猫がトイレに何度も行くのに、おしっこが全く出ていない。あるいは、トイレで痛そうに鳴きながら踏ん張っている。
このような様子を愛猫が見せたとき、それは「一刻を争う緊急事態」です。
結論からお伝えします。猫の尿が出ていない場合、自宅で尿を出させるような医療行為は行うべきではありません。
むしろ、飼い主さんが良かれと思って行うマッサージや腹部の圧迫は、重篤な合併症を引き起こす危険性があります。
この記事では、尿が出ない猫に対して「やってはいけないこと」と「病院へ行くまでにすべきこと」、そしてなぜ24時間以内に行動しなければならないのかという医学的理由を詳しく解説します。
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もくじ
【最重要】絶対にやってはいけない「間違った応急処置」
愛猫が苦しそうにしていると、お腹をさすってあげたり、軽く押しておしっこを出してあげようとしたりするかもしれません。しかし、これは最も危険な禁止行為です。
尿が出ない原因の多くは、尿道に結石や砂、あるいは炎症による「栓(プラグ)」が詰まっていることにあります。
この状態で外から圧力をかけると、以下のような取り返しのつかない事態を招きます。
膀胱破裂のリスク
パンパンに膨らんだ膀胱は、いわば限界まで膨らんだ風船のような状態です。そこに指で圧力を加えると、膀胱が破裂(穿孔)してしまうことがあります。
膀胱が破れると、尿が腹腔内に漏れ出し、激痛とともに深刻な腹膜炎を引き起こします。これは即座に命に関わる事故です。
尿の逆流による腎損傷
無理に圧迫することで、出口を失った尿が腎臓の方へ逆流してしまう恐れがあります。
これにより腎臓に急激な負担がかかり、急性腎不全を誘発します。一度ダメージを受けた腎臓は元に戻りにくいため、生涯にわたる腎疾患を背負わせることになりかねません。
痛みによるショック状態
尿閉を起こしている猫は、想像を絶する痛みを抱えています。そこにお腹を触るという刺激を加えることで、強い痛みやストレスにより全身状態が悪化する恐れがあります。
なぜ「24時間」がタイムリミットなのか
猫の尿が完全に出なくなってから、多くの場合、24時間以内に重篤な尿毒症へ進行する可能性があります。
尿は体内の老廃物や毒素を排出するための唯一の手段です。それが止まるということは、自分の毒素で自分の体を破壊し始めることを意味します。
以下の表は、尿閉からの経過時間と症状の進行をまとめたものです。
尿閉の経過時間とリスクの推移
| 経過時間 | 猫の状態 | 危険度とリスク |
| 1〜12時間 | 何度もトイレに行く、鳴く、陰部を舐める | 黄色信号(早期受診が望ましい) |
| 12〜24時間 | 元気がなくなる、嘔吐する、食欲がなくなる | 赤信号(尿毒症の開始、緊急受診) |
| 24〜48時間 | 体温低下、虚脱(ぐったりする)、意識混濁 | 命の危険(心停止のリスクが極めて高い) |
| 48時間以降 | 昏睡状態 | 救命率が著しく低下(死亡の可能性) |
恐ろしい「高カリウム血症」
尿が出なくなると、血中のカリウム濃度が異常に上昇します。これを高カリウム血症と呼びますが、カリウムは心臓の拍動に深く関わっている物質です。
その濃度が限界を超えると、致死的な不整脈を引き起こす可能性があります。
おしっこが出ないだけで心臓が止まるというのは、意外に知られていない事実です。「明日になれば出るかも」という様子見は、猫にとって死を待つ時間になってしまうのです。
飼い主ができる唯一の「正しい応急処置」
病院へ行くまでの間、飼い主さんができることは「猫の負担を最小限にし、安全に運搬すること」に尽きます。医学的な処置はプロに任せ、以下のステップで準備を進めてください。
1. 物理的な安静を保つ
猫を無理に動かしたり、お腹を触ったりせず、静かな環境でキャリーケースに入れましょう。
猫が暴れると心臓への負担が増すため、バスタオルなどで優しく包み込み、視界を遮って安心させてあげることが大切です。
2. 体温管理に注意する
尿毒症が進むと、猫の体温は低下し始めます。もし体が冷たいと感じる場合は、湯たんぽやカイロをタオルで包み、キャリーケースの中に入れて保温してください。
ただし、猫が熱源から逃げられるスペースも確保し、直接肌に触れて低温やけどをさせないよう注意が必要です。
3. トイレの状況を記録する
「いつから出ていないのか」「最後に確認した尿の量(一滴でも出ていたか)」「血尿ではなかったか」などの情報をメモします。
また、もしトイレに少量の砂や石のようなものが落ちていれば、それを回収して病院へ持参してください。診断の大きな手がかりになります。
