愛犬がフンフンと鼻を鳴らしていたり、ズビズビと鼻をすすっていたりする姿を見ると、飼い主としては居ても立ってもいられないほど心配になるものです。
犬にとって鼻は、単なる呼吸器である以上に、周囲の情報を得るための最も重要な感覚器官です。その鼻がつまってしまうということは、私たち人間が思う以上に、犬にとっては大きなストレスであり、生命の維持に関わる不自由を感じている状態といえます。
鼻づまりを放置すると、食欲が落ちて体力が低下したり、夜眠れなくなって体調を崩したりすることも珍しくありません。また、単なる風邪だと思っていた症状の裏に、命に関わる重大な病気が隠れている可能性も否定できないのです。
本記事では、犬の鼻づまりに悩む飼い主様に向けて、その原因から自宅でできるケア、そして病院へ行くべき緊急のサインまで、愛犬の呼吸を楽にするために必要な情報をすべてお伝えします。
愛犬の苦しそうな表情を解消し、穏やかな日常を取り戻すための第一歩として、ぜひ最後まで読み進めてください。
もくじ
犬の鼻づまりで見られる代表的なサインと症状
犬は言葉で「鼻がつまっている」と伝えることができません。そのため、飼い主が日々の生活の中で些細な異変に気づいてあげることが不可欠です。
まずは、愛犬に以下のようなサインが出ていないか確認してみましょう。これらはすべて、鼻の通りが悪くなっているときに見られる代表的な症状です。
呼吸音の異変(フンフン、ズビズビ、グーグー)
最も分かりやすいサインは「音」です。呼吸をするたびに「フンフン」と鼻を鳴らしたり、鼻水をすするような「ズビズビ」という音が聞こえたりする場合、鼻腔内に分泌物が溜まっているか、粘膜が腫れている可能性が高いです。
また、寝ているときに「グーグー」といびきをかくようになった場合も注意が必要です。もともといびきをかかない犬種が急にいびきをかき始めたら、それは鼻の奥で空気の通り道が狭くなっている警告かもしれません。
逆くしゃみ(発作的な吸気)
突然、鼻から空気を激しく吸い込むような動作を繰り返し、「ズー、ズー」と音を立てる「逆くしゃみ」も鼻づまりと関連があります。逆くしゃみ自体は生理的な現象であることも多いですが、頻度が急に増えた場合は、鼻の粘膜に何らかの刺激や炎症が起きていると考えられます。
「苦しそうに空気を求めている姿」に驚いてパニックになる飼い主様も多いですが、まずは落ち着いて様子を観察することが大切です。
鼻水の色と質感の変化
鼻づまりとセットで現れるのが鼻水です。鼻水の状態を観察することで、炎症の程度や原因を推測する重要な手がかりになります。
以下に、鼻水の状態と想定される状況をまとめました。
犬の鼻水の状態と原因の目安
| 鼻水の質感 | 色 | 想定される状況 |
| サラサラしている | 透明 | アレルギー、寒暖差、初期のウイルス感染 |
| ネバネバしている | 白・薄い黄色 | 細菌感染、慢性的な鼻炎の進行 |
| ドロドロしている | 黄色・緑色 | 蓄膿症(副鼻腔炎)、重度の感染症 |
| 血が混じっている | ピンク・赤・茶 | 腫瘍、異物混入、重度の炎症、凝固異常 |
サラサラした透明な鼻水であれば、一時的な刺激の可能性もありますが、色がついてネバネバしてきた場合は、細菌が繁殖しているサインです。速やかな対応が求められます。
犬が鼻づまりを起こす主な5つの原因
なぜ犬の鼻はつまってしまうのでしょうか。その理由は、単純な冷えから深刻な疾患まで多岐にわたります。原因を正しく理解することで、適切な対処法が見えてきます。
1. 感染症(ウイルス・細菌)
犬の鼻づまりで最も多い原因の一つが、ウイルスや細菌による感染症です。いわゆる「犬風邪」と呼ばれるケンネルコフなどが代表的です。
これらは多頭飼育の環境やドッグランなどで感染しやすく、鼻水だけでなく、くしゃみや咳を伴うことが一般的です。子犬や老犬などの免疫力が低い犬の場合、肺炎に移行するリスクもあるため、軽視は禁物です。
2. アレルギー反応
人間と同様に、犬もハウスダスト、花粉、カビ、あるいは特定の食べ物に対してアレルギー反応を起こします。
アレルギー性の鼻炎では、透明な鼻水が止まらなくなったり、鼻を頻繁にこすったりする動作が見られます。特定の季節や、特定の部屋にいるときに症状が悪化する場合は、環境アレルギーを疑う必要があります。
3. 鼻腔内の異物混入
散歩中に草むらに顔を突っ込んだ際、小さな種や枯れ葉の破片、土などが鼻に入り込んでしまうことがあります。
この場合、「急に激しいくしゃみをし始める」「片方の鼻からだけ鼻水や血が出る」といった特徴的な症状が現れます。異物を放置すると、そこから激しい炎症が起きるため、早急に動物病院で取り除いてもらう必要があります。
