愛犬の健康を守るために去勢手術を検討しているものの、体にメスを入れることに不安を感じている飼い主様は少なくありません。
手術には病気予防やストレス軽減といった大きなメリットがある一方で、全身麻酔のリスクや術後の体質変化といった注意点も存在します。
この記事では、去勢手術の最適な時期から費用相場、術後のケアまで、獣医学的な観点から詳しく解説します。
もくじ
犬の去勢手術が必要な理由と飼い主が知っておくべき基礎知識
犬の去勢手術は、精巣を摘出することで生殖能力をなくす処置を指します。
多くの飼い主様が「健康な体にメスを入れるのはかわいそう」と不安を感じるのは自然なことです。
しかし、家庭犬として人間社会で共生していく上で、去勢手術は健康管理の一環として重要な役割を果たします。
まずは手術の仕組みについて正しく理解しましょう。
去勢手術の仕組みと避妊手術との違い
去勢手術はオス犬に対して行われる手術で、陰嚢内の精巣を摘出します。
メス犬の避妊手術(卵巣・子宮の摘出)と比較すると、開腹の範囲が狭いため体への負担が比較的軽いのが特徴です。
手術の主な目的は以下の通りです。
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望まない繁殖を防ぐ
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男性ホルモンに由来する疾患を予防する
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性衝動によるストレスを緩和する
犬の去勢手術によるメリット
去勢手術を受けることで得られる恩恵は多岐にわたります。
特に将来的な病気のリスクを大幅に軽減できる点は、愛犬と長く一緒に過ごすための大きなメリットです。
また、精神的な安定が得られることで、飼い主様とのコミュニケーションがより円滑になる効果も期待できます。
生殖器系の病気を予防し寿命を延ばす可能性
去勢手術の最大の利点は、男性ホルモンが関係する特有の病気を未然に防げることです。
高齢になると発症率が高まる以下の疾患を予防できるため、結果として愛犬の寿命を延ばすことにつながります。
| 予防できる主な病気 | 内容とリスク |
| 精巣腫瘍 | 精巣が腫瘍化する病気。転移の可能性もある。 |
| 前立腺肥大 | 前立腺が大きくなり、排尿や排便が困難になる。 |
| 会陰ヘルニア | 肛門周りの筋肉が弱まり、臓器が飛び出してしまう。 |
| 肛門周囲腺腫 | 肛門の周りにできる良性腫瘍。再発を繰り返しやすい。 |
マーキングやマウンティングなどの問題行動の抑制
去勢手術によって男性ホルモンの分泌が抑えられると、攻撃性や支配欲に関連する行動が落ち着く傾向にあります。
特に室内での過度なマーキングや、他者へのマウンティングに悩みを抱えている場合、早期の手術が効果的です。
ただし、これらの行動が既に「習慣化」している場合は、手術だけで完全になくすことは難しいため、しつけとの併用が必要になる点は注意点として覚えておきましょう。
発情期のストレスから解放される
オス犬にはメス犬のような明確な発情周期はありませんが、近くに発情中のメスがいると強い性衝動に駆られます。
交尾ができない状態での性衝動は、犬にとって非常に大きなストレスとなります。
手術を行うことで、このような抗えない本能によるイライラや、興奮による脱走のリスクを減らし、穏やかな生活を送らせてあげることができます。
犬の去勢手術によるデメリットとリスク
去勢手術には多くのメリットがある一方で、無視できないデメリットも存在します。
手術を決断する前に、愛犬に起こりうる変化やリスクを正しく把握しておくことが重要です。
全身麻酔による体への負担と副作用
去勢手術は短時間で終わるものですが、全身麻酔が必要となります。
どんなに健康な犬であっても、麻酔によるショック症状やアレルギー反応のリスクはゼロではありません。
事前に血液検査などの健康チェックを入念に行うことが、安全性を高めるための必須条件となります。
持病がある場合や高齢犬の場合は、特に慎重な判断が求められます。
ホルモンバランスの変化による肥満のリスク
手術後の最も顕著な変化は、太りやすくなることです。
ホルモンバランスが変わり基礎代謝が低下する一方で、食欲が増進する傾向があります。
| 項目 | 術前の状態 | 術後の状態 |
| 代謝量 | 通常のエネルギー消費 | 約20〜30%低下する |
| 食欲 | 適正な食欲 | 増加しやすい |
| リスク | 標準体型を維持しやすい | 肥満から関節疾患等へ発展 |
術後は低カロリーなフードへの切り替えや、食事量の調整といった徹底した体重管理が必要不可欠です。
望んでも子犬を授かることができなくなる
精巣を摘出するため、当然ながら繁殖能力は失われます。
一度手術を受けると、後から「やはり子供が見たい」と思っても元に戻すことは不可能です。
将来的に愛犬の子供を残したいと考えている場合は、手術を行うべきではありません。
家族全員で十分に話し合い、後悔のない選択をすることが大切です。
犬の去勢手術を受ける最適な時期とタイミング
「いつ手術を受けさせるべきか」という時期の問題は、多くの飼い主様が最も悩むポイントです。
一般的には性成熟を迎える前が推奨されますが、近年の研究では犬種による差も指摘されています。
一般的な推奨時期は生後6ヶ月から8ヶ月頃
多くの動物病院では、乳歯から永久歯への生え変わりが完了し、性成熟が始まる前の生後6ヶ月から8ヶ月頃を推奨しています。
この時期に行うことで、マーキングなどの習癖がつくのを防ぎ、手術の効果を最大限に引き出すことが可能です。
大型犬の場合は、骨格の成長を待つために1歳を過ぎてからの方が良いという見解もありますので、獣医師と相談して個別に決定するのがベストです。
成犬や老犬になってからでも手術は可能か
成犬になってからでも、去勢手術を受けることは十分に可能です。
病気の予防効果は依然として高く、問題行動の改善が期待できる場合もあります。
