「愛犬の耳の汚れがいつまでも治らない」
「鼻水やいびきが最近ひどい」
そんな悩みを抱えていませんか?
人間ならすぐに耳鼻科に行きますが、犬の場合はどの病院を選べばいいのか迷ってしまう飼い主さんも多いはずです。
実は獣医療にも「耳」や「鼻」に特化した専門的な治療が存在します。
この記事では、犬の耳鼻科に相当する診療科の探し方から、専門医にかかるべき症状の目安、費用の相場までを分かりやすく解説します。
愛犬の不快な症状を一日も早く解消するために、正しい病院選びの知識を身につけましょう。
もくじ
犬に「耳鼻科」専門の動物病院はあるのか?
「犬 耳鼻科」と検索しても、人間のように「〇〇耳鼻科」という看板を掲げた動物病院はあまり見つかりません。
まずは、犬の医療における「耳」と「鼻」の扱いについて解説します。
人間のような「耳鼻咽喉科」は少ない
結論から言うと、犬専用の「耳鼻咽喉科」単独で標榜している動物病院は非常に稀です。
人間の医療では臓器ごとに診療科が細分化されていますが、獣医療では「全科診療(一般診療)」が基本です。
一つの病院で内科、外科、皮膚科などを幅広く診るスタイルが一般的であるため、「耳鼻科」という明確な看板を見かけることは少ないのです。
しかし、近年では獣医療の高度化に伴い、特定の分野に特化した専門診療を行う病院が増えてきています。
「皮膚・耳科」や「呼吸器科」が担当するケース
犬の「耳」や「鼻」のトラブルは、一般的に以下の診療科や専門外来で扱われることが多くなります。
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耳のトラブル
多くの場合は「皮膚科」の一部として扱われます。「皮膚・耳科」と表記されていることもよくあります。これは犬の外耳炎などの多くが、アレルギー性皮膚炎やアトピーと密接に関係しているためです。
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鼻のトラブル
鼻水やくしゃみなどの症状は「呼吸器科」や、場合によっては「軟部外科」「腫瘍科」の領域になります。鼻の奥の検査には内視鏡やCTが必要になることが多いため、設備が整った病院が担当します。
専門医や認定医がいる病院の特徴
「治らない外耳炎」や「原因不明の鼻血」などで悩んでいる場合は、専門医や認定医が在籍する病院を探すのが近道です。
専門的な知識を持つ獣医師がいる病院には、以下のような特徴があります。
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高度な検査機器がある:耳専用の内視鏡(ビデオオトスコープ)やCT、MRIなどを完備している。
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二次診療施設である:かかりつけ医からの紹介が必要な大学病院や高度医療センター。
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学会認定医が在籍:日本獣医皮膚科学会認定医や、比較呼吸器学会などに所属し研鑽を積んでいる獣医師がいる。
犬の耳や鼻のトラブルで多い病気と症状
耳や鼻の病気は、初期段階では気づきにくいものもあります。「いつものこと」と放置せず、症状を見逃さないことが大切です。
耳の病気(外耳炎・中耳炎・耳血腫)
犬の耳の病気で最も多いのが外耳炎ですが、悪化すると手術が必要になることもあります。
| 病気の種類 | 主な症状 | 特徴 |
| 外耳炎 | 耳を痒がる、赤み、悪臭、ベトベトした耳垢 | たれ耳の犬種やアレルギー体質の犬に多い。再発しやすい。 |
| 中耳炎・内耳炎 | 耳の奥の痛み、顔面麻痺、斜頸(首をかしげる) | 外耳炎が進行して鼓膜の奥まで炎症が広がった状態。 |
| 耳血腫 | 耳たぶがパンパンに腫れる、熱感 | 耳を激しく掻いたり振ったりすることで、耳介に血が溜まる。 |
鼻の病気(鼻炎・副鼻腔炎・鼻腔内腫瘍)
鼻の症状は「風邪かな?」と様子を見てしまいがちですが、シニア犬の場合は腫瘍の可能性も考慮する必要があります。
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鼻炎・副鼻腔炎
ウイルスや細菌の感染、歯周病菌が鼻に回ることで起こります。ドロっとした鼻水やくしゃみが出ます。
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鼻腔内腫瘍(がん)
高齢の犬で、鼻血や顔の変形が見られる場合に疑われます。初期症状は鼻炎と似ているため注意が必要です。
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鼻腔内異物
散歩中に植物の種(ノギなど)を吸い込んでしまい、激しいくしゃみが止まらなくなるケースです。
病院へ行くべき危険なサイン
以下のような症状が見られたら、様子を見ずに早急に受診してください。
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突然の激しいくしゃみや鼻出血
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耳から膿が出ている、または出血している
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首を傾げたまま歩けない(平衡感覚の喪失)
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鼻の周りが腫れて顔の形が変わってきた
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呼吸が苦しそうで、いびきの音が変わった
一般診療と専門診療の違いとは?
