安」を意味しています。
「おやつが欲しい」「外に出たい」といった具体的な欲求があるときや、一人にされることへの不安(分離不安)からこのような音を出すことが一般的です。
しかし、注意しなければならないのは、体に痛みを感じているときにもこの音を出すという点です。
特に高齢犬や持病のある犬が、何もしない状況で力なくピーピーと鳴らしている場合は、関節の痛みや腹痛などを隠している可能性があるため、全身のチェックを行ってください。
「ブーブー」という豚のような音の正体
多くの飼い主様を驚かせるのが、この「ブーブー」という低い音です。この音の正体は、多くの場合「逆くしゃみ(リバーススニーズ)」と呼ばれる生理現象です。
逆くしゃみは、通常のくしゃみが空気を外に吐き出すのに対し、空気を激しく連続的に吸い込む現象を指します。その際、鼻の奥や喉が振動して、まるで豚が鳴くような音が発生します。
逆くしゃみ自体は一時的なもので、数秒から数分で治まることがほとんどですが、愛犬が苦しそうに首を伸ばして音を立てる姿に驚く方は少なくありません。
これについては後ほど詳しく対処法を解説します。
感情表現として鼻を鳴らすときの心理メカニズム
犬が鼻を鳴らすのは、単なる物理的な音ではなく、高度なコミュニケーションツールとしての役割を果たしています。
犬の嗅覚は人間の数千倍から数万倍とも言われますが、その優れた嗅覚を司る鼻は、感情の動きと密接に連動しているのです。
愛犬が特定のシチュエーションで鼻を鳴らす際、どのような心理が働いているのかをより深く理解していきましょう。
期待と興奮が鼻に現れる理由
犬は興奮すると心拍数が上がり、呼吸が荒くなります。このとき、鼻の粘膜がわずかに充血し、空気の通り道が狭くなることで「フンッ」という音が漏れやすくなります。
特に、飼い主様がリードを手にした瞬間や、大好きなフードの袋が開く音がしたとき、犬は無意識に鼻を鳴らします。
これは「今から起こる楽しいこと」への準備が整っている証拠です。
このような興奮由来の鼻鳴らしは、健康な犬であれば全く問題ありません。むしろ、それだけ生き生きとした感情を持っているというポジティブなサインとして捉えてください。
甘えと依存心からくる鼻鳴らし
犬は群れで生活する動物であり、リーダーである飼い主様に対して自分の存在を認めてもらいたいという本能的な欲求があります。
「クーン」という音は、子犬が母犬に対して母乳をねだったり、助けを求めたりするときに出す音の名残です。
成犬になっても飼い主様を親のように慕っている犬は、甘えたいときにこの音を使います。
ただし、この甘えの鼻鳴らしに対して常に即座に応えてしまうと、「鼻を鳴らせば思い通りになる」と学習してしまい、要求吠えならぬ「要求鼻鳴らし」に発展することもあります。
愛犬の自立心とのバランスを考え、時には落ち着くまで見守る姿勢も大切です。
ストレスや不満を訴えている場合
犬は自分の思い通りにならないときや、環境の変化に対してストレスを感じたときにも鼻を鳴らします。
例えば、新しい家族(赤ちゃんや別のペット)が増えたとき、家具の配置が変わったとき、あるいは散歩の時間が極端に短くなったときなどです。
このような不満由来の鼻鳴らしは、低く短い「フンッ!」という溜息のような音として現れることが多いです。
愛犬が発する「不満のサイン」を見逃さず、何に対してストレスを感じているのかを環境から読み取ってあげることが、問題行動を未然に防ぐ鍵となります。
注意が必要な病気:鼻の音が知らせる危険なサイン
感情表現であれば微笑ましいものですが、中には重篤な病気が隠れているケースもあります。
単なる鼻づまりだと思っていたものが、実は進行性の疾患であったという例も少なくありません。
特に以下のような状況が伴う場合は、早急に動物病院を受診すべきです。
短頭種気道症候群(パグ・フレンチブルドッグなど)
パグ、フレンチブルドッグ、ブルドッグ、シーズーといった鼻の短い「短頭種」と呼ばれる犬種は、その構造上、常に呼吸器系のリスクを抱えています。
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鼻の穴が極端に狭い(鼻腔狭窄)
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喉の奥の軟口蓋が長すぎて空気の通り道を塞いでいる(軟口蓋過長)
