愛猫を家族に迎え、幸せな毎日を過ごす中で、避けては通れない大きな決断の一つが「去勢手術」です。
「体にメスを入れるのはかわいそう」「自然のままがいいのではないか」と悩む飼い主さんは少なくありません。
しかし、去勢手術は単に繁殖を防ぐためだけのものではなく、猫の健康と幸せを守るための「予防医療」としての側面が非常に強いのです。
去勢手術のメリット、デメリット、適切な時期、費用の相場、そして何より大切な術後のケアについて、深く掘り下げていきます。
愛猫にとって、そして飼い主さんにとって最善の選択ができるよう、必要な情報をすべてここに整理しました。
もくじ
猫の去勢手術を検討すべき理由
猫の去勢手術とは、オス猫の精巣を摘出する手術を指します。野生下とは異なり、人間と共に家の中で暮らす猫にとって、発情期の衝動は解消できない大きなストレスとなり得ます。
手術を行う最大の理由は、望まない繁殖を防ぐことだけではありません。発情に伴う独特の行動(スプレー行為や大きな鳴き声)を抑制し、猫自身が平穏な生活を送れるようにすること、そして将来的な生殖器系の病気を未然に防ぐことにあります。
特に、一度スプレー行為などの習慣が身についてしまうと、手術後もその癖が抜けないことがあります。そのため、適切なタイミングで手術を検討することが、愛猫との共同生活をより円滑にするための鍵となります。
去勢手術のメリットとデメリット
去勢手術には、医学的、そして行動学的な観点から多くのメリットがあります。一方で、外科手術である以上、リスクやデメリットもゼロではありません。
去勢手術による5つのメリット
手術を受けることで、猫のQOL(生活の質)は大きく向上すると考えられています。
知っておくべき3つのデメリット
メリットが大きい反面、飼い主として覚悟し、対策を講じなければならない点もあります。
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肥満になりやすくなる: ホルモンバランスの変化により代謝が落ち、食欲が増進するため、太りやすくなります。
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全身麻酔のリスク: 極めて稀ですが、麻酔によるアレルギー反応や体調悪化の可能性は否定できません。
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繁殖ができなくなる: 当然ながら、二度と子猫を残すことはできなくなります。
去勢手術の主なメリットとデメリットを比較表にまとめました。
猫の去勢手術:メリット・デメリット比較
| 項目 | メリット(利点) | デメリット(懸念点) |
| 健康面 | 生殖器疾患の予防、寿命の延伸 | 全身麻酔のリスク(稀) |
| 行動面 | スプレー、夜鳴き、喧嘩の減少 | 代謝低下による肥満リスク |
| 精神面 | 発情ストレスからの解放 | 繁殖能力の完全な消失 |
| 生活環境 | 尿の臭いの軽減、脱走防止 | 特になし |
このように、「長期的な健康と安定」を取るか、「手術リスク」を避けるかの天秤になりますが、現代の獣医療ではメリットが圧倒的に上回ると判断されるのが一般的です。
手術を受ける最適な時期とタイミング
「いつ手術を受けさせるのがベストなのか」という疑問に対しては、一般的に生後6ヶ月前後が推奨されることが多いです。
生後6ヶ月前後が推奨される理由
この時期は、初めての発情を迎える直前であることが多く、発情に伴う問題行動(スプレーなど)が習慣化する前に手術を行えるためです。また、乳歯が永久歯に生え変わる時期とも重なるため、乳歯遺残(永久歯が生えても乳歯が抜けない状態)がある場合に、手術の麻酔下で同時に抜歯できるという利点もあります。
体重と発育状況も重要
年齢だけでなく、猫の体重や発育状況も考慮されます。一般的には体重が2kg以上に成長していることが一つの目安となります。あまりに体が小さすぎると、麻酔のリスクが高まったり、術後の回復が遅れたりすることがあるためです。
個体差があるため、最終的にはかかりつけの獣医師と相談し、「健康診断の結果」を見て判断することが最も安全な方法です。
去勢手術にかかる費用と助成金制度
去勢手術は自由診療であるため、動物病院によって費用が異なります。
手術費用の内訳と相場
オス猫の去勢手術は、メス猫の避妊手術(開腹手術が必要)に比べて手術時間が短く、費用も抑えられる傾向にあります。
一般的な費用の内訳と相場は以下の通りです。
猫の去勢手術に関わる費用の目安
| 費用項目 | 相場価格 | 備考 |
| 初診・再診料 | 1,000円 〜 3,000円 | 事前の健康診断を含む場合がある |
| 事前検査代 | 5,000円 〜 10,000円 | 血液検査、レントゲンなど |
| 去勢手術代 | 10,000円 〜 20,000円 | 麻酔、技術料を含む |