「かかりつけの病院」と「専門的な病院」では、できる検査や治療のアプローチが異なります。その違いを理解しておくことで、転院やセカンドオピニオンの判断がしやすくなります。
検査設備(ビデオオトスコープ・CT・内視鏡)の違い
一般診療では、主に検耳鏡(手持ちのライト付きレンズ)やレントゲン、耳垢の顕微鏡検査などで診断します。多くの軽症例はこれで対応可能です。
一方、専門診療(耳鼻科領域)では、より体の奥深くを視覚化する機器を使用します。
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ビデオオトスコープ
耳の中に細いカメラを入れ、モニターで鼓膜や耳道の奥を拡大して確認します。一般の検耳鏡では見えない汚れや腫瘤を発見できます。
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CT・MRI検査
鼻の奥の構造や、中耳・内耳の炎症、脳への影響などを3次元で画像化します。鼻腔内腫瘍の診断には必須です。
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鼻腔鏡(内視鏡)
鼻の中にカメラを入れ、異物の摘出や組織検査(生検)を行います。
治療の選択肢と難治性症例への対応
専門診療では、薬で症状を抑えるだけでなく、「根本治療」を目指した外科的アプローチも提案されます。
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耳道洗浄(オトフラッシュなど)
麻酔下でビデオオトスコープを見ながら、耳の奥に詰まった汚れを完全に洗い流す処置です。
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外科手術
薬が効かないほど耳道が変形してしまった場合の「全耳道切除術」や、鼻の腫瘍に対する放射線治療など、高度な選択肢が提示されます。
セカンドオピニオンとしての活用
「何ヶ月も通院しているのに良くならない」という場合は、セカンドオピニオンとして専門外来を受診することをおすすめします。
かかりつけ医の治療が間違っているわけではなく、一般的な設備では原因が特定できないレベルまで病状が進行している可能性があるからです。
専門医の視点で診断を見直すことで、全く別の原因(食物アレルギーやホルモン異常など)が見つかることも少なくありません。
犬の耳鼻科(専門外来)を受診すべきタイミング
では、具体的にどのような状況になったら専門医(皮膚・耳科や呼吸器科)を探すべきでしょうか。判断の目安をまとめました。
外耳炎が何度も再発・慢性化している
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薬を使っている間は治るが、止めるとすぐにぶり返す。
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半年以上、通院と投薬を繰り返している。
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耳の皮膚が分厚く硬くなり、耳の穴が狭くなっている。
これらは「難治性外耳炎」の可能性が高く、通常の点耳薬だけでは完治が難しい状態です。耳の奥の洗浄や、アレルギーなどの基礎疾患の管理が必要です。
鼻水や鼻血が片側だけから出ている
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片方の鼻の穴からだけ鼻水が出る。
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鼻水に血が混じっている。
これらは、単純な鼻炎よりも「歯周病由来の炎症」「鼻腔内腫瘍」「異物」の可能性が高まります。レントゲンやCTでの精密検査が推奨されるサインです。
いびきや呼吸音が急に変わった
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「ズーズー」「ガーガー」という音が常に聞こえる。
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寝ている時だけでなく、起きている時も呼吸が荒い。
短頭種(フレンチブルドッグやパグなど)によく見られる軟口蓋過長症などの構造的な問題や、鼻の奥の閉塞が疑われます。呼吸器に詳しい獣医師の診断が必要です。
動物病院での検査内容と治療費用の目安
専門的な治療を受ける場合、気になるのが費用です。自由診療のため病院によって差はありますが、一般的な相場を知っておくと安心です。
初診料と基本的な検査費用
専門外来を受診する場合、一般診療よりも初診料が高めに設定されていることや、カウンセリング料が別途かかることがあります。
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初診料・再診料:1,000円〜3,000円
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耳垢検査・細胞診:1,000円〜2,000円
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血液検査:5,000円〜10,000円(全身状態やアレルギーの確認)
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レントゲン検査:5,000円〜10,000円
麻酔が必要な処置・手術の費用相場
専門的な検査や処置の多くは、安全のために鎮静や全身麻酔が必要になります。
| 項目 | 費用の目安 | 内容 |
| ビデオオトスコープ検査・洗浄 | 3万〜8万円 | 麻酔下での耳道内視鏡検査と洗浄処置。 |
| CT検査 | 5万〜10万円 | 麻酔・造影剤含む。鼻や耳の奥の精密検査。 |
| 鼻腔内視鏡検査 | 5万〜10万円 |
鼻の中の観察、組織採 取、異物除去など。 |
| 外耳炎手術(耳道切除など) |
20万〜40万円以上 |
重度の外耳炎に対する難易度の高い外科手術(例:全耳道切除術)。費用は手術内容や病院、入院期間により大きく異なります。 |
※上記はあくまで目安です。入院費や薬代が別途かかります。
ペット保険は適用される?