これらの特徴により、呼吸をするたびに「ズーピー」「ブーブー」という音がしやすくなります。
これを「この子らしい音だから」と放置してしまうと、加齢とともに呼吸困難が進行し、最悪の場合は熱中症やチアノーゼを引き起こすリスクがあります。
若いうちに外科的な治療を行うことで、劇的に生活の質(QOL)が向上することもあるため、日常的に音が激しい場合は専門医に相談しましょう。
鼻炎と蓄膿症による呼吸音の変化
犬も人間と同じように鼻炎になります。ウイルス感染や細菌感染、あるいは花粉やハウスダストによるアレルギー反応が原因です。
鼻炎が進行して蓄膿症(副鼻腔炎)になると、鼻の奥に膿が溜まり、空気が通るたびに「グズグズ」「ズズッ」という重苦しい音がするようになります。
鼻炎を放置すると、炎症が周囲の骨(鼻甲介)を溶かしてしまったり、歯の根元まで影響が及んで歯根膿瘍を引き起こしたりすることもあります。
黄色や緑色の粘り気のある鼻水が出ている場合は、一刻も早い治療が必要です。
鼻腔内の腫瘍という見えない脅威
高齢犬で特に注意が必要なのが、鼻の中にできる腫瘍です。初期段階では軽い鼻鳴らしや鼻水程度の症状しか出ないため、見過ごされがちです。
しかし、腫瘍が大きくなるにつれて、片方の鼻だけが詰まったような音がするようになったり、顔の形が変形してきたりします。
また、くしゃみと共に血が混じった鼻水(血膿)が出ることも特徴の一つです。
鼻腔内の腫瘍は外からは見えないため、CT検査などの精密検査が必要となります。「最近、片方の鼻だけ音が鳴るな」と感じたら、それは重要なアラートかもしれません。
異物の混入が引き起こす激しい反応
散歩中に草むらに顔を突っ込んだ後、急に「フガフガ」と激しく鼻を鳴らし始めた場合は、鼻の中に異物が入った可能性があります。
植物の種や小さな破片、あるいは小さな昆虫などが鼻腔に入り込むと、犬はそれを取り出そうとしてパニック気味に鼻を鳴らします。
無理に飼い主様がピンセットなどで取ろうとすると、かえって奥に押し込んでしまう危険があるため、速やかに獣医師に処置を依頼してください。
「逆くしゃみ」のメカニズムと正しい対処法
愛犬が鼻を鳴らす原因として非常に頻度が高く、かつ飼い主様を不安にさせるのが「逆くしゃみ」です。
逆くしゃみは、専門的には「発作性呼吸」とも呼ばれます。文字通り、通常のくしゃみとは逆の動作を行う生理現象ですが、その詳細について理解を深めておきましょう。
なぜ逆くしゃみが起きるのか
逆くしゃみが起きる明確な原因は完全には解明されていませんが、一般的には喉の奥(軟口蓋周辺)への刺激がトリガーになると考えられています。
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冷たい空気を急に吸い込んだとき
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興奮して急激に空気を吸い込んだとき
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ハウスダストや香水などの刺激物に反応したとき
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飲み水を急いで飲んで喉を刺激したとき
これらの刺激により、喉の筋肉が一時的に痙攣し、空気を連続的に吸い込む発作が起こります。
逆くしゃみを止めるための具体的なテクニック
逆くしゃみ自体は数分以内に自然に止まるため、過度に心配する必要はありません。しかし、愛犬が苦しそうにしているのを見るのは辛いものです。
逆くしゃみを早く鎮めるために、自宅でできる以下の方法を試してみてください。
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鼻の穴を一時的に塞ぐ: 鼻の穴を指で数秒間軽く押さえて、口呼吸を促します。これにより、喉の痙攣がリセットされやすくなります。
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喉を優しく撫でる: 上を向かせながら、喉仏のあたりを優しくさすってあげてください。飲み込む動作を促すことで、痙攣が収まることがあります。
