プールで一生懸命に手足を動かしているのに、なぜか思うように前に進まない。
少し泳いだだけで息が切れてしまい、隣のレーンでゆったり泳ぐ人に追い越されてしまう。そんな経験はありませんか?
平泳ぎは、四泳法の中でも最も抵抗が大きく、かつ最も技術的な繊細さを求められる種目です。
しかし、逆に言えば「物理的なコツ」さえ掴んでしまえば、筋力に頼らずとも驚くほど楽に、そして速く泳げるようになる魅力的な泳ぎでもあります。
この記事では、多くの人が陥りがちな間違いを解き明かし、推進力を最大化するためのキック、抵抗を最小限にするストリームライン、そしてそれらを繋ぐ絶妙なタイミングについて徹底解説します。
もくじ
平泳ぎが「進まない」最大の原因は抵抗にあり
平泳ぎにおいて、私たちは常に二つの大きな力と戦っています。それは、自らが生み出す推進力と、前方から押し寄せる水の抵抗です。
なぜ他の泳ぎより疲れやすいのか
クロールや背泳ぎは、手足が常に交互に動いているため、推進力が途切れにくいという特徴があります。対して平泳ぎは、手足の動作が左右同時であり、かつ大きく膝を曲げたり腕を広げたりする動作を含むため、動作の半分以上がブレーキ(抵抗)になっているのが実情です。
多くの初心者スイマーは、進まない焦りからさらに激しく手足を動かそうとしますが、これは逆効果です。動けば動くほど前面投影面積が広がり、自ら高い壁を作っているようなものだからです。
推進力を殺す「煽り足」と「腰の沈み」
進まない原因の代表例が、足の甲で水を蹴ってしまう「煽り足」です。また、呼吸をしようと顔を高く上げすぎることで、連動して腰が沈み、体が垂直に近い角度になってしまうことも大きな要因です。
平泳ぎを極める第一歩は、「どれだけ頑張るか」ではなく「どれだけ抵抗を減らせるか」に思考をシフトすることにあります。
推進力の9割を生み出す「魔法のキック」習得術
平泳ぎにおいて、キックはエンジンそのものです。クロールではキックの推進力寄与率は1〜2割程度と言われますが、平泳ぎでは7割から9割を占めます。
ウェッジキックからウィップキックへ
かつて主流だった「ウェッジキック(挟み蹴り)」は、足を横に大きく広げて水を挟むように蹴る方法でした。しかし現在の主流は、膝の間隔を狭く保ち、鞭のようにしならせて蹴る「ウィップキック」です。
ウィップキックの利点は、足を広げすぎないためキック動作中の抵抗が圧倒的に少ないこと、そして足の裏全体で水を後ろへ押し出しやすいことにあります。
キックを劇的に変える「足首の柔軟性と形」
キックで進まない人の共通点は、蹴り出す瞬間に足首が伸びてしまっていることです。
- 引き寄せ: かかとをお尻に引き寄せるときは、足首はリラックスさせたまま。
- 足首の返し: 蹴り出す直前に、つま先を外側に向け、足首を「カギ型」に深く曲げます。
- 蹴り出し: 足の裏で水を真後ろに捉え、一気に押し出します。
この「足の裏で水を踏む」感覚が掴めると、ひと蹴りで進む距離が劇的に変わります。
キックの3ステップ練習法
| ステップ | 練習内容 | 意識するポイント |
| 陸上での形確認 | 床に座って足を動かす | 足首を曲げ、足の裏が後ろを向く感覚を覚える |
| 壁を掴んでのキック | プールの壁を持ち、顔をつけたまま蹴る | 蹴った後の「伸び」で体が浮く感覚を確認する |
| ビート板キック | ビート板を使い、一定のリズムで蹴る | 膝を広げすぎず、かかとをお尻に引き寄せる |
表にあるように、まずは水中でいきなり泳ぐのではなく、自分の足がどう動いているかを客観的に確認することが上達の近道です。
抵抗ゼロを目指す「ストリームライン」の作り方
どんなに強力なキックを持っていても、姿勢が崩れていればその力は相殺されてしまいます。
伸びの姿勢こそが「平泳ぎの本体」である
平泳ぎで最もスピードが出ているのはいつでしょうか?実は、キックを蹴り終わった直後の「伸び」の瞬間です。
このとき、指先から足先まで一直線になり、水の中を滑るような姿勢を作ることをストリームラインと呼びます。上手なスイマーは、この伸びの時間を大切にし、水に逆らわずに進む距離を稼いでいます。
頭を腕の中に入れ、お腹を締める
ストリームラインを作る際のコツは、耳を腕で挟み込むようにし、視線を真下(プールの底)に向けることです。
顔が前を向いていると、頭が抵抗となり、同時に足が沈んでしまいます。「首の後ろを伸ばす」イメージで頭の位置を固定し、お腹を軽く締めて腰が反らないように意識しましょう。
手と足が喧嘩しない!絶妙なタイミングの連動
平泳ぎで多くの人が混乱するのが、「いつ手を回し、いつ足を蹴るか」というタイミングの問題です。
「プル → 呼吸 → キック → 伸び」の黄金サイクル
手と足を同時に動かしてしまうのは、最も進まない泳ぎ方です。正しい順序は以下の通りです。
- プル(腕の動作): 前方に伸ばした手を横に広げ、水を胸の方へかき寄せます。
