「コーギーといえば、プリプリとした丸いお尻」というイメージを抱いている方は多いでしょう。しかし、最近では長い尻尾をなびかせて元気に走り回るコーギーを見かける機会が増えています。
初めて尻尾のあるコーギーを見たとき、多くの方が「えっ、コーギーって尻尾があるの?」と驚き、同時に「なぜ今まで切られていたんだろう?」「尻尾があったほうが可愛くない?」という疑問を抱きます。
実は、コーギーの断尾(だんび)には、現代では考えられないような歴史的な背景や古い制度が深く関わっています。そして今、世界中で「犬の本来の姿を尊重しよう」というアニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方が広まり、あえて尻尾を残す選択をする飼い主さんが急増しているのです。
この記事では、コーギーの尻尾にまつわる驚きの真実から、尻尾があることのメリット、そして実際に「尻尾あり」の子犬を迎えるための具体的な方法までを、詳しく解説していきます。
もくじ
なぜコーギーの尻尾は切られてきたのか?3つの歴史的理由
私たちがよく知る尻尾のないコーギーの姿は、決して自然なものではありません。生後数日のうちに、人間の手によって尻尾が切り落とされてきた結果です。なぜ、このような痛みを伴う習慣が定着したのでしょうか。そこには大きく分けて3つの理由があります。
1. 牧畜犬としての安全確保と怪我の防止
コーギー(特にウェルシュ・コーギー・ペンブローク)は、もともと羊や牛を追う「牧畜犬」として活躍していました。コーギーは牛の足元をすばやく潜り抜け、かかとを軽く噛んで誘導する「ヒーラー」という役割を担っていました。
この際、長い尻尾があると牛に踏まれて大怪我をするリスクがあったため、実利的な目的で断尾が推奨されるようになったのです。当時の過酷な労働環境において、犬の身を守るための「合理的な処置」として定着しました。
2. イギリスの「犬の尾税」という税金対策
18世紀のイギリスには、驚くべきことに「尻尾がある犬に対して税金を課す」という制度(犬の尾税)が存在していました。
当時は「尻尾のある犬=愛玩犬(贅沢品)」と見なされ、課税対象となりました。一方で、尻尾のない犬は「働く作業犬(生活の道具)」として免税対象となったのです。家計を助けるために、当時の畜産農家たちはこぞって愛犬の尻尾を切り、節税の証明としていたという悲しい歴史があります。
3. 狂犬病の予防やキツネとの判別という迷信
中世ヨーロッパでは、「尻尾を切れば狂犬病にかからない」「背筋が強くなって瞬発力が上がる」といった、科学的根拠のない迷信が信じられていました。
また、コーギーの毛色やふさふさとした尻尾はキツネに非常によく似ています。牧場でキツネと間違われて誤射されるのを防ぐために、識別標識として尻尾を切り落としたという説も有力です。これらの歴史が積み重なり、「コーギー=尻尾がない」という犬種標準(スタンダード)が形作られていきました。
尻尾があるコーギーとないコーギー、種類による違いとは
一言で「コーギー」と呼びますが、実は「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」と「ウェルシュ・コーギー・カーディガン」という、全く異なる2つの犬種が存在します。尻尾の有無を語る上で、この違いを知ることは非常に重要です。
ペンブロークとカーディガンの特徴比較
現在、日本で広く愛されているコーギーの多くは「ペンブローク」です。以下の表で、尻尾にまつわる両種の違いを整理しました。
| 項目 | ウェルシュ・コーギー・ペンブローク | ウェルシュ・コーギー・カーディガン |
| 尻尾の有無 | 本来はあるが、伝統的に断尾される | 生まれつきあり、断尾の習慣はない |
| 尻尾の形 | ふさふさしたキツネのような尾 | 非常に長く、豊かな毛量を持つ尾 |
| 体格・骨格 | やや小ぶりで丸みを帯びている | 骨太でがっちりしており、胴が長い |
| 耳の形 | 先端がやや尖っている | 大きく、先端が丸みを帯びている |
| 性格の傾向 | 社交的で天真爛漫、好奇心旺盛 | 落ち着きがあり、家族に忠実で警戒心も強め |
ペンブロークは「尻尾を切り落とすことがスタンダード」とされてきましたが、カーディガンは「尻尾があることが当たり前」の犬種です。もしあなたが「尻尾のあるコーギー」に強く惹かれているなら、ペンブロークだけでなく、カーディガンという選択肢も視野に入れてみると良いでしょう。
最近ではペンブロークであっても、あえて断尾をせずに「尻尾あり」として育てるブリーダーが増えています。そのため、「尻尾があるからカーディガンだ」とは一概に言えない時代になっています。