4. 即座に受診先を確保する
かかりつけの病院が休診日や夜間であっても、救急病院を探してください。
電話で「おしっこが全く出ていない」「何時間経過している」という状況を伝えることで、到着後すぐに処置が受けられるよう体制を整えてもらえます。
猫が「尿を出せなくなる」主な原因
なぜ、突然おしっこが出なくなってしまうのでしょうか。猫特有の病気や体質が深く関わっています。
下部尿路疾患(FLUTD)
猫の膀胱から尿道の出口までの間に起こるトラブルの総称です。これには「特発性膀胱炎(ストレスが原因となるもの)」や「尿石症(結石が詰まるもの)」が含まれます。
特にオス猫は尿道が非常に長く、かつ先端に向かって細くなっているため、ほんのわずかな結晶や炎症のカス(プラグ)でも簡単に詰まってしまいます。
メス猫に比べてオス猫の尿閉リスクが圧倒的に高いのは、この解剖学的な構造の違いによるものです。
尿路結石(ストルバイト・シュウ酸カルシウム)
尿の中にミネラル分が結晶化し、石となったものです。ストルバイト結石は食事療法で溶けることもありますが、シュウ酸カルシウム結石は溶けないため手術で取り除く必要があります。
これらの石が「栓」として尿道に居座ることで、排尿を完全にストップさせます。
尿道プラグ(炎症によるカス)
結石まで成長していなくても、膀胱炎によって剥がれ落ちた粘膜や白血球、タンパク質が混ざり合い、粘土のような塊(プラグ)を作ることがあります。
これが尿道に詰まることも、尿閉の非常に多い原因の一つです。
病院で行われる治療と費用の目安
病院に到着すると、まず猫の状態(心拍数や血圧)を確認し、緊急度を判定します。
一般的な治療の流れと費用の目安
| 治療内容 | 目的 | 費用の目安(概算) |
| 血液検査・エコー検査 | 尿毒症の進行度と原因の特定 | 10,000円〜20,000円 |
| 尿道カテーテル留置 | 物理的に尿道を貫通させ、尿を出す | 15,000円〜30,000円 |
| 静脈点滴(入院) | 脱水改善と体内の毒素を薄める | 1日あたり10,000円〜 |
| 膀胱洗浄 | 残った結石やプラグを洗い流す | 5,000円〜15,000円 |
※重度の尿毒症で数日間の入院が必要な場合、合計で10万円〜20万円以上の費用がかかることも珍しくありません。また、カテーテルが通らない場合は緊急手術(会陰尿道瘻形成術など)となり、さらに高額な費用と体への負担がかかります。
「お金がかかるから様子を見よう」という判断は、結果としてより高額な入院費用や、最悪の結末を招くことになります。
早期発見・早期治療こそが、経済的にも身体的にも負担を最小限に抑える唯一の方法です。
二度と「尿閉」を繰り返さないための予防策
尿閉は一度治療しても、体質や生活習慣が変わらなければ非常に高い確率で再発します。退院後、以下のポイントを徹底して見直してください。
1. 飲水量を増やす工夫
尿を薄め、結石やプラグを押し流すために水分摂取は欠かせません。
猫によって「動く水が好き」「コップから飲むのが好き」といったこだわりがあるため、愛猫の好みを把握してあげることが重要です。
2. 徹底した食事管理
尿石症の経験がある猫には、必ず獣医師が推奨する「療法食」を与えてください。市販の「下部尿路配慮」と書かれたフードは、あくまで予防用であり、すでに病歴がある猫には不十分な場合があります。
療法食以外の「おやつ」を与えることも、せっかくの食事療法の効果を台無しにするため厳禁です。
3. トイレ環境の最適化
トイレが汚れていたり、気に入らなかったりすると、猫はおしっこを我慢してしまいます。尿の滞留時間が長くなると、膀胱の中で結石ができやすくなります。
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猫の頭数+1個のトイレを設置する
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猫の体に合った大きなサイズのものを選ぶ
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常に清潔な状態を保つ
「おしっこを我慢させない環境」を作ることが、再発防止の第一歩です。
4. ストレスの軽減
特に「特発性膀胱炎」の場合、ストレスが最大の敵となります。引っ越し、新しいペット、来客、外の工事の音など、猫にとってのストレス源を可能な限り排除しましょう。
フェリウェイなどのフェロモン剤を使用することも、猫の心を落ち着かせる一つの手段として有効です。
よくある質問
Q:おしっこが出なくなって何時間までなら待てますか?
