街中やドッグランでも滅多に見かけることがない、圧倒的な体格と気品。
超大型犬の中でも特に希少な犬種は、その存在自体が「生きる芸術」とも称されます。
しかし、その美しさや迫力に惹かれて「いつかは自分も」と憧れを抱く一方で、
「日本の住宅環境で本当に飼えるのか」「維持費や医療費はどれくらいかかるのか」といった現実的な不安を感じている方も多いはずです。
超大型犬、特に珍しい犬種を家族に迎えるということは、一般的な犬の飼育とは全く異なる次元の責任と覚悟が求められます。
この記事では、日本国内での飼育例や登録数が比較的少ないとされる超大型犬種の紹介から、その性格、飼育における具体的な課題、そして超大型犬と共に生きるために必要な「覚悟」の正体までを詳しく解説します。
あなたの憧れを、確かな決意へと変えるための情報をお届けします。
もくじ
日本では滅多に出会えない!世界が誇る珍しい超大型犬7選
世界には、体重が70kgを超えたり、立ち上がると人間以上の高さになったりする巨大な犬たちが存在します。
その中でも、特に日本での登録数が少なく、希少性の高い犬種を紹介します。
1. アイリッシュ・ウルフハウンド
公認犬種の中でも、体高が最も高い部類に入るとされている、アイルランドの国犬です。かつてはオオカミ狩りで活躍していましたが、性格は非常に穏やかで「穏やかな巨人」と呼ばれます。
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体高:80cm以上(オス)
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体重:54kg以上
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特徴:荒いワイヤー状の被毛と、威厳に満ちた佇まい。
2. レオベルガー
ライオンのような外見を目指して作出された、ドイツ原産の犬種です。ニューファンドランド、セントバーナード、ピレニアン・マウンテン・ドッグの血を引いており、非常に知的で愛情深い性格をしています。
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特徴:首周りの豊かな飾り毛(タテガミ)と、水かきのある足指。水泳が得意です。
3. オールド・イングリッシュ・マスティフ
「マスティフ」の名の起源とも言える、非常に古い歴史を持つイギリスの犬種です。体重が100kgを超える個体も珍しくなく、「パワーと威厳の象徴」とされます。
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特徴:短毛で筋肉質。家族に対しては非常に献身的ですが、見知らぬ人には警戒心を持つこともあります。
4. アナトリアン・シェパード・ドッグ
トルコ原産の護身・護畜犬です。オオカミなどの外敵から家畜を守ってきた歴史があり、非常に自立心が強く、勇敢です。初心者が飼育するのは極めて困難な犬種の一つです。
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特徴:並外れた身体能力と、冷静沈着な判断力。
5. チベタン・マスティフ
中国のチベット高原を原産とする、超大型の護衛犬です。一時は数億円の価値がついたこともある「世界で最も高価な犬」として有名になりました。
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特徴:極寒に耐える非常に分厚い被毛。独立心が強く、家を守る本能が非常に強いです。
6. ランドシーア
ニューファンドランドによく似ていますが、白黒の模様が特徴的な独立した犬種です。水難救助犬として活躍してきた歴史があり、非常に優しく、子供との相性も良いとされています。
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特徴:白地に黒の斑点。泳ぎが非常に得意で、穏やかな気質。
7. コモンドール
ハンガリー原産の牧羊犬で、全身を覆う「紐状の被毛」が最大の特徴です。モップのような外見は、外敵の攻撃から身を守り、羊の群れに紛れるためのものです。
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特徴:唯一無二のコード状の毛。手入れには多大な時間と専門知識を要します。
唯一無二の存在感!超大型犬と暮らす魅力と特別な絆
超大型犬と暮らすことは、小型犬や中型犬では決して味わえない独特の感動があります。その魅力の本質はどこにあるのでしょうか。
圧倒的な包容力と安心感
超大型犬の多くは、自分の強さを自覚しているためか、性格が非常に安定し、ゆったりとしています。
愛犬の体に寄り添った時に感じる温もりと、包み込まれるような安心感は、超大型犬の飼い主だけの特権です。
深い相互信頼の関係
体が大きい分、人間側が力でコントロールすることは不可能です。そのため、しつけを通じて「力ではなく心で通じ合う」プロセスが不可欠となります。
お互いの意志を尊重し合いながら築くパートナーシップは、非常に深いものになります。
日常が非日常に変わる喜び
散歩をしているだけで、周囲の人々を笑顔にしたり、驚かせたりします。
その圧倒的な美しさを維持し、健やかに歩く姿を見ることは、飼い主にとって何物にも代えがたい誇りとなります。
現実は甘くない?超大型犬を迎える前に知っておくべき3つの壁
憧れだけで超大型犬を迎えると、飼い主も犬も不幸な結末を迎えることになりかねません。以下の3つの「現実」を冷静に受け止める必要があります。
1. 想像を絶する経済的負担
超大型犬の維持費は、小型犬の5〜10倍以上になることもあります。
| 項目 | 具体的な負担内容 | 年間の概算(参考) |
| 食費 | 1日数百g〜1kg近くのプレミアムフードを消費することも | 30万円〜60万円 |
| 医療費 | 多くの薬剤や処置が体重を基準に算出されるため、高額になりやすい | 10万円〜(疾患時は100万円単位) |
| トリミング | 超大型犬対応の店舗が少なく、料金も高額 | 15万円〜30万円 |
| 介護・葬儀 | 介護用品や火葬費用も規格外のコスト | 数十万円(一括) |
「経済的な余裕がない限り、超大型犬の健康を守ることはできない」という事実は、どれだけ愛情があっても変えられない真実です。
2. 住環境と移動の制約
「庭があるから大丈夫」というレベルでは足りません。超大型犬が家の中でゆったりと横たわり、ストレスなく移動できるスペースが必要です。