尻尾ありコーギーを選ぶ4つの大きなメリット
伝統的なコーギーの姿も魅力的ですが、尻尾を残すことには、犬の健康と暮らしにおいて数多くのメリットがあります。ここでは代表的な4つのポイントを挙げます。
1. 感情表現が豊かになりコミュニケーションが円滑になる
犬にとって尻尾は、自分の気持ちを伝えるための「言葉」そのものです。嬉しいときに激しく振り、不安なときには足の間に挟む。この繊細なシグナルがあることで、飼い主さんは愛犬の今の気持ちを正確に読み取ることができます。
また、他の犬とのトラブル防止にも役立ちます。犬同士は尻尾の動きで互いの敵意のなさを確認し合いますが、尻尾がないと「何を考えているか分からない」と誤解され、威嚇されてしまうケースもあるのです。豊かな感情表現を保持できることは、社会性の向上に大きく寄与します。
2. バランス能力が向上し運動機能が安定する
犬の尻尾は、走ったり曲がったりする際に体のバランスを保つ「舵(かじ)」のような役割を果たしています。特にコーギーのような胴長短足の体型にとって、急旋回やジャンプの際に尻尾で重心をコントロールできることは、関節への負担を減らす効果が期待できます。
尻尾があることで、本来持っている運動能力を最大限に発揮し、怪我をしにくい体づくりをサポートしてくれるのです。
3. 手術による痛みや感染症のリスクを回避できる
断尾は通常、生後数日以内の子犬に対して行われます。「まだ神経が発達していないから痛くない」と言われていた時期もありましたが、近年の研究では、新生児であっても強い痛みを感じ、それがトラウマや神経過敏の原因になる可能性が指摘されています。
また、手術による傷口からの細菌感染リスクもゼロではありません。健康な体に刃を入れる必要がなくなることは、子犬にとって最も優しく、安全な選択と言えるでしょう。
4. 「キツネのような愛らしさ」という唯一無二の魅力
見た目の美しさも大きなメリットです。尻尾のあるコーギーは、まさに「小さなキツネ」そのもの。ふさふさとした尻尾を揺らしながら歩く姿は非常に優雅で、周囲の視線を集めます。
「プリプリのお尻」も可愛いですが、「ふさふさの尻尾」があるコーギーの姿は、一度知ってしまうと虜になるほどの圧倒的な魅力を持っています。
尻尾を残すことで知っておきたいデメリットと対策
メリットが多い「尻尾あり」ですが、実際に暮らしていく中ではいくつか注意すべき点もあります。納得した上で迎えるために、現実的な課題も確認しておきましょう。
お手入れの手間が増える
コーギーの尻尾は毛量が多く、非常に汚れやすい部分です。お散歩中に草むらに入ると種やゴミが絡まったり、排泄の際に汚れてしまったりすることもあります。
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対策: 日々のブラッシングを習慣にし、尻尾の付け根や裏側の毛を清潔に保ちましょう。必要に応じて、汚れやすい部分だけ少しカットする(サマーカットなど)のも有効です。
尻尾を踏んでしまうリスク
室内でリラックスしているとき、長い尻尾を床に投げ出していることがあります。飼い主さんが気づかずに足で踏んでしまったり、ドアに挟んでしまったりする事故には注意が必要です。
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対策: 「そこに尻尾がある」という意識を常に持つこと。また、フローリングは滑りやすいため、尻尾を使ってバランスを取ろうとした際に腰を痛めないよう、カーペットやマットを敷いて環境を整えてあげましょう。
「スタンダード」を重視する場面での評価
ドッグショーなど、JKC(ジャパンケネルクラブ)の定める厳格な犬種標準を競う場では、まだ「断尾されていること」が評価基準となっている場合があります。
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対策: 家庭犬として一緒に暮らす分には、スタンダードの評価は何の影響もありません。もしドッグショーへの出陳を考えている場合は、あらかじめ所属団体や専門家に最新のルールを確認しておきましょう。世界的には「断尾された犬の出陳禁止」という流れが加速しています。
尻尾ありのコーギーを家族に迎えるための具体的な方法
「よし、尻尾のあるコーギーを迎えよう!」と決めたとしても、ペットショップの店頭で見かけることは稀です。なぜなら、ショップに並ぶ頃には既に断尾が完了しているからです。
1. 断尾しない方針のブリーダーを根気強く探す
