愛犬が執拗に足を舐めていたり、指の間が赤く腫れていたりすることはありませんか。
それは指間炎という皮膚病かもしれません。 放置すると痛みや化膿が悪化し、歩行困難になる恐れもあります。
本記事では、獣医師の知見に基づいた原因の特定方法から、 効果的な治療法、自宅での予防ケアまで詳しく解説します。
愛犬の健やかな毎日を取り戻すための参考にしてください。
もくじ
犬の指間炎とは？足の指の間が赤くなる原因と症状
犬の指間炎は、足の指の間や肉球の周囲に炎症が起こる疾患です。
散歩から帰った後に足を気にしていたり、特定の場所をずっと舐めていたりする場合は注意が必要です。
指の間は通気性が悪く、湿気がこもりやすい場所であるため、一度炎症が起こると悪化しやすい傾向があります。
飼い主様が早期に発見し、適切な処置を行うことが早期治療の鍵となります。
指間炎の主な症状と見分け方
初期症状としては、患部の赤みやわずかな腫れが見られます。
犬がしきりに足を舐める、あるいは噛むような仕草を見せ始めたら、指の間を優しく広げて確認してみましょう。
悪化すると、炎症部位が化膿して膿が出たり、独特の強い臭いを発したりすることがあります。
また、強い痛みを伴うようになると、足を地面につくのを嫌がって引きずるような歩き方（跛行）を見せることもあります。
指間炎になりやすい犬種と身体的特徴
指の間が蒸れやすい犬種や、皮膚がデリケートな犬種は特に注意が必要です。 例えば、フレンチブルドッグやパグなどの短頭種は、指の間の皮膚が厚く汚れが溜まりやすい構造をしています。
また、ゴールデンレトリバーやトイプードルのような長毛種は、指の間の毛が伸びて湿気が残りやすくなります。 柴犬などはアレルギー体質の個体が多く、皮膚バリア機能が低いために指間炎を再発しやすいのが特徴です。
なぜ愛犬は足を舐め続けるのか？指間炎の4大原因
指間炎の原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っていることがほとんどです。
原因を正確に把握しなければ、薬を塗っても一時的な改善に留まり、すぐに再発してしまいます。
主な原因は「精神的要因」「感染症」「アレルギー」「環境要因」の4つに分類されます。 それぞれの特徴を理解し、愛犬の生活習慣の中に潜んでいるリスクを見つけ出しましょう。
過剰な舐め癖による自傷行為と精神的ストレス
犬は不安や退屈、欲求不満を感じると、自分を落ち着かせるために足を舐めることがあります。
これが習慣化すると皮膚が常に湿った状態になり、皮膚の角質が破壊されて炎症を引き起こします。
「舐めるから炎症が起きる」「炎症が痒いからさらに舐める」という負のスパイラルに陥るのが最も厄介です。
環境の変化や運動不足がストレスになっていないか、愛犬の精神状態にも目を向ける必要があります。
細菌感染（膿皮症）と真菌感染（マラセチア）
皮膚には元々常在菌が存在していますが、免疫力が低下したり皮膚が傷ついたりすると、これらが異常増殖します。
代表的なのがブドウ球菌による**細菌感染（膿皮症）**です。
また、酵母菌の一種である**マラセチア（真菌）**が指の間で増えることもよくあります。
マラセチア感染の場合、独特の脂っぽい臭いや、茶褐色のベタついた汚れが指の間に付着するのが特徴です。
アレルギー性皮膚炎やアトピー性皮膚炎の影響
食物アレルギーやアトピー性皮膚炎を持つ犬は、全身の皮膚にかゆみを感じやすく、特に指の間は症状が出やすい部位です。
一年中足を舐めている場合や、耳や目の周りにも赤みがある場合は、アレルギーを疑うべきでしょう。
アレルギーが原因の場合、単なる消毒や外用薬だけでは完治しません。
食事の管理や、免疫を調整する根本的な治療が必要になるため、獣医師によるアレルギー検査が推奨されます。
散歩後の汚れや湿気などの環境要因
雨の日の散歩や、足洗いの後の乾燥不足は、指間炎の最大の引き金となります。
水分が残ったままの指の間は、細菌や真菌にとって最高の繁殖場所になってしまうからです。