- 呼吸: 腕をかき寄せた反動で上半身を浮かせ、素早く息を吸います。
- キック: 呼吸を終え、手が前方に伸び始めるタイミングで足を蹴り出します。
- 伸び(グライド): 完全に一直線になり、推進力を味わいます。
「手が前、足は後」という時間差を意識するだけで、泳ぎのギクシャク感が消え、スムーズな連動が生まれます。
伸びの時間は「2秒」数える
初心者の多くは、せっかく進んでいるのにすぐに次の動作を始めてしまい、自らブレーキをかけています。
キックを蹴り終わったら、心の中で「1、2」と数えるくらいの余裕を持ちましょう。この「あえて何もしない時間」を作ることが、楽に長く泳ぐための最大のコツです。
腕の動き(プル)を効率化するスカーリング技術
平泳ぎの腕の動きは、単に水を後ろに押すのではありません。
脇を締めすぎない「ハート形」の軌道
腕を大きく回しすぎて、肩より後ろまでかいてしまうのはNGです。これではリカバリー(手を前に戻す動作)の際に大きな抵抗が発生します。
腕の軌道は、胸の前で小さなハートを描くようなイメージで行いましょう。肘を立てて水を内側に集める「スカーリング」の動きを取り入れることで、少ない力で効率よく上半身を浮かせることができます。
リカバリーは「槍のように」鋭く
かき寄せた手を前に戻すときは、水面ギリギリ、あるいは水面から少し出すような感覚で、素早く真っ直ぐに突き出します。この動きが遅いと、下半身が沈む原因になります。
よくある質問
平泳ぎの上達過程で多くの人が直面する疑問について、Q&A形式で解決策を提示します。
Q:キックをすると膝や股関節が痛くなるのですが。
A:それは「ウェッジキック(広げるキック)」で無理に強く蹴りすぎているか、膝だけで水を蹴ろうとしている可能性があります。股関節を柔らかく使い、足全体をしならせるように意識してください。痛みが続く場合は、膝の間隔を少し狭め、無理に大きな音を立てて蹴らないように修正しましょう。
Q:呼吸をしようとすると、どうしても足が沈んでしまいます。
A:顔を上に向けすぎて、背中が反っていることが原因です。呼吸は「顔を上げる」のではなく、「胸を少し前に出す」イメージで行い、視線は斜め前程度に留めます。また、腕をかくタイミングでしっかり胸を張ることで、浮力を得やすくなります。
Q:25mを泳ぎ切るまでに息が切れてしまいます。
A:無駄な動きが多い証拠です。特にキックを頻繁に打ちすぎていませんか?平泳ぎは「伸び」の間に息を整えることができる泳ぎです。一回の動作で進む距離を伸ばし、ストローク数を減らすことを目標にしてください。25mを10〜12ストローク程度で泳げるようになると、驚くほど楽になります。
Q:足の指先まで力を入れるべきですか?
A:いいえ。力を入れるのは「水を捉えて蹴り出す瞬間」だけです。引き寄せるときや、蹴り終わった後の伸びのときは、足首の力を抜いてリラックスさせることが、水の抵抗を減らし、疲労を蓄積させないコツです。
Q:水中で鼻に水が入ってしまいます。
A:水の中では常に鼻から少しずつ空気を出し続ける「ボビング」を習慣にしましょう。止めてしまうと水が入りやすくなります。「水中で吐き、水上で吸う」というリズムを、キックやプルの動作と完全に一致させることが重要です。
まとめ
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平泳ぎ上達の鍵は、筋力で押すことではなく「水の抵抗を最小限に抑える姿勢」にある
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キックは膝を広げすぎないウィップキックを意識し、足の裏で水を真後ろへ踏む感覚を掴む
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最もスピードが出るのは蹴った後の「伸び」の瞬間であり、ストリームラインを2秒維持する
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動作の順序は「プル → 呼吸 → キック → 伸び」のサイクルを厳守し、手足を同時に動かさない
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呼吸時は顔を上げすぎず、胸の浮力を利用してスムーズに水面上に口を出す
平泳ぎは、一度コツを掴むと、まるで水の上を滑るような快感を得られる泳ぎです。これまで「進まない」「疲れる」と悩んでいた方も、今回解説した「抵抗の削減」と「タイミングの連動」を意識するだけで、泳ぎが劇的に変化するはずです。
まずは次回のプールで、キックの後の「2秒の伸び」を意識することから始めてみてください。焦らず、水との対話を楽しむ余裕を持つことが、美しい平泳ぎを完成させる最短のルートです。あなたの泳ぎがより自由に、より力強いものになるよう、心から応援しています。





















