「うちの子、さっきから何度もトイレに行っているけれど、おしっこが出ていないみたい……」
「血尿が出て病院に行ったら、尿路結石だと言われた。これからどうすればいいの?」
猫を飼っている以上、避けては通れないほど多い病気が「尿路結石(尿石症)」です。
猫はもともと砂漠地帯で暮らしていた動物で、少ない水で生き抜くために「おしっこを限界まで濃縮する」という習性を持っています。この「濃すぎるおしっこ」こそが、結石を作り出す最大の原因です。
尿路結石は一度治っても、約半数以上の猫が再発すると言われる非常に厄介な病気です。
しかし、飼い主さんが正しい知識を持ち、食事と環境をコントロールすれば、そのリスクを劇的に下げることが可能です。
この記事では、尿路結石のメカニズムから、種類別の治療法、高額になりがちな治療費、そして今日から実践できる「最強の再発防止策」までを、獣医学的な視点で網羅的に解説します。
もくじ
猫の尿路結石には「2つの主役」がいる
猫の尿路結石は、どれも同じではありません。主に「ストルバイト」と「シュウ酸カルシウム」という2種類があり、それぞれ対処法が180度異なります。
まずは愛猫がどちらのタイプなのか(あるいは両方か)を知ることが、治療の第一歩です。
ストルバイト結石(リン酸アンモニウムマグネシウム)
シュウ酸カルシウム結石
-
特徴: 中高齢の猫(7歳以上)に増加傾向。尿が「酸性」に傾くと発生しやすい。
-
厳しい現実: ストルバイトと違い、一度できてしまうと「療法食では溶けない」ため、大きなものは手術で取り出すしかありません。
-
原因: 遺伝的体質、カルシウムの過剰摂取、過度な尿の酸化、加齢など。
| 比較項目 | ストルバイト | シュウ酸カルシウム |
| 主な年齢層 | 若年〜中年 | 中年〜高齢 |
| 尿のpH | アルカリ性(6.6以上) | 酸性(6.0以下) |
| 食事で溶けるか | 溶ける | 溶けない |
| 主な対策 | pHを下げ、ミネラルを制限 | pHを安定させ、再発を抑える |
これが出たら赤信号!尿路結石の初期症状
猫は痛みを隠す動物です。飼い主さんが以下のサインに気づいたときには、すでに結石が尿道を傷つけ、激痛を伴っている場合がほとんどです。
- トイレの回数が異常に増える(頻尿)
何度もトイレに行きますが、1回に出る尿の量はごくわずかです。
-
排尿時に鳴く・いきむ
おしっこを出すときに痛みがあるため、踏ん張りながら悲鳴のような声を上げることがあります。
-
尿の色が赤・茶色っぽい(血尿)
結石の角が膀胱や尿道の粘膜を傷つけることで血が混じります。
-
陰部をしつこく舐める
尿道の出口に違和感や痛みがあるため、ずっと舐め続けて赤くなることがあります。
-
不適切な場所での粗相
「トイレ=痛い場所」と学習してしまい、布団やソファなど柔らかい場所でおしっこをするようになります。
【緊急警告】オス猫の「尿道閉塞」は命に関わる
オス猫はメス猫に比べて尿道が非常に細く、かつ長い構造をしています。砂粒ほどの小さな結石でも尿道に詰まってしまうと、「尿道閉塞(おしっこが全く出ない状態)」に陥ります。
これが24時間以上続くと、体内に毒素が回る「尿毒症」を引き起こし、48時間以内に死に至る可能性が極めて高いです。
もし、猫がトイレで何度も踏ん張っているのに一滴も出ていない場合は、夜間でも救急病院へ走ってください。
尿路結石の治療法と気になる「お金」の話
病院では、まず尿検査、レントゲン、超音波(エコー)検査を行い、結石の大きさや位置、種類を特定します。
内科的治療(溶かす・出す)
ストルバイトであれば、療法食に切り替えて1〜2ヶ月かけて溶かします。また、尿道に詰まっている場合は、カテーテルを挿入して尿道を開通させ、膀胱内を洗浄します。
外科的治療(手術)
結石が大きすぎて尿道を通らない場合や、溶けない「シュウ酸カルシウム結石」の場合は手術となります。
-
膀胱切開術: 膀胱を開けて直接結石を取り出します。
-
会陰尿道瘻(えいんにょうどうろう)形成術: オス猫で閉塞を繰り返す場合、尿道を短く、出口を広く作り直す「女の子にする手術」を行うことがあります。
治療費の目安
動物病院は自由診療のため価格差がありますが、一般的な相場は以下の通りです。
-
初診・検査代(血液・尿・エコー): 約10,000円〜20,000円
-