また、散歩コースにある植物の種子や小石が指の間に挟まり、それが刺激となって炎症が起きることもあります。
散歩から帰った際は、物理的な刺激物が残っていないか、指の股までしっかり確認することが大切です。
指間炎の治療法と動物病院での主な処置内容
指間炎が疑われる場合は、早めに動物病院を受診することが最善の選択です。
自己判断で市販の人間用軟膏などを使用すると、症状を悪化させる危険があるため絶対に避けてください。
病院では、まず皮膚の検査（掻爬検査やスタンプ検査）を行い、原因菌を特定します。
その後、症状の重さに合わせて、内服薬や外用薬、スキンケアなどを組み合わせた多角的な治療が行われます。
投薬治療（抗生物質・抗真菌薬・ステロイド・新薬）
細菌感染があれば抗生物質を、マラセチア感染があれば抗真菌薬を処方するのが一般的です。
強いかゆみがある場合は、炎症を素早く抑えるためにステロイド剤が一時的に使われることもあります。
最近では、副作用の少ない副作用の少ない**アポキル（抗かゆみ薬）**や、サイトポイントといった注射薬も普及しています。
これらはアレルギー性皮膚炎に伴う強いかゆみを劇的に緩和し、舐め癖を止めるのに非常に有効な手段です。
薬用シャンプーや消毒薬による外用療法
患部の菌を減らし、清潔に保つために薬用シャンプーを用いた**足浴（そくよく）**が効果を発揮します。
クロルヘキシジンなどの殺菌成分が含まれたシャンプーで、優しく汚れと菌を洗い流します。
ただし、シャンプーのやりすぎは皮膚のバリア機能を壊すため、回数は獣医師の指示に従ってください。
洗浄後は必ず水分を完全に拭き取ることが、治療を成功させるための鉄則となります。
エリザベスカラー等による物理的な舐め防止対策
薬を塗っても、すぐに犬が舐めてしまっては効果が得られません。
むしろ、薬を舐めることで薬効が消えるだけでなく、胃腸を痛める可能性すらあります。
そのため、炎症がひどい時期はエリザベスカラーを装着し、物理的に口が足に届かないようにします。
最近では柔らかい布製のものや、ドーナツ型など、犬のストレスを軽減するグッズも多く販売されています。
自宅でできる指間炎のケアと再発防止の秘訣
病院での治療と並行して、自宅での正しいケアを行うことで完治までの期間を短縮できます。
日々の習慣を少し変えるだけで、再発のリスクを大幅に減らすことが可能です。
特に「清潔」と「乾燥」の維持は、どんな治療薬よりも重要な予防策となります。
飼い主様が毎日愛犬の足をチェックし、異変にすぐ気づける体制を整えておきましょう。
散歩後の正しい足拭きと「完全乾燥」の重要性
散歩後に足を洗う場合は、指の間まで丁寧に洗い、何よりも徹底的に乾かすことが重要です。 タオルで拭くだけでは不十分で、ドライヤーの冷風や弱温風を使って、指の付け根まで乾燥させてください。
もし足を洗う必要がないほど汚れが少ない場合は、清潔な乾いたタオルで拭くだけに留めましょう。
過剰な洗浄は皮膚の油脂を奪い、逆にバリア機能を低下させる原因になるため注意が必要です。
指間の毛のカットと通気性の確保
指の間の毛が伸び放題になっていると、湿気が逃げ場を失い、蒸れが深刻化します。
定期的にバリカンやハサミを使って、指の間の毛を短く整えるようにしましょう。
毛を短くすることで、薬を塗る際に患部までしっかり届きやすくなるというメリットもあります。
ただし、バリカンで皮膚を傷つけるとそこから感染が広がるため、無理をせずプロに頼むのも一つの手です。
室内環境の整備と運動によるストレス解消
舐め癖が原因の場合、家の中での過ごし方を見直すことで症状が改善することがあります。
知育玩具を使って退屈な時間を減らしたり、散歩の質を高めることで精神的な満足感を与えましょう。
また、室内の湿度が高すぎると皮膚トラブルが起きやすいため、除湿機などで環境を一定に保つことも有効です。
愛犬がリラックスして過ごせる環境作りは、指間炎の予防だけでなく全体の健康維持に繋がります。
指間炎対策グッズの比較