A:1分も待つべきではありません。「全く出ていない」と確信した時点で、すぐに病院へ連絡してください。
見た目には元気そうでも、体の中では刻一刻と尿毒症が進行しています。24時間を超えると救命率は急激に下がります。
Q:少しだけ(数滴)出ているなら緊急ではありませんか?
A:いいえ、緊急です。「数滴しか出ない」というのは、尿道が「不完全閉塞」を起こしている状態で、いつ完全閉塞に移行してもおかしくありません。
また、少しずつしか出せないこと自体が激しい痛みと膀胱の不快感を伴います。
Q:マッサージをしておしっこが出たというネットの情報を見ましたが?
A:それは非常に幸運な、かつ危険な例です。
たまたまプラグが外れただけかもしれませんが、その裏で膀胱を傷つけたり、腎臓にダメージを与えたりしている可能性があります。
専門知識のない人が圧迫排尿を試みることは、獣医学的に推奨されることは一切ありません。
Q:治療後、またすぐに詰まることはありますか?
A:残念ながらあります。特に退院直後は、膀胱内に残っていた砂や炎症のカスが再び尿道に詰まりやすい時期です。
病院から帰った後も、「本当に出ているか」を毎回のトイレごとに確認する必要があります。
Q:夜間で開いている病院が遠い場合、朝まで待ってもいいですか?
A:遠くても夜間救急へ行くことを強く推奨します。朝までの数時間が、猫の腎臓の寿命や生存率を決定づけるからです。
「遠いから」という理由で失われる命があるのが尿閉の怖さです。
まとめ
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猫の尿が出ないのは「超緊急事態」であり、自宅での医学的な応急処置は存在しない
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お腹をマッサージしたり圧迫したりすることは、膀胱破裂や腎損傷を招くため絶対に禁止
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尿閉から24時間で尿毒症が始まり、48時間で命を落とす可能性が極めて高い
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飼い主ができることは、安静と保温を保ち、一刻も早く病院へ搬送すること
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再発を防ぐためには、一生涯の食事療法と水分補給、ストレスのない環境作りが不可欠である
猫にとって排尿トラブルは、文字通り「命に直結する」問題です。
トイレで何度も踏ん張る姿を「便秘かな?」「少し様子を見よう」と見過ごさないでください。
あなたの迅速な決断と行動だけが、愛猫を死の淵から救い出すことができます。
もし今、愛猫の尿が出ていないのであれば、この記事を閉じてすぐに動物病院へ連絡してください。その一歩が、愛猫との未来を守ることに繋がります。




























水飲み場を増やす(猫が通る動線上に置く)
水の器を清潔に保ち、毎日新鮮な水に替える
ぬるま湯にする、あるいはウェットフードを混ぜて水分を摂らせる
水が流れるタイプの給水器を試してみる