また、「車での移動」も大きな壁となります。一般的なSUVでは狭すぎることもあり、愛犬のために大型車への買い替えや改造を検討する飼い主も少なくありません。
3. 介護という名の重労働
超大型犬も必ず老います。自力で立ち上がれなくなったとき、40kg〜70kgの愛犬を抱き上げ、排泄の世話をし、寝返りを打たせることができますか。
介護には成人男性並みの筋力と、24時間体制で見守る覚悟が求められます。
希少種を日本で迎えるための具体的な方法と注意点
珍しい超大型犬は、近所のペットショップで見つけることはまず不可能です。入手には粘り強いリサーチと行動力が必要になります。
国内の希少種専門ブリーダーを探す
まずは、日本国内にその犬種の専門ブリーダーが存在するかを確認しましょう。JKC(ジャパンケネルクラブ)に問い合わせるか、専門誌を通じて情報を集めます。
希少種の場合、「予約待ちが数年」ということも珍しくありません。ブリーダーとの信頼関係を築き、飼育環境が整っていることを証明する必要があります。
海外からの輸入を検討する
国内にブリーダーがいない、あるいは血統を重視したい場合は、海外から輸入することになります。
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信頼できる海外ブリーダーの選定
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輸出入の検疫手続き(狂犬病予防法など)
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輸送中の事故リスクとコスト
これらをすべてクリアするためには、専門の輸入代行業者を介するのが一般的ですが、その分費用も上乗せされます。
安易な個人売買に手を出さない
SNSやネット掲示板での個人売買には、遺伝性疾患の情報が隠されていたり、劣悪な環境で繁殖されていたりするリスクがあります。
「安く手に入るから」という理由で希少種を選ぶことは、将来的な高額な医療費や愛犬の苦痛に直結します。
超大型犬の健康を守るために!注意すべき疾患と寿命のこと
超大型犬の寿命は、残念ながら小型犬に比べて短い傾向にあります。平均して8年〜10年、中にはそれ以下の犬種もいます。
この限られた時間をいかに健康に過ごさせるかが、飼い主の腕の見せ所です。
1. 命に関わる「胃捻転」への対策
超大型犬で最も恐ろしいのが、胃がねじれてしまう胃捻転です。発症から数時間で死に至ることもあります。
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食後すぐの激しい運動は厳禁
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1日の食事を数回に分けて少量ずつ与える
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早食い防止の食器を活用する
これらの徹底した管理が、愛犬の命を守ります。
2. 関節への負担を最小限にする
体重が重いため、股関節形成不全などの関節トラブルが非常に多いです。
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幼少期の過度な運動制限(骨の成長を待つ)
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室内には必ず滑り止めのマットを敷き詰める
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肥満は万病の元。徹底した体重管理を行う
3. 夏場の温度管理
多くの超大型犬は寒冷地原産であり、日本の高温多湿な夏には極めて弱いです。
24時間エアコンを稼働させ、犬種によっては20度台前半を目安に、熱中症対策を徹底する必要があります。
よくある質問
Q:超大型犬をマンションで飼うことは可能ですか?
A:規約でサイズ制限がない場合でも、現実的には非常に困難です。
エレベーターに乗れるか、廊下ですれ違えるかといった問題だけでなく、足音による騒音トラブルのリスクも高いです。
基本的には一戸建て、かつ十分な広さがある環境を推奨します。
Q:珍しい犬種ほど病気になりやすいのでしょうか?
A:犬種そのものというより、「血統の閉鎖性」がリスクになることがあります。
日本国内に個体数が少ない場合、近親交配が進んでいる可能性もあり、遺伝性疾患が出やすいケースがあります。
そのため、ルーツ(血統背景)をしっかり開示してくれる信頼できる入手先を選ぶことが重要です。
Q:散歩は毎日どのくらい必要ですか?
A:犬種によりますが、1日2回、各1時間程度が目安です。
ただし、「距離を歩く」ことよりも「質」が重要です。関節への負担を考え、アスファルトだけでなく芝生の上を歩かせたり、知的な刺激を与える遊びを取り入れたりする工夫が必要です。
まとめ
珍しい超大型犬との暮らしは、あなたの人生に計り知れない豊かさと、深い愛をもたらしてくれます。その圧倒的な存在は、家族の絆を深め、日常を特別なものに変えてくれるでしょう。
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日本で希少な超大型犬は、アイリッシュ・ウルフハウンドやレオベルガーなど多様。
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魅力の裏側には、高額な維持費、住環境の確保、老後の介護といった大きな責任がある。
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入手には専門ブリーダーとの信頼関係や海外輸入の知識が必要。
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胃捻転や関節疾患など、超大型犬特有の健康管理には細心の注意を払う。
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寿命の短さを理解し、一日一日を大切に過ごす覚悟が求められる。
超大型犬を選ぶということは、自分のライフスタイルそのものを「愛犬中心」に再構築することに他なりません。
経済力、体力、そして何より深い愛情を生涯注ぎ続ける自信はありますか。
その問いに自信を持って「はい」と答えられるのであれば、あなたは世界で最も贅沢で、心震えるパートナーシップを手に入れることができるはずです。
珍しい超大型犬という、美しくも尊い命を預かる責任を誇りに、素晴らしいドッグライフを歩み始めてください。



