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気をそらす: 名前を呼んだり、軽く体を触ったりして、愛犬の注意を別のところへ向けます。精神的な落ち着きを取り戻すことで、呼吸が整う場合があります。
これらの方法を行っても頻繁に逆くしゃみが起こる場合や、一回の発作が5分以上続く場合は、単なる生理現象ではなく別の疾患(気管虚脱など)の可能性があるため、注意が必要です。
病院に行くべき判断基準と準備
愛犬が鼻を鳴らしているとき、「様子を見ていいのか」「すぐに病院に行くべきか」の判断は非常に難しいものです。以下のセルフチェックリストを活用して、今の状況を整理してみましょう。
緊急性を判断するチェックリスト
| チェック項目 | 該当する場合の判断 |
| 歯茎の色が紫や白っぽくなっている(チアノーゼ) | 【緊急】 すぐに救急病院へ |
| 呼吸に合わせて胸が激しくペコペコ動く | 【緊急】 酸欠の恐れあり |
| 鼻水に血が混じっている | 【要受診】 腫瘍や重度の炎症の疑い |
| 1週間以上、毎日頻繁に鼻を鳴らしている | 【要受診】 慢性的な呼吸器疾患の疑い |
| 食欲がない、元気がなくぐったりしている | 【要受診】 全身疾患のサイン |
| 音はするが、食欲もあり元気に走り回っている | 【経過観察】 次回の検診時に相談 |
もし病院を受診することを決めたなら、獣医師がより正確な診断を下せるように準備をしておくことが重要です。
スマートフォンでの動画撮影が最大の武器
診察室に入ると、愛犬は緊張して普段の症状を出さないことが多々あります。「家ではあんなに鼻を鳴らしていたのに、先生の前では静か」という現象です。
これを解決するのが動画です。鼻を鳴らしているときの様子を、真横や正面から15秒〜30秒程度撮影しておきましょう。
音だけでなく、お腹の動きや首の角度、表情も映っていると、獣医師にとって非常に大きな情報源となります。
また、「いつから始まったか」「どんな時に起こるか(寝ているとき、散歩中など)」をメモしておくことも忘れないでください。
鼻を健やかに保つための日常のケアと環境作り
愛犬の鼻の健康を守り、不快な鼻鳴らしを減らすためには、日頃のケアと住環境の整備が欠かせません。鼻は非常にデリケートな器官であることを意識した生活を心がけましょう。
湿度と温度の管理を徹底する
乾燥した空気は、鼻の粘膜を刺激し、鼻炎や逆くしゃみを誘発する大きな要因となります。
冬場はもちろん、夏場のエアコンが効いた部屋も意外と乾燥しています。加湿器を利用して、湿度は50%〜60%前後を維持するようにしましょう。
また、急激な温度変化も鼻への刺激になるため、散歩に出る際は玄関先で少し外の空気に慣らすなどの工夫も有効です。
刺激物を取り除く環境クリーンアップ
犬の鼻は人間よりも遥かに敏感です。私たちが「良い香り」と感じるものが、犬にとっては激しい刺激物になることがあります。
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タバコの煙
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香水、芳香剤、消臭スプレー
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アロマオイル(犬にとって毒性のあるものも多い)
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ハウスダスト、花粉
これらの刺激物は鼻の粘膜に炎症を引き起こし、鼻鳴らしを悪化させます。できるだけ無香料の製品を選び、こまめな掃除と換気を心がけることが、愛犬の鼻の健康への第一歩です。
口腔ケアが鼻を守る
意外に知られていないのが、「歯の健康が鼻の健康に直結している」という事実です。
犬の上の奥歯の根元は、鼻腔のすぐ近くにあります。歯周病が悪化して菌が骨を突き抜けると、鼻の中に膿が流れ込み、激しい鼻炎(口鼻瘻管)を引き起こします。
「鼻を鳴らす理由が、実は重度の歯周病だった」というケースは珍しくありません。毎日の歯磨きを習慣化し、口の中から鼻の健康を守る意識を持ちましょう。
よくある質問
犬の鼻鳴らしに関して、飼い主様から寄せられることの多い疑問に回答します。
Q:寝ているときに「ピーピー」鳴らすのは寝言ですか?