| 入院費 | 0円 〜 5,000円 | 日帰り可能な病院も多い |
| 合計目安 | 15,000円 〜 35,000円 | 病院や地域により変動あり |
助成金制度を活用しよう
多くの自治体では、殺処分される不幸な猫を増やさないための対策として、飼い猫の去勢・避妊手術に対して助成金(補助金)を出しています。
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助成金額: 数千円から、場合によっては費用の半分以上が補填されることもあります。
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申請方法: 事前に自治体の窓口やウェブサイトで確認し、手術前に申請が必要な場合が多いです。
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対象条件: その自治体に居住していること、猫の登録があることなどが条件となります。
数千円の差でも、術後の療法食代などに充てられるため、お住まいの地域の制度を必ず確認することをおすすめします。
手術当日までの流れと準備
手術を決意したら、当日に向けて万全の準備を整えましょう。
1. 事前の健康診断
手術数日前までに、血液検査などを行って内臓機能に問題がないかを確認します。麻酔を安全にかけることができるかを見極める、命に関わる重要なステップです。
2. 前日からの絶食・絶水
麻酔中に胃の内容物が逆流して窒息するリスクを防ぐため、手術の数時間前から「絶食・絶水」が指示されます。
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絶食: 前日の夜(21時頃)から当日の朝まで。
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絶水: 当日の朝から。
家族の誰かが「かわいそうだから」と、うっかりおやつをあげてしまうことのないよう、徹底した情報共有が必要です。絶食ルールを守れなかった場合は、手術が延期になることを肝に銘じておきましょう。
術後のケアと自宅での過ごし方
手術自体は短時間で終わりますが、本当に大切なのは帰宅してからの数日間です。
帰宅直後の様子
麻酔の影響で、帰宅直後は足元がふらついたり、ボーッとしたりすることがあります。
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静かな環境を作る: 他の猫や子供が近寄らない、静かで暖かい場所にベッドを用意してあげましょう。
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過干渉を避ける: 心配ですが、しつこく触ったり声をかけたりせず、そっと見守ります。
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トイレの確認: 麻酔の影響で排泄のリズムが崩れることがあります。落ち着いて用を足せる環境を整えてください。
傷口の保護(エリザベスカラー・ウェア)
猫は傷口を舐めて治そうとする習性がありますが、舐めてしまうと糸が切れたり、細菌感染を起こしたりします。
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エリザベスカラー: 首周りに装着するラッパ状の保護具です。
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術後服(保護ウェア): 傷口を直接覆う服です。カラーを嫌がる猫にはこちらが有効です。
「少しくらい大丈夫だろう」という油断が、傷口の悪化を招くため、抜糸や経過観察が終わるまでは指示通りに装着させ続けましょう。
術後の食事管理:太りやすさとの戦い
手術後、最も注意すべき変化は「食欲の増加」と「代謝の低下」です。
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カロリーを20〜30%抑える: 手術前と同じ量を与え続けると、ほぼ確実に肥満になります。
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去勢猫専用のフードに切り替える: 避妊・去勢猫用のフードは、低カロリーで満腹感を得やすい工夫がされています。
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運動不足の解消: 以前よりも活発さが減る場合があるため、おもちゃで遊ぶ時間を意識的に作りましょう。
「肥満は万病の元」であり、一度太ってしまうとダイエットは非常に困難です。手術直後からの適切な管理が、愛猫の健康を守る最も確実な方法です。
よくある質問
Q:去勢手術をすると性格が変わるというのは本当ですか?
