日本の企業において、従業員の働きやすさや組織の健全性を示す重要な指標の一つが「有給休暇取得率」です。
働き方改革関連法の施行により、年5日の有給休暇取得が義務化されたことで、多くの企業が自社の取得率を正確に把握し、改善に取り組む必要性に迫られています。
しかし、いざ計算を始めようとすると、
「前年度からの繰越分はどう扱うべきか」
「パートタイム労働者や中途採用者の計算はどうなるのか」
といった疑問が次々と湧いてくるのではないでしょうか。
計算方法を誤ると、自社の現状を正しく評価できないばかりか、対外的な公表数値に誤りが生じ、企業の信頼性を損なうリスクすらあります。
本記事では、厚生労働省の統計調査でも採用されている標準的な計算方法をベースに、実務で迷いやすい具体的なケース別の算出ルールまでを網羅して解説します。
この記事を読むことで、あなたの会社の正確な有給取得率を自信を持って算出できるようになるはずです。
もくじ
有給取得率を計算するための基本の公式
有給取得率の算出には、大きく分けて「厚生労働省が統計で使用する公式」と「社内分析用の公式」の2種類がありますが、
一般的に「有給取得率」として公表・報告に用いるのは、前者の厚生労働省基準です。
まず、最も標準的な計算式を確認しましょう。
この式自体は非常にシンプルですが、重要なのは「分子(取得日数)」と「分母(付与日数)」に何を含めるかという定義です。ここを間違えると、数値が大きく変動してしまいます。
分母(付与日数)の定義と注意点
分母となる「付与日数の合計」を算出する際、最も注意すべき点は「前年度からの繰越分を含めない」ことです。
有給休暇は発生から2年間有効であるため、多くの従業員が前年度からの残り(繰越分)を保持しています。
しかし、厚生労働省の『就労条件総合調査』では、分母をその年に新たに付与した日数として算出しています。
そのため、国の統計や公表データと比較する場合には、この定義に合わせるのが一般的です。
例えば、ある従業員に当年20日の有給が付与され、前年度からの繰越が10日あったとしても、分母に算入するのは「20日」だけとなります。
これは、その年度に会社が新たに提供した休暇枠に対して、どれだけ消化されたかを測るためです。
分子(取得日数)の定義と注意点
分子となる「取得日数の合計」には、「前年度からの繰越分を使って休んだ日数」も含めることができます。ここが実務上、混乱が生じやすいポイントの一つです。
従業員が有給を取得した際、それが当年度の付与分から消化されたのか、繰越分から消化されたのかに関わらず、「その年度内に実際に休んだ日数のすべて」を分子に加算します。
その結果、年度によっては「付与された日数(分母)」よりも「取得した日数(分子)」の方が多くなり、個人の取得率が100%を超えるケース発が生します。
社内分析上はそのまま合算するケースもありますが、対外公表時には注記や上限処理を行うのが一般的です。
具体的な計算例
理解を深めるために、3名の従業員がいる小規模なチームを例に計算してみましょう。
以下の表は、各従業員の当年度の付与日数と実際の取得日数をまとめたものです。
有給取得計算のサンプルデータ
| 従業員名 | 当年度付与日数(分母) | 実際の取得日数(分子) | 備考 |
| Aさん | 20日 | 15日 | 繰越分から5日消化を含む |
| Bさん | 15日 | 15日 | 当年度付与分をすべて消化 |
| Cさん | 10日 | 5日 | 週3日勤務のパート労働者 |
| 合計 | 45日 | 35日 | – |
このチームの有給取得率は、以下のようになります。
35日(取得日数合計) ÷ 45日(付与日数合計) × 100 = 77.77…%
したがって、このチームの有給取得率は約77.8%となります。
このように、分母を当年度の新規付与分に絞り、分子を実際の消化数とすることで、「その年にどれだけ休みが活性化したか」を適正に評価することができます。
厚生労働省の基準を正しく理解する
企業が自社の取得率を業界平均と比較したり、ホワイト企業認定(くるみん、えるぼし等)を目指したりする場合、厚生労働省の「就労条件総合調査」の定義に合わせる必要があります。
国が公表しているデータとの比較を行うためには、算出の「期間」と「対象者」を統一することが不可欠です。
算定期間の考え方
多くの企業では、会計年度に合わせて「4月1日から翌年3月31日」を算定期間としています。
しかし、有給休暇の付与日は従業員ごとに異なる(入社日から半年後など)ため、厳密には「各従業員の有給算定期間」がバラバラになることがあります。
実務上、全社的な統計を出す場合は、以下のいずれかの方法を採用することが一般的です。
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一斉付与日の基準:全社で有給付与日を4月1日などに統一している場合、その年度の1年間を対象とする。