A:多くの場合は寝言や夢を見ているときの反応です。犬もレム睡眠(浅い眠り)のときに夢を見るとされており、その中で走ったり吠えたりする動作が、鼻からの小さな音として漏れることがあります。四肢がピクピク動いているようなら、楽しい夢を見ている可能性が高いので、無理に起こさず見守ってあげましょう。
Q:散歩のときだけ鼻を「フンフン」鳴らすのはなぜですか?
A:散歩中の「フンフン」は、情報収集に集中しているサインです。外の世界には他の犬のマークや自然の匂いなど、膨大な情報が溢れています。それらを効率よく嗅ぎ分けようと、短く強く空気を出し入れすることで音が発生します。病気ではないので心配ありませんが、強く引っ張りすぎて首を圧迫しないよう注意してください。
Q:老犬になってから鼻を鳴らす機会が増えた気がします。
A:加齢に伴い、喉の筋肉の衰えや粘膜の乾燥が進むため、音が鳴りやすくなる傾向があります。しかし、同時に心臓病(心肥大が気道を圧迫する)や腫瘍のリスクも高まる時期です。「年だから仕方ない」と決めつけず、一度健康診断を受けて、心肺機能に問題がないか確認することをおすすめします。
Q:特定の匂いを嗅いだときだけ「クシュン」とするのは?
A:それは単純な防御反応としてのくしゃみです。鼻に入ったホコリや強い香りを外に出そうとしている正常な反応です。単発で終わり、鼻水などの他の症状がなければ問題ありません。ただ、特定の芳香剤などに毎回反応するようであれば、その製品の使用を控えてあげましょう。
Q:短頭種ではないのに、最近「ブーブー」鳴らすようになりました。
A:短頭種以外でも、軟口蓋過長症や肥満によって喉周りの肉が気道を圧迫している場合に「ブーブー」という音が出ることがあります。特に肥満は呼吸器に大きな負担をかけるため、体重管理を見直すことが改善への近道となります。また、急激な変化であれば、鼻腔内のポリープなども考慮されるため、受診を検討してください。
まとめ
愛犬が鼻を鳴らす理由は、単なる甘えから命に関わる病気まで多岐にわたります。
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「フンフン」という短い音は、多くの場合、期待や興奮といったポジティブな感情の表れ。
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「クーン」「ピーピー」は要求や不安だけでなく、痛みのサインである可能性も考慮する。
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「ブーブー」という音の多くは逆くしゃみだが、短頭種の場合は構造的な問題が潜んでいる。
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鼻水に血が混じったり、顔の形が変わったりした場合は、腫瘍などの重篤な病気を疑う。
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日頃から動画を撮る習慣を持ち、湿度管理や口腔ケアで鼻の健康を維持することが大切。
愛犬の鼻から漏れる小さな音は、彼らが発信している大切なメッセージです。その音に耳を傾け、変化にいち早く気づいてあげられるのは、毎日を共に過ごす飼い主様だけです。
もし、この記事を読んで「いつもの音と少し違うかも」と感じたら、迷わずかかりつけの獣医師に相談してみてください。早期発見と適切なケアが、愛犬の健やかな呼吸と、穏やかな日常を守ることにつながります。
鼻を鳴らして甘えてくる愛犬との時間を、これからも大切に育んでいきましょう。




