基本的に、病気や怪我に対する診療であればペット保険の対象になります。
ただし、以下の点には注意が必要です。
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既往症(加入前からある病気):加入前から患っている慢性外耳炎などの持病は、原則として補償対象外となります。(詳細は各保険会社の約款をご確認ください。)
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予防医療:耳掃除だけの処置(病気ではない場合)は対象外になることがあります。
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補償限度額:CT検査や手術は高額になるため、保険の「1日あたりの支払限度額」や「手術補償の有無」を事前に確認しましょう。
自宅でできる犬の耳・鼻のチェックとケア方法
病院での治療効果を高めるためには、自宅での正しいケアも欠かせません。しかし、間違ったケアはかえって病気を悪化させる原因になります。
正しい耳のチェックと掃除頻度
健康な耳であれば、頻繁な耳掃除は不要です。月に1〜2回程度のチェックで十分です。
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チェックポイント:赤み、腫れ、黒い耳垢、酸っぱい臭いがないか。
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掃除の方法:見える範囲(耳介)の汚れを、洗浄液を含ませたコットンで優しく拭き取るだけにする。
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重要:綿棒を耳の奥に突っ込むのは絶対にやめましょう。汚れを奥に押し込んでしまったり、耳道を傷つけたりする原因になります。
鼻の乾燥や分泌物の観察ポイント
犬の鼻は健康のバロメーターです。日頃から以下の点を観察しましょう。
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湿り気:寝起き以外でカサカサに乾いていたり、ひび割れていたりしないか。
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分泌物:透明でサラサラなら正常範囲のことが多いですが、黄色や緑色のドロっとした鼻水は要注意です。
やってはいけないNGケア
良かれと思ってやっていることが、愛犬を苦しめている場合があります。
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NG:市販の薬を自己判断で使う
人間用の薬や、以前処方された古い点耳薬を勝手に使うのは危険です。特に鼓膜が破れている場合に不適切な点耳薬(耳毒性のある成分など)を入れると、聴覚障害や平衡感覚の喪失などの深刻なリスクがあります。
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NG:ゴシゴシこする
耳や鼻の粘膜は非常にデリケートです。強くこすると炎症が悪化し、菌が繁殖しやすくなります。
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NG:耳毛を抜きすぎる
以前は耳毛を抜いて通気性を良くする方法が主流でしたが、現在は刺激になるため「抜きすぎない(または切るだけ)」という方針の獣医師が増えています。かかりつけ医の指示に従ってください。
よくある質問(FAQ)
専門医の受診に紹介状は必要ですか?
完全予約制や紹介制の病院も多いため、確認が必要です。
大学病院や高度医療センターなどの二次診療施設は、原則としてかかりつけ医からの紹介状が必要です。
一方、開業医が専門外来(皮膚・耳科など)を設けている場合は、直接予約できることもあります。まずは病院のHPを確認するか電話で問い合わせましょう。
高齢犬でも麻酔下の検査・処置はできますか?
事前の検査でリスクを評価した上で実施可能です。『高齢だから麻酔は無理』と諦める必要はありません。
麻酔のリスクを低減するため、麻酔専門の獣医師が在籍しているか、高度なモニタリング設備が整っているかを事前に確認することをおすすめします。
血液検査や心臓の検査を行い、麻酔のリスクよりも『治療による苦痛の軽減』というメリットが上回ると判断されれば実施します。
外耳炎は食事を変えれば治りますか?
アレルギーが原因の場合は改善する可能性があります。
繰り返す外耳炎の背景には、食物アレルギーが隠れていることがよくあります。
その場合、アレルゲン除去食(療法食)に切り替えることで耳の赤みや痒みが引くことがあります。
ただし、細菌感染なども併発しているため、食事療法と病院での治療を並行することが大切です。
犬の耳掃除はトリミングサロンでも大丈夫?
健康な耳ならOKですが、治療中は病院へ。
耳にトラブルがない場合の定期的なクリーニングならサロンで問題ありません。
しかし、すでに赤みがあったり痒がったりしている場合は、サロンでの処置が悪化させる恐れがあるため、必ず動物病院で処置を受けてください。
鼻水の検査は痛いですか?
多くの検査は鎮静や麻酔下で行うため痛みは感じません。
鼻の奥に綿棒を入れる簡単な検査程度なら無麻酔で行うこともありますが、犬が嫌がって動くと危険です。内視鏡やCTなどの精密検査は、犬の安全と苦痛軽減のために全身麻酔をかけて行うのが一般的です。
まとめ
犬には人間のような「耳鼻科」という看板は少ないですが、「皮膚・耳科」や「呼吸器科」として専門的な診療を行っている動物病院は存在します。
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探し方:HPで「耳科専門」「ビデオオトスコープ」「CT完備」などのキーワードを確認する。
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受診の目安:外耳炎が治らない、片側だけの鼻水、鼻血、いびきの変化などが見られた時。
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違い:専門診療では内視鏡やCTを駆使し、耳の奥や鼻腔内の根本的な原因(腫瘍や異物、構造異常など)を突き止めます。
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費用:精密検査や麻酔処置には数万円〜の費用がかかりますが、ペット保険の対象になることが多いです。
「たかが耳垢」「ただの鼻水」と侮らず、治りにくい症状がある場合はセカンドオピニオンを含めて専門的な獣医療を頼ってみてください。
適切な診断と治療が、愛犬の快適な暮らしを取り戻す鍵となります。





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