4. 歯周病(根尖周囲膿瘍)
意外に見落とされがちなのが、歯のトラブルです。犬の上の奥歯の根元は、鼻の空洞(鼻腔)と非常に近い場所にあります。
重度の歯周病になり、歯の根元に膿が溜まると、その膿が鼻腔へと突き抜けてしまうことがあります。これを「口鼻瘻(こうびろう)」と呼びます。「口臭が強い」「顔を触られるのを嫌がる」といった兆候がある場合、鼻づまりの原因は鼻ではなく、口にあるかもしれません。
5. 鼻腔内の腫瘍
特に高齢の犬で、片側から血混じりの鼻水が続く場合は、鼻の中に腫瘍ができている可能性を考えなければなりません。
鼻の腫瘍は外見からは分かりにくく、進行すると顔の形が変わってしまうこともあります。「鼻血が出る」「いびきがどんどん酷くなる」といった症状は、重大なサインとして捉えてください。
病院へ行くべき緊急サイン!見逃してはいけない危険な兆候
鼻づまりの多くは経過観察で改善することもありますが、中には一刻を争う事態も含まれています。以下の症状が見られたら、夜間であっても救急外来を検討すべき緊急事態です。
努力性呼吸(全身で息をしている)
鼻がつまって口呼吸もスムーズにできなくなると、犬は横になれず、座ったまま前足を広げて、全身を使って必死に息をしようとします。これは「努力性呼吸」と呼ばれ、非常に危険な酸欠状態です。
舌の色が青紫色になる「チアノーゼ」が見られたら、命の危険が迫っています。1分1秒を争う状況ですので、すぐに病院へ連絡してください。
激しい鼻出血
ポタポタと絶え間なく血が垂れるような鼻出血は、止血異常や腫瘍、あるいは激しい炎症のサインです。犬は鼻血を止めようとしてくしゃみをし、その刺激でさらに出血が悪化するという悪循環に陥りやすいです。
食欲の完全な消失と衰弱
犬は嗅覚で食べ物の味を判断しています。鼻がつまって匂いが分からなくなると、大好物であっても食べようとしなくなります。
特に体力のない老犬や持病のある犬にとって、丸一日何も食べない状態は急速な衰弱を招きます。「たかが鼻づまり」と侮らず、全身状態が悪化する前に医療介入が必要です。
飼い主ができる!愛犬の鼻づまりを和らげる自宅ケア
病院での治療と並行して、あるいは軽度の症状の際に、飼い主が自宅でできるケアはたくさんあります。日々のケアで愛犬の不快感を少しでも軽減してあげましょう。
徹底した加湿と温度管理
乾燥した空気は鼻の粘膜を傷つけ、分泌物を固まりやすくさせます。まずは加湿器を使い、湿度が50%〜60%程度になるよう調整してください。
また、ネブライザー(吸入器)の代わりとして、お風呂場に一緒に入り、湯気の中で数分過ごさせるだけでも、固まった鼻水がふやけて排出しやすくなります。「湿度を味方につけること」は、呼吸器ケアの鉄則です。
温熱療法(蒸しタオルケア)
固まってこびりついた鼻水を取り除くには、蒸しタオルが有効です。40度程度のぬるま湯で濡らしたタオルを鼻の付け根あたりに優しく当て、数分間温めてあげましょう。
血行が良くなり、粘膜の腫れが引くことで、一時的に鼻の通りが良くなります。このとき、熱すぎないか必ず自分の腕などで温度を確認することを忘れないでください。
鼻水のこまめな拭き取り
鼻水が顔についたまま乾燥すると、皮膚が荒れて痛みを感じるようになります。柔らかいコットンやガーゼをぬるま湯で湿らせ、優しく拭き取ってあげましょう。
拭き取った後は、ペット用の保湿クリームやワセリンを薄く塗っておくと、皮膚の炎症を防ぐことができます。清潔を保つことは、二次感染の予防にも繋がります。
水分補給の促進
体内の水分が不足すると、鼻水も粘り気を増してつまってしまいます。積極的に水分を摂らせる工夫をしましょう。
ドライフードにぬるま湯をかけたり、犬用のスープやチュールを薄めて与えたりするのが効果的です。「サラサラした鼻水」の状態を保つことが、自然な排出を助けます。
鼻づまりを解消するための環境整備と予防策
症状が改善した後も、再発を防ぐための環境づくりが大切です。愛犬が呼吸しやすい家作りを意識してみましょう。
定期的な清掃と空気清浄機の活用
アレルギー性鼻炎を予防するためには、原因物質(アレルゲン)を徹底的に排除することが基本です。
こまめな掃除機がけはもちろん、布団やクリーンを定期的に洗濯し、空気清浄機を稼働させましょう。特に犬が長時間過ごす場所(ベッド周辺)の衛生状態を重点的にチェックしてください。
歯磨き習慣による口内環境の改善
先述の通り、歯周病は鼻づまりの大きな原因となります。毎日の歯磨きを習慣化し、歯垢や歯石が溜まらないようにケアしましょう。
すでに歯石がひどい場合は、家庭でのケアだけでは不十分です。動物病院でスケーリング(歯石除去)を受けることが、結果として鼻の健康を守る最短ルートになることもあります。