最も確実な方法は、「最初から断尾をしない」と決めているブリーダーを探すことです。最近はアニマルウェルフェアの観点から、全頭の尻尾を残している犬舎も増えています。ブリーダーサイトやSNS(Instagramなど)で、「#コーギー尻尾あり」「#断尾しないブリーダー」などのハッシュタグで検索してみましょう。
2. 妊娠中や出産直後に予約を入れる
断尾は通常、生後3日〜5日という極めて早い段階で行われます。そのため、既に産まれてから時間が経っている子犬を見て「この子の尻尾を残してください」と言うことはできません。
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予約のタイミング: 理想は、子犬が産まれる前からブリーダーに連絡を取り、「もし産まれたら、尻尾を残してほしい」と予約(リクエスト)を入れておくことです。
3. 「ウェルシュ・コーギー・カーディガン」を検討する
「尻尾があること」を最優先にするなら、ペンブロークではなくカーディガンという犬種を選ぶのが最もスムーズです。カーディガンは断尾の習慣が一切ないため、探せば必ず尻尾のある子に出会えます。
ただし、ペンブロークに比べて国内の登録数が少なく、ブリーダーの数も限られています。出会うまでには少し時間がかかるかもしれませんが、その分、非常に深い愛情を注いで育てているブリーダーが多いのも特徴です。
よくある質問(FAQ)
Q:尻尾ありのコーギーは性格が違いますか?
A:尻尾の有無によって、その犬が本来持っている気質(性格)が変わることはありません。しかし、尻尾があることで「自分の感情を正しく伝えられる」という安心感が生まれ、他の犬や人間とのコミュニケーションにおいて、より穏やかで自信に満ちた振る舞いができるようになると言われています。
Q:成犬になってから「尻尾あり」の子を探すのは難しいですか?
A:保護犬団体や、ブリーダーの引退犬などの里親募集で、稀に尻尾のあるコーギーが出ていることがあります。また、カーディガンの場合は成犬でも当然尻尾があります。ただし、ペンブロークの「尻尾あり」の成犬はまだ数が少ないため、出会えたら非常に幸運と言えるでしょう。
Q:尻尾があることで病気になりやすいことはありますか?
A:尻尾があるからといって、特定の病気のリスクが高まるという医学的根拠はありません。むしろ、断尾による手術の痛みやストレスを避けられるため、精神面での健康維持にはプラスに働くと考えられています。清潔に保つことさえ意識していれば、健康上の懸念はほとんどありません。
まとめ
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コーギーの断尾は、歴史的な労働環境や税制、古い迷信によって始まった習慣である。
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現代の家庭犬としての生活において、尻尾を切り落とす医学的な必然性はほぼ存在しない。
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尻尾があることで、豊かな感情表現、優れたバランス感覚、手術リスクの回避という大きなメリットが得られる。
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「尻尾あり」の子を迎えるには、ブリーダーへの早期予約や、最初から尻尾があるカーディガンを選ぶのが近道。
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本来の姿を尊重することは、愛犬とのコミュニケーションをより深く、幸せなものにしてくれる。
「コーギーには尻尾がないもの」という固定観念は、今や過去のものになりつつあります。あなたが尻尾のあるコーギーに惹かれたのは、きっとその子が持つ「自然体の美しさ」と「溢れ出る生命力」を感じ取ったからではないでしょうか。
尻尾をブンブンと振って、「大好き!」という気持ちを全身で表現してくれるコーギー。その姿は、私たち飼い主にとっても、何物にも代えがたい喜びを与えてくれます。伝統を守ることも一つの価値観ですが、犬の幸福と本来の姿を天秤にかけたとき、あなたの心が動くほうを選んでみてください。
一歩踏み出して、尻尾のあるコーギーとの暮らしを選んだ先には、今までのイメージを覆すような、表情豊かでダイナミックな毎日が待っています。あなたが最高のパートナーと出会い、豊かなコーギーライフを送れることを、心から願っています。