治療や予防に役立つアイテムは多岐にわたります。症状や愛犬の性格に合わせて最適なものを選びましょう。
放置するとどうなる？重症化のリスクと慢性化への懸念
「たかが指の間が赤いだけ」と軽く考えるのは非常に危険です。
指間炎を放置すると、炎症が皮膚の深い層まで及ぶ深在性膿皮症に進行することがあります。
重症化すると、指の間に硬いしこり（肉芽腫）ができたり、瘻管（穴）が開いて膿が止まらなくなったりします。
こうなると外科的な切除が必要になるケースもあり、治療費も期間も大幅に増大してしまいます。
また、慢性化した指間炎は周囲の皮膚を厚く変質させ、一生付き合わなければならない持病になりかねません。
少しでも「いつもと違う」と感じたら、迷わず受診することが愛犬を苦痛から救う唯一の方法です。
よくある質問（FAQ）
散歩後に足を洗うのは毎日したほうがいいですか？
散歩後の足洗いは、汚れがひどい時だけに留めるのが理想的です。 毎日の過度な洗浄は皮膚を保護する皮脂を奪い、逆に指間炎を悪化させるリスクがあります。
基本は乾いたタオルでの乾拭き、どうしても洗う場合は30度以下のぬるま湯で短時間に行い、完璧に乾かしてください。
市販の人間用オロナインや軟膏を塗っても大丈夫ですか？
絶対に避けてください。人間用の薬には犬が舐めると中毒を起こす成分が含まれていることがあります。
また、指間炎の原因が真菌（カビ）の場合、ステロイド入りの軟膏を塗ると劇的に悪化する恐れがあります。
自己判断の処置は、症状を複雑化させる原因になるため、必ず獣医師が処方した薬を使用しましょう。
薬用シャンプーはどれくらいの頻度で使うのが効果的ですか？
症状が強い時期は週に2〜3回、予防目的であれば月に1〜2回程度が目安です。
ただし、使用するシャンプーの成分や、愛犬の皮膚の状態によって最適な頻度は異なります。
使いすぎは皮膚の乾燥を招くため、必ず獣医師に相談し、個別のスキンケアプランを立ててもらうことが大切です。
エリザベスカラーを嫌がります。代わりの対策はありますか？
カラーが苦手な子には、柔らかい布製のクッションカラーや、足先だけを保護する包帯・靴下を検討しましょう。
ただし、靴下は蒸れやすいため、こまめな交換と通気性の確認が必須となります。 また、おもちゃに集中させるなど、意識を足から逸らす工夫を併用すると、ストレスを緩和しやすくなります。
治療を始めてもなかなか治りません。何が原因でしょうか？
考えられる原因は、基礎疾患（アレルギー等）の未解決か、家庭での乾燥不足が多いです。
また、薬を隠れて舐めてしまっている場合も治りが遅くなります。 1ヶ月以上改善が見られない場合は、二次検査で原因菌の耐性確認や、食事アレルギーの除外診断を再検討すべきです。
指間炎は他の犬や人間にうつりますか？
一般的な指間炎（細菌やマラセチア）は、他者へ感染することはありません。
しかし、原因が皮膚糸状菌（白癬菌）や疥癬などのダニだった場合は、他の犬や人間にうつる可能性があります。
多頭飼育の場合は、原因が特定されるまでタオルの共有を避けるなどの注意を払っておくと安心です。
治療費はどれくらいかかりますか？
軽度の診察と処方であれば、1回あたり3000円から5000円程度が目安です。
しかし、アレルギー検査や長期の内服、重症化後の処置が必要な場合は数万円単位になることもあります。
再発を繰り返すとトータルの出費がかさむため、初期段階でしっかりとコストをかけて完治させることが経済的です。
まとめ
犬の指間炎は、多くの愛犬家が直面する非常に身近で、かつ厄介な皮膚トラブルです。
原因は多岐にわたりますが、共通して言えるのは早期発見と適切な乾燥が治癒への最短ルートであるということです。
愛犬が足を舐めているサインを見逃さず、病院での適切な治療と自宅での徹底したケアを両立させましょう。
飼い主様のこまめなチェックと愛情深いサポートが、愛犬の痒みのない生活を実現するための何よりの薬となります。
指の間を清潔に保ち、毎日を笑顔で過ごせる環境を整えてあげてください。