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各人の直近1年間:各従業員の直近の付与日から1年間のデータを集計し、それを合算する。
自社の運用ルールに合わせて集計期間を固定し、毎年同じ基準で継続して計測することが、データの連続性を保つ鍵となります。
計算の対象となる従業員
有給取得率の計算対象には、原則として「有給休暇が付与されているすべての従業員」を含める必要があります。
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正社員:フルタイム勤務で有給が付与されている者。
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パート・アルバイト:週の所定労働日数に応じて比例付与されている者。
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契約社員・嘱託社員:雇用形態に関わらず、付与対象であれば含める。
ただし、算定期間中に一度も有給が付与されなかった従業員(例:入社して半年未満の者)については、分母が0になるため計算から除外します。
「有給休暇が1日でも付与された状態にある人」を母数にするのが正しい進め方です。
ケース別:迷いやすいイレギュラーな計算方法
基本的な式は理解できていても、現場では判断に迷う特殊なケースが多々発生します。ここでは、人事担当者から特によく寄せられる疑問を解決します。
中途採用者の計算はどうするか
年度の途中で入社した中途採用者は、有給休暇が付与されるタイミングが他の従業員と異なります。
例えば、10月1日に入社した社員は、半年後の4月1日に初めて有給が付与されます。
この場合、年度(4月〜3月)の集計において、その社員は「4月1日に付与された日数」を分母に入れ、それ以降3月末までに取得した日数を分子に入れます。
もし年度末ギリギリに付与された場合、取得できる期間が短いため、一時的にその年度の取得率は低く算出される傾向にあります。
よって、統計上一定のばらつきが生じる点には留意が必要です。
実態を正確に把握したい場合は「入社1年後以降の社員」に限定した分析を別途行うのも有効な手段です。
退職予定者の有給消化はどう扱うか
退職時に残っている有給をまとめて消化(いわゆる「全消化」)するケースは、取得率を大きく押し上げる要因となります。
法律上、退職時の有給消化を制限することはできません。
取得率の計算においても、これらは「実際に取得された日数」であるため、原則として分子に含めて計算します。
ただし、退職者の大量発生によって一時的に取得率が高まっている場合、それは「健全な休暇環境」による数値向上ではないため、
社内分析においては「在籍継続者の取得率」と「退職者を含む全体の取得率」を分けて管理することを推奨します。
時間単位年休の合算ルール
働き方改革により、有給休暇を時間単位で取得できる制度(時間単位年休)を導入している企業が増えています。これを日数の取得率に換算する場合、どのように計算すればよいのでしょうか。
一般的には、「時間数を日換算して合算する」という方法を取ります。
例えば、1日の所定労働時間が8時間の会社で、従業員が合計40時間の時間単位年休を取得した場合、40時間 ÷ 8時間 = 5日分として分子に加算します。
もし合計時間に端数が出た場合(例:45時間取得 = 5.625日)は、企業の判断によりますが、小数点以下を切り捨てず、そのまま合算して計算に用いるのが、データの精度を高める上では望ましいと言えます。
計画的付与制度を利用している場合
会社が労使協定に基づき、あらかじめ有給取得日を指定する「計画的付与制度」を導入している場合、その日数は取得率に含まれるのでしょうか。
結論から言えば、計画的付与による取得日も、すべて分子(取得日数)に含めて計算します。
計画的付与は、従業員が自由に取得できる日数は減るものの、確実に有給を消化させるための仕組みです。
そのため、取得率向上のための有効な施策として認められており、計算上も通常の有給取得と区別せずに扱います。
有給取得率を算出・公表する3つのメリット
有給取得率を計算することは、単なる事務作業ではありません。数値を可視化し、それを改善・公表することには、企業経営において多大なメリットがあります。
1. 採用力の強化とブランディング
現代の求職者、特にZ世代やミレニアル世代にとって、「休みやすさ」は給与と同等、あるいはそれ以上に重要な判断材料です。
求人票や採用サイトに「有給取得率80%」と具体的に記載できれば、「ワークライフバランスを大切にしているホワイト企業」としての強い訴求力になります。
逆に、数値が不明確な企業は、それだけで候補者の選択肢から外れてしまうリスクがあるのです。