ただし、老犬の場合は麻酔のリスクが高まるため、心臓や腎臓の機能を確認する詳細な事前検査が結論として必須となります。
健康状態に問題がなければ、何歳であっても手術を検討する価値はあります。
犬の去勢手術にかかる費用相場と補助金制度
手術にかかる費用は、動物病院や犬の体重によって異なります。
事前に予算を把握しておくことで、スムーズに手続きを進めることができます。
手術費用と事前検査費用の内訳
去勢手術は自由診療であるため、一律の価格はありません。
一般的には2万円から5万円程度が相場となります。
| 項目 | 概算費用 | 内容 |
| 事前検査費 | 5,000円〜10,000円 | 血液検査、身体検査など |
| 手術・麻酔費 | 15,000円〜30,000円 | 去勢手術本体、全身麻酔 |
| 入院・処置費 | 5,000円〜10,000円 | 当日預かり、内服薬など |
| 合計目安 | 25,000円〜50,000円 | 犬のサイズにより変動 |
この他に、術後の抜糸費用やカラー代が必要になる場合があります。
自治体による助成金制度の有無を確認する
多くの自治体では、望まない繁殖や殺処分を減らす目的で、去勢・避妊手術に対する助成金制度を設けています。
数千円から1万円程度の補助が出る場合があるため、お住まいの地域の役所や保健所のホームページを必ず確認しましょう。
申請には「手術前の申し込み」が必要なケースもあるため、注意点として早めの確認を推奨します。
手術当日の流れと術後のホームケア
手術当日から抜糸までの期間は、飼い主様のサポートが欠かせません。
愛犬が安心して回復に専念できるよう、正しい知識を身につけておきましょう。
手術前日の絶食から退院までのスケジュール
手術には全身麻酔を用いるため、胃の中に食べ物があると嘔吐して窒息する危険があります。
前日の夜から絶食させる必要があり、当日の朝は水も控えるよう指示されるのが一般的です。
多くの去勢手術は日帰り、あるいは1泊2日で行われます。
迎えに行った際は、麻酔の影響で足元がふらついていたり、元気がなかったりすることがありますが、過度に心配せず静かな環境を用意してあげてください。
抜糸までの傷口管理と散歩の注意点
術後の最大の敵は、犬が自分で傷口を舐めてしまうことです。
傷口が開いたり細菌感染を起こしたりするのを防ぐため、エリザベスカラーや術後服を必ず着用させましょう。
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傷口を舐めさせない(エリザベスカラーの徹底)
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激しい運動やドッグランは控える
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散歩は排泄を済ませる程度の短い時間に留める
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傷口が腫れたり、出血したりしていないか毎日観察する
約1週間から10日後の抜糸が終われば、通常の生活に戻ることができます。
よくある質問(FAQ)
去勢手術をすると性格が丸くなると聞きましたが本当でしょうか?
男性ホルモン由来の攻撃性やイライラが解消されるため、穏やかになる傾向はあります。
しかし、もともとの性格や恐怖心からくる攻撃性が劇的に変わるわけではありません。
手術はあくまで「性格を変える魔法」ではなく、ホルモンによる興奮を抑えるものと捉えてください。
手術後にエリザベスカラーを嫌がってパニックになります。どうすれば良いですか?
カラーの代わりに「術後服」を活用することをおすすめします。
服タイプであれば視界を遮らず、首への負担も少ないため、犬のストレスを大幅に軽減できます。
ただし、服の上からでも傷口を噛んでしまう子の場合は、安全のためにカラーを優先する必要があります。
太りやすくなると聞きましたが、どのような食事を選べば良いでしょうか?
術後は「去勢・避妊去勢犬用」と記載された、低カロリーで高タンパクなフードを選んでください。
今までと同じ量を食べさせると確実に太ってしまうため、パッケージに記載された術後の推奨量を守ることが重要です。
おやつも低カロリーなものに変え、家族全員で給餌ルールを統一しましょう。
手術当日に帰宅してから、一度も水を飲みません。大丈夫でしょうか?
麻酔の影響で胃腸の動きが鈍くなっていたり、緊張で喉を通らなかったりすることがあります。
当日中に全く飲まない場合は、脱水の心配があるため、翌朝一番に動物病院へ相談してください。
無理に飲ませようとせず、新鮮な水を常に横に置いておく程度に留め、愛犬を安心させてあげてください。
費用が安い病院を選んでも、安全性に問題はありませんか?
費用の安さだけで選ぶのではなく、事前検査の充実度や設備の状態を確認することが重要です。
安価な場合は「検査が含まれていない」「麻酔の管理体制が簡略化されている」などのリスクも否定できません。
納得できる説明をしてくれる、信頼できる獣医師に依頼することが最も大切です。
術後の抜糸は痛いのでしょうか?暴れないか心配です。
抜糸自体の痛みはほとんどなく、チクッとする程度で短時間で終了します。
多くの犬は問題なく終えられますが、極端に怖がりの場合は、看護師数名で優しく保定しながら行います。
飼い主様が不安そうにしていると犬に伝わってしまうため、落ち着いて見守ってあげることが大切です。
まとめ
犬の去勢手術は、将来的な病気の予防や生活の質の向上につながる、愛犬への重要なプレゼントとも言えます。
メリットだけでなく、肥満のリスクや麻酔のデメリットを十分に理解した上で、最適な時期を検討してください。
手術前後のケアは飼い主様の愛情が必要です。
信頼できる獣医師と相談しながら、愛犬にとって最善の選択をしてあげてください。


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