A:穏やかになる傾向がありますが、根本的な性格が別人のようになるわけではありません。 攻撃的な行動やイライラが減るため、「甘えん坊になった」「落ち着いた」と感じる飼い主さんが多いのは事実です。しかし、本来持っているその子の「らしさ」が失われるわけではなく、むしろ発情のストレスがなくなることで、本来の穏やかな性格が現れやすくなると考えるのが自然です。
Q:手術後に尿路結石になりやすいと聞きましたが、大丈夫でしょうか?
A:統計的に去勢後のオス猫は注意が必要です。 手術そのものが直接結石を作るわけではありませんが、運動不足や肥満、そして水分摂取量の減少などが重なり、尿石症(ストルバイトやシュウ酸カルシウム結石)のリスクが高まることが知られています。対策として、去勢猫用の療法食や、新鮮な水をいつでも飲める環境作り、下部尿路疾患に配慮したケアを心がけることが大切です。
Q:高齢猫でも去勢手術は受けられますか?
A:医学的に可能ですが、リスクとメリットを慎重に天秤にかける必要があります。 高齢になると内臓機能が低下するため、麻酔のリスクは子猫より高まります。一方で、高齢になってから精巣腫瘍が見つかり、治療として手術が必要になるケースもあります。予防としての手術であれば、徹底した事前検査を行い、獣医師とリスクを十分に共有した上で判断してください。
Q:手術後、いつから普段通りの生活に戻れますか?
A:通常、1週間から10日程度で元通りになります。 手術当日から翌日は安静が必要ですが、3日目あたりからは食欲も戻り、元気に動き回る子が多いです。傷口が完全に塞がり、抜糸(溶ける糸の場合は診察)が終わるまでは、激しい運動やシャンプーは控えるようにしてください。
Q:手術したのに、まだスプレー行為が止まりません。なぜですか?
A:発情の習慣化、あるいはホルモンの残存が考えられます。 手術をしてから体内の性ホルモンが完全に抜けるまでには、数週間から1ヶ月程度かかる場合があります。また、すでにスプレー行為が「癖」になってしまっている場合、ホルモンとは無関係に習慣として続けてしまうこともあります。手術はなるべく問題行動が定着する前に行うのが理想的ですが、術後も続く場合は、トイレ環境の見直しやフェロモン剤の使用を検討しましょう。
まとめ
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猫の去勢手術は、病気予防、ストレス軽減、問題行動の抑制という大きなメリットがある。
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最適な時期は生後6ヶ月前後、体重2kg以上が目安とされるが、個体差がある。
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費用は総額1.5万〜3.5万円程度だが、自治体の助成金制度を活用することで負担を軽減できる。
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手術前日の絶食・絶水は、麻酔事故を防ぐための絶対的なルールである。
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術後は代謝が落ちて太りやすくなるため、速やかに「去勢後専用フード」に切り替えるなど食事管理を徹底する。
愛猫に去勢手術を受けさせることは、飼い主さんにとって非常に勇気のいる決断です。しかし、それは決して「かわいそうなこと」ではなく、「この子と一日でも長く、健やかに一緒にいたい」という深い愛情の証でもあります。
手術のリスクを正しく理解し、万全の準備とアフターケアを行うことで、猫はこれまで以上にリラックスした幸せな日々を過ごせるようになります。不安なことはすべて獣医師に相談し、納得した上で一歩踏み出してみてください。その決断が、愛猫との絆をより一層深めてくれるはずです。















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病気の予防: 精巣腫瘍や、ホルモンバランスに関連した肛門周囲腺腫などのリスクを排除できます。
ストレスの軽減: 解消されない発情のイライラから解放され、穏やかに過ごせるようになります。
問題行動の抑制: 尿スプレー(マーキング)、夜鳴き、激しい喧嘩などのトラブルが減少します。
放浪・脱走の防止: メス猫を探して外に出たがる衝動が抑えられるため、事故や感染症のリスクが下がります。
寿命の延伸: 病気や事故のリスクが減ることで、結果として去勢した猫の方が長生きする傾向にあります。