2. リーガルリスクの回避
2019年4月より、全ての企業において「年5日の有給休暇取得」が義務化されました。
これに違反し、違反が是正されず、悪質と判断された場合には、労働基準法に基づき30万円以下の罰金が科される可能性があります。
定期的に取得率を計算・モニタリングしていれば、「期限までに5日取得できていない従業員」を早期に発見し、個別に取得を促すことができます。
これは、企業のコンプライアンスを守るための最も確実な防衛策です。
3. 生産性の向上と離職防止
適切に休暇を取ることは、従業員の心身のリフレッシュにつながり、仕事のパフォーマンスを向上させます。
「有給取得率が高い = 業務の属人化が解消されている」という側面もあります。
誰かが休んでも業務が回る体制ができている企業は、特定の担当者への負担が集中しにくく、結果としてメンタルヘルス不調の予防や、離職率の低下につながるのです。
有給取得率を高めるための具体的な実践ステップ
「計算してみたら意外と低かった……」という場合でも、悲観する必要はありません。適切な対策を講じることで、取得率は着実に向上させることができます。
取得しやすい雰囲気の醸成(意識改革)
最もコストがかからず、かつ効果的なのが「休みを推奨する文化」を作ることです。
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役員・管理職による率先した取得:上司が積極的に有給を取る姿を見せることで、部下の心理的なハードルが下がります。
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「お互い様」の精神の周知:休むことは迷惑をかけることではなく、お互いの権利であることを定期的にメッセージングします。
「有給を取ることは仕事の一部である」という認識を、組織全体に浸透させることが第一歩です。
業務の標準化とシェアリング
「忙しくて休めない」という声の裏には、その人にしか分からない業務(ブラックボックス化)が隠れていることが多々あります。
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マニュアルの整備:誰でも代わりに対応できるよう、業務フローを可視化します。
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ペア制度の導入:特定の業務にメイン担当とサブ担当を設け、不在時をフォローし合う体制を作ります。
特定の個人に依存しない組織構造を構築することが、安定した有給取得を支えるインフラとなります。
制度的な強制力を持たせる
個人の自発性に任せるだけでなく、会社の仕組みとして取得を促すことも有効です。
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有給取得推奨日の設定:ゴールデンウィークや年末年始の合間に「推奨日」を設け、全社的に休みやすくします。
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アニバーサリー休暇制度:誕生日や結婚記念日などの個人的な記念日に合わせた取得を推奨します。
「いつ休むか」をあらかじめ予定に組み込ませる工夫をすることで、取得漏れを劇的に減らすことが可能です。
有給休暇の管理を効率化する方法
従業員数が増えてくると、Excelなどでの手動計算には限界が来ます。ミスを防ぎ、リアルタイムで取得状況を把握するためには、ITツールの活用が欠かせません。
勤怠管理システムの導入
最新の勤怠管理システムを導入すれば、有給取得率は自動的に計算され、ダッシュボードでいつでも確認できるようになります。
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自動アラート機能:5日の義務化に対して、取得が遅れている従業員やその上司に自動で通知を送ることができます。
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スマホ申請・承認:申請のハードルを下げ、紙の管理による紛失や転記ミスをゼロにします。
手作業による集計時間を削減し、人事担当者が「計算」ではなく「改善施策の立案」に集中できる環境を整えることが重要です。
取得率シミュレーションの実施
年度の途中で「現在の着地予測」をシミュレーションすることも大切です。
半期が経過した時点で一度取得率を計算し、目標値に対して遅れがある部署を特定します。
早めに対策を打つことで、「年度末に駆け込みで有給消化が発生し、業務が滞る」という事態を防ぐことができます。
よくある質問
有給取得率の計算に関して、現場でよくある質問をまとめました。
Q:有給取得率に上限はありますか?