尿道カテーテル処置(鎮静・入院含): 約30,000円〜50,000円
-
膀胱切開手術(入院込): 約150,000円〜250,000円
-
会陰尿道瘻手術: 約200,000円〜300,000円
※ペット保険に加入している場合、尿路結石は補償対象となることが多いですが、「既往症」として更新時に制限がかかる場合もあるため、規約を確認しましょう。
【再発防止】今日から変えるべき「3つの習慣」
尿路結石の治療が終わった後、以前と同じ生活に戻れば、またすぐに石はできます。再発を防ぐために最も重要なのは、「尿を濃くさせないこと」と「尿のpHを安定させること」です。
① 「魔法のフード」療法食を継続する
一度結石になった猫には、獣医師が指定する「療法食」が必要です。
市販の「下部尿路配慮」フードはあくまで健康な猫の予防用であり、治療後の猫にはミネラルバランスが不十分なことが多いです。
-
なぜ療法食なのか: 尿のpHを適切な範囲(6.0〜6.5程度)にコントロールし、石の原料となるマグネシウム、リン、カルシウムを極限まで計算して制限しているからです。
-
おやつは原則禁止: どんなに良い療法食を食べていても、市販のおやつを一粒与えるだけで、尿のバランスは一気に崩れます。「おやつも療法食のドライフードを数粒あげる」工夫をしましょう。
② 猫の習性を利用して「水を飲ませる」
猫に「水を飲んで」と言っても通じません。猫が自発的に飲みたくなる環境を作りましょう。
- 水飲み場を「+1」にする: 猫が歩く動線上に、最低でも2〜3箇所は水置き場を作ります。
-
器にこだわる: 陶器、プラスチック、ステンレス、ガラスなど。ヒゲが当たるのを嫌う猫も多いため、広くて浅い器も試してください。
-
「流水」の演出: 循環式の自動給水器は、猫の好奇心を刺激し、飲水量を2割〜3割増やすと言われています。
-
ウェットフードの活用: ドライ(水分10%)をウェット(水分80%)に変えるだけで、食事から大量の水分が摂れます。
-
「ぬるま湯」の提供: 特に冬場は水が冷たすぎると飲みません。30度前後のぬるま湯を好む猫は非常に多いです。
③ トイレのストレスを取り除く
「トイレが汚い」「使いにくい」と感じると、猫はおしっこを我慢します。尿が膀胱に留まる時間が長くなるほど、結晶は成長して石になります。
-
清潔の徹底: 排泄後はすぐに掃除し、月に一度はトイレ容器ごと丸洗いして消臭します。
-
数のルール: 猫の頭数+1個のトイレを設置するのが理想です。
よくある質問(FAQ)
Q:一生、療法食を食べさせないといけませんか?
A:はい、基本的にはその覚悟が必要です。
尿路結石は「なりやすい体質」が大きく関わっています。食事を元に戻した途端に再発するケースが非常に多いため、自己判断で中断せず、定期的な尿検査を行いながら継続しましょう。
Q:水道水は結石の原因になりますか?
A:日本の水道水はほとんどが「軟水」ですので、水道水そのものが結石の直接的な原因になることは稀です。
むしろ、硬水のミネラルウォーターを与える方が結石リスクを高めます。新鮮な水道水を毎日入れ替えてあげるのがベストです。
Q:多頭飼いですが、他の子も療法食を食べて大丈夫?
A:健康な成猫が短期間食べる分には大きな問題はありませんが、成長期の仔猫や妊娠中の猫には栄養不足になる恐れがあります。
自動給餌器(首輪のタグで反応するもの)を使うか、食事の時だけ部屋を分けるなどの工夫が推奨されます。
まとめ:結石は「飼い主さんの観察眼」で防げる病気
猫の尿路結石は、放置すれば命に関わりますが、早期に見つけ、生涯にわたるケアを続ければ、決して恐ろしい病気ではありません。
-
毎日おしっこの「塊の数」と「大きさ」をチェックする
-
トイレで少しでも変な動きをしたらすぐに病院へ
-
「水」と「療法食」に関しては妥協しない
愛猫が毎日気持ちよくおしっこを出し、元気に過ごせるかどうかは、一番近くにいるあなたの手にかかっています。水飲み場を一つ増やすところから始めてみませんか?


























特徴: 若い猫(1〜6歳)に多く見られる。尿が「アルカリ性」に傾くと発生しやすい。
治療の希望: 最大の特徴は、専用の療法食で「溶かすことができる」という点です。
原因: マグネシウムやリンの過剰摂取、飲水量不足など。
※ 猫では多くの場合、細菌感染を伴わない特発性のものとされています。