定期的な健康診断とワクチン接種
ウイルス感染を防ぐためには、混合ワクチンの定期的な接種が欠かせません。また、シニア期に入ったら、鼻腔内の異常や歯の健康状態をチェックするために、半年に一度は健康診断を受けることをおすすめします。
犬種別の特徴:鼻づまりを起こしやすい犬たち
犬種によっては、体の構造上、鼻づまりを起こしやすいグループがあります。自分の愛犬が当てはまる場合は、より慎重な観察が必要です。
短頭種(パグ、フレンチブルドッグ、チワワなど)
鼻の短い犬種は、鼻腔の構造が複雑で狭いため、少しの粘膜の腫れでもすぐに鼻がつまってしまいます。これらは「短頭種気道症候群」と呼ばれることもあり、遺伝的に呼吸がしづらい構造を持っています。
これらの犬種は暑さにも非常に弱いため、温度・湿度管理には他犬種以上の配慮が求められます。
高齢犬(シニア犬)
加齢とともに免疫力が低下すると、慢性的な鼻炎に移行しやすくなります。また、シニア犬は腫瘍のリスクも高まるため、「いつものことだから」と放置せず、変化に敏感であることが長生きの秘訣です。
よくある質問
犬の鼻づまりに関して、飼い主様からよく寄せられる疑問をQ&A形式でまとめました。
Q:人間用の点鼻薬を使っても大丈夫ですか?
A:絶対に自己判断で使用しないでください。人間用の薬には、犬にとって有害な成分(キシロメタゾリンなど)が含まれていることがあり、不整脈やけいれんなどの副作用を引き起こす危険があります。必ず獣医師から処方されたものを使用してください。
Q:鼻づまりのときに散歩へ行ってもいいですか?
A:元気があり、熱がない場合は、気分転換程度の短い散歩なら問題ありません。ただし、外気が極端に冷たかったり乾燥していたりする場合は、鼻の粘膜を刺激して悪化させる可能性があるため、控えた方が無難です。愛犬の様子を見ながら判断しましょう。
Q:鼻がつまっているときに食欲を出す方法はありますか?
A:食べ物の匂いを強くするために、フードを少し温める(人肌程度)のが最も効果的です。また、香りの強いウェットフードをトッピングしたり、かつお節や茹でた鶏肉の茹で汁をかけたりして、嗅覚が鈍っていても「美味しそう」と感じる工夫をしてみてください。
Q:鼻づまりは自然に治るものですか?
A:軽い寒暖差や一時的な刺激によるものであれば、数日で自然に治ることもあります。しかし、3日以上症状が続く場合や、鼻水の色が濃くなってきた場合は、自然治癒を待つよりも受診したほうが早く楽にしてあげられます。
Q:くしゃみを連発していますが、鼻づまりと関係ありますか?
A:はい、非常に密接に関係しています。くしゃみは鼻の中の異物や分泌物を外に出そうとする防御反応です。くしゃみを連発した後に鼻がつまるのは、それだけ鼻の粘膜が激しく反応している証拠です。
まとめ
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犬の鼻づまりは、呼吸の異音や鼻水の色、いびきなどのサインで早期に気づくことが重要である。
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主な原因は感染症、アレルギー、異物、歯周病、腫瘍の5つに分類され、それぞれ対処法が異なる。
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舌が青くなる、全身で息をする、激しい鼻血が出るなどの症状は緊急事態であり、即受診が必要である。
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自宅では加湿、蒸しタオルケア、水分補給を行うことで、愛犬の不快感を大幅に軽減できる。
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定期的な歯のケアや室内の清掃、ワクチン接種が、再発防止と健康維持の鍵となる。
犬にとって「鼻でスムーズに息ができること」は、心身の健康を支える土台そのものです。鼻がつまって苦しそうにしている愛犬の姿を見るのは辛いものですが、飼い主様が正しい知識を持って適切に対処することで、必ず状況は改善へと向かいます。
日々の些細な変化を見逃さず、愛情深いケアを続けてあげてください。もし不安なことがあれば、一人で抱え込まずに、信頼できるかかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。愛犬が再び爽快に鼻を鳴らし、元気に走り回れる日が来ることを心より願っております。


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