A:計算上、100%を超えることがあり得ます。
前年度の繰越分をすべて消化し、さらに当年度分も消化した場合など、分子(取得日数)が分母(付与日数)を上回るためです。
統計として公表する際は、一般的には100%を上限として記載するか、注釈を付けて実数値を記載する対応が取られます。
Q:半日単位の有給はどう数えればいいですか?
A:半日単位の有給取得は、そのまま「0.5日」として分子に加算して計算します。
例えば、1日休を10回、半日休を4回取得した社員の場合、分子は 10 + (0.5 × 4) = 12日となります。
Q:特別休暇(慶弔休暇など)は取得率に含めますか?
A:原則として含めません。
有給取得率の計算対象は、あくまで労働基準法で定められた「法定の年次有給休暇」のみです。
会社が独自に付与している慶弔休暇、夏季休暇、リフレッシュ休暇などは、分母にも分子にも算入しないのが標準的な計算方法です。
Q:取得率が低いことで労働基準監督署から指導を受けることはありますか?
A:取得率そのものの数値が低いことだけで直ちに是正勧告を受けることは稀ですが、「年5日の確実な取得」という義務を果たせていない従業員がいる場合は、法違反として指導の対象となります。
取得率は、その義務を果たせているかどうかを測るための有力な指標としてチェックされます。
Q:パートタイマーの付与日数が少ないのですが、全体の取得率を下げてしまいませんか?
A:パートタイマーの方も、付与された日数(分母)に対してどれだけ休んだか(分子)で計算するため、付与日数が少ないこと自体が必ずしも取得率を下げる要因にはなりません。
むしろ、シフト制などで柔軟に休めている場合、正社員よりも取得率が高くなり、全体の数値を押し上げるケースも多く見られます。
まとめ
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有給取得率の基本式は「取得日数合計 ÷ 付与日数合計 × 100」である
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分母には「当年度の新規付与分」のみを入れ、繰越分は含めない
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分子には「実際に消化した日数」をすべて入れ、繰越分からの消化も含める
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パート労働者や中途採用者も、有給付与対象であればすべて計算に含める
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取得率の向上は、採用力の強化、法務リスクの回避、生産性向上に直結する
有給取得率は、単なる数字の羅列ではなく、企業の文化と経営姿勢を映し出す鏡です。
正しい計算方法をマスターし、現状を正確に把握することは、より良い組織を作るための第一歩となります。
まずは昨年度のデータを集計し、自社の立ち位置を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
数値が可視化されることで、組織が抱える課題や改善のヒントが必ず見えてくるはずです。
従業員が心身ともに健やかに働ける環境づくりを通じて、企業の持続的な成長を実現していきましょう。



























有給取得率(%) = 全従業員の有給休暇取得日数の合計 ÷ 全従業員の有給休暇付与日数の